取引
主人公がひどい扱いされます。
そういうのが苦手な方はこの回は飛ばして下さい
那乃は痛む身体に追い打ちをかける様にひどい体勢で連れ出され、そのまま扉の外どころかその建物の外へ放り出される。
「っつう…」
「どうやって入ったか知らんが、ここは平民が軽々しく入室出来る建物ではない。皇帝陛下にお手打ちにならなかった事を感謝して即刻立ち去るがいい」
那乃を連れ出した兵士は両手を叩きながら告げた。しかしそんな兵士の言葉より今自分が追い出された建物を見て那乃は愕然としてしまう。
「そ…そんな…」
目覚めた時に学校ではない何処か別の場所だという事はすぐ理解出来た、それでも日本の…もしかしたら外国かもしれないと思っていた那乃の考えは、目の前の明らかに自分の知っている世界とは異なる絢爛豪華な建物を見た瞬間、根底から覆された
「ここは…何処なの?」
「何を言っている?…気でも狂ったのか女。ここはマルク皇帝が治めるグーラ帝国だ」
「マルク…皇帝?…グー…ラ帝国?そんな名前…聞いた事ない…」
その那乃の言葉を聞いた瞬間に兵士の顔色が豹変した。
「なっ!お前は逆賊か!?それならば即刻捕らえて。おいっ!この女を連れて行け」
「え?」
兵士が叫んだ先は建物の奥で、そこから10人以上の兵士が出てくる。そして先程とは違って首に剣があてられる。
「っひ…」
「皇帝陛下の御名を知らないなど…この愚女が…」
「や…っ、ち…違います…ほ…ほんとに知らないんです!」
那乃の言葉に耳をかす兵士などおらず、一度離された手が再び拘束され、先程とは違った場所に連れて行かれる。
「…何で…どうして?」
その呟きを何度も繰り返す那乃の目から次々と涙が溢れ出てくる。ずるずると別の兵士に運ばれた先は地下牢屋だった。『ガシャン』という音がまるで死刑執行の音に聞こえる
「こんな小さな身体で一体何を考えていたんだ?」
牢の鍵をかけた兵士に問われても那乃は何の返事も出来ない。ただただ恐怖に襲われすぐに牢の隅にうずくまる。那乃は「こんなの現実じゃない。こんなの現実なんかじゃない」と幾度も呪文のように呟く。
*
牢の前を兵士が行き交う度に怯えた那乃はいつの間にか疲労で眠りについていた。それを何度も繰り返し…那乃は今が何時なのかわからなかった。那乃の精神状態がぎりぎりの状態の中、また兵士が地下に降りてくる音が聞こえた。しかもいつもと違う複数の足音に那乃の怯えは頂点に達する。那乃が牢屋の隅で足音が過ぎるのを待っているとその足音の集団が自分の牢の前で止まった
「ふっ愚かな小娘よのぉ」
その声は那乃がこの世界に来て初めて聞いた声だった。ハッと那乃が顔をあげるとそこには記憶にある恰幅の良い男、マルク皇帝が立っていた。
*
マルク皇帝の汚い物を見る様な眼差しに那乃は涙を流した。ほんとは叫び出したいのを下唇を咬んで堪える、ここに来てからの少しの経験で、何も語らない方が良い事を学んだ。
「おい…小娘。そなたが桐か?」
那乃は突然自分の名前を呼ばれた事に驚いて返事が出来ない。そんな那乃を見て皇帝は怒りを露にし、側にいた兵士のボタンを引き千切ると牢の中の那乃に投げつけた
「そなたが桐 那乃かと聞いておる!!返事をせんかっ!!!」
「は…はぃ」
その那乃の返事を聞いて皇帝は兵士に牢の鍵を開けさせる。そしてその開いた扉から牢の中の那乃に近づいた。
「っひ!」
「最初から素直であればこのような目に遭わずにすんだのじゃ」
皇帝はそう言うと自分の扇で那乃の顎を上げる。
「御子がのぉ、目を覚ましてお前の事ばかりを口にする」
「え…遠藤君が?」
その瞬間那乃は扇で頬を思い切り打たれた。「きゃっ」という悲鳴と供に那乃は壁にぶつかり、口端から血が流れ出る。
「忌々しい。御子の名を軽々しく呼ぶなと言うておるじゃろ…」
「………」
「ここで其方を殺す事は簡単じゃが、どんなに隠してもそれが御子の耳に入らんとは言い切れん。そこでお主と取引をしようと思う。どうじゃ?」
「と…取引?」
それを言う皇帝の表情がどんなに醜いものか、見えるのは那乃だけだった。
「そうじゃ。其方は知らんだろうが、この国も含め近隣諸国は常に『魔』の恐怖に晒されておる」
「…魔?」
「その『魔』を根源から断ち切る事が出来れば、其方を元の世界に返してやろう」
「…え?」
那乃は元の世界に戻る事は出来ないと諦めつつあったのだが、皇帝の言った言葉に自分の中で希望という言葉が浮かぶ。だが素直に皇帝の言葉を信じる事は出来なかった。
「ほ…ほんとですか?」
「疑うのか?王族を?ならばこの取引は無い。この牢で野垂れ死ぬがよい」
そう言うと皇帝は立ち上がり牢を出ようとする。
「まっ待って!!やります!やらせて下さい」
那乃に選択肢などなかった
あ〜まだまだこの皇帝が出てくる。
でも次からは大丈夫!!
那乃はまだまだしんどいけどムカつく皇帝は出てきません!