異世界
主人公がひどい扱いされます。
そういうのが苦手な方はこの回は飛ばして下さい
それは少年と少女、二人にとっていつもと変わりない日常だった。強いて言うなら少年と少女がその日、同じ日直だった事ぐらい。クラスメートの授業の終わりのざわめきの中、少年こと遠藤 要は少女、桐 那乃に声をかけた。要と那乃は同じクラスメートとはいえ、ほとんど会話を交わした事も無い間柄だった。スポーツ万能、眉目秀麗で目立つ要に対し、那乃は低い身長と腰まである黒髪を持つ以外にこれといった特徴がない平凡な少女だったので、接点はまるで無かったのだ。
「桐さん、これ日誌。もう中全部書いといたから、後名前だけ貰える?」
突然要に話しかけられて那乃は驚いた。那乃ははっきり言って要の存在が苦手だった。まるで太陽のような要の笑顔を見るとどうしても怯んでしまうのだ
「あ…ありがとう」
那乃が日誌を受け取ろうとして伸ばした手を要がさっと避ける。
「え?」
「桐さん…あの…もしよかったら、今日一緒に帰りませんか?」
「無理です」
即答で断った那乃に対して要はショックを受けたような表情になるが、那乃にしてみれば誘うにしても時と場所を選んで欲しいと思った。痛い視線、特に女子からのものに彼女の口元が思わず歪んでしまう。
「そっか…残念」
「ごめんなさい。用事があるので…あ、日誌」
とぼとぼと席に戻ろうとする要の手に日誌が握られたままだったので、那乃は手を要の方に伸ばし日誌を取ろうとした。そして間違えて要の腕を掴んだ瞬間。
____二人は光に包まれた。
突然包まれた光に一瞬目が見えなくなり、頭に周りの叫び声が響く中、まるでジェットコースターが落下する時に感じる胃の浮遊感。「手を離さないで!」とすぐ側で一緒に落ちる要に言われ、彼の腕を掴んでいた手をしっかり彼から握り直された。終わりの見えない落とし穴をどこまでも落ち続ける感覚に那乃はゆっくり意識を無くしていった
*
「おぉ!!これが『日の御子』か?」
皇帝と呼ばれる恰幅の良い男が台座の横で顔を上気させていた。その視線の先には石の台座に眠る要と那乃が居た。
「ふむ…。どうやら…こちらが御子ですな…」
大神官と呼ばれる白い髭を蓄えた年寄りが杖で要を指す。
「ならばこの者はなんじゃ?」
御子以外に興味はない皇帝は、自分の大事な御子と手を繋ぐ那乃に対し、汚らわしい者を見る様に鼻に皺を寄せる。
「詳しい事はわかりかねますが…これが接続されていた為に一緒に空間を越えたのでしょうな…」
大神官は『これ』と言った時に二人が握り合っている手を指し、言い終わるまでにそれを外してしまう。そしてそのまま那乃を台座から払い落とした。那乃の身体は地面に勢い良く落ち、そのまますぐ側の階段も落ちていく。
その落下の痛みに那乃が目覚めた。「…うぅ」と呻きながら彼女が最初に目にしたのは、大理石の階段だった。立ち上がろうとしたら落下の際に打った全身に痛みが走った。
「…な…に?」
「っち…いらぬ者の方が先に目覚めおったわ…」
那乃は声がした方に目を向けると、階段の上にいる皇帝と大神官、そして台座で眠る要が見えた。那乃は目にした知っている人物に声を掛ける。
「っく、…遠…藤…く…ん?」
那乃が声を出した瞬間に皇帝から罵声を浴びせられる。
「誰に許可を得て御子に話しかけておるのじゃ!!!」
「…貴方は…誰?」
「ふんっ貴様などが知る必要は無い。もうよいっ!ここより即刻立ち去れ」
今まで学校に居た筈の自分が、全く知らない場所にいて、知らない男から罵声を浴びせられてる。そんな訳のわからない状況に那乃の思考はついていかない。
「去れって…ここが何処かもわからないのに…貴方達が原因なんですか?元の場所に返して下さい」
「五月蝿いっ!衛兵!この者を連れ出せっ!!」
皇帝の言葉と供に入口に控えていた兵が那乃に近づきその腕を取る。
「痛い!!離してっ!遠藤君!!遠藤君っ!!!」
那乃が必死に叫んでも台座の上の要は目覚めない。
「ええい!何をしておる、はよう連れ出せ!!全く下賎な女に名を呼ばれて御子が汚れたらどうするのじゃ…」
女の力で、それも傷ついた身体ではとても兵士の力に勝てる訳がなく、那乃はその場から引きずられる様に外に出された。
え〜書いてる本人がムカついてます(笑)
「何だこの皇帝?ってか要もさっさと起きて助けろよっ!!」
…って心の叫びです。