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九十七. プレゼント戦場

 ひゅおおおおおおお――、と冷たく、緩やかな風が水裟たちの髪を揺らす。テラスは周りにある照明でライトアップされ、いつもに増して明るい。それにまた折り紙で作った飾り物などがあって、より一層華やかだ。


「いや~、クリスマスっぽいね~♪」

 こちらもいつもに増して明るい八千代。よっぽど嬉しかったようだ。

 そんな八千代を見て、水裟は少し笑ってしまった。よく考えると、クリスマスパーティーなんて小さい頃にやったきりだ。もちろんたくさんの友達といるのが苦手な水裟は、思春期真っ盛りなこんな時期にクリスマスパーティーをやろうなど思いもしなかった。

 どこかで楽しいと思っている自分が不思議な水裟だったのだ。


 ☆


「では、そろそろ始めたいと思いますっ!」

 このパーティーの企画者の八千代がマイク(右握り拳)に向かって声を出しながら小規模な高らか宣言をした。それに適当に拍手で返しておく他一同。

 八千代が主に考えた計画は、とりあえずみんなで普通に食事をする。それでわいわいと盛り上がり度が最高に達した時に行われるのだ――。


 ――プレゼント交換が!


 何でこんなダッシュとエクスクラメーションマークを使って強調するか? 当たり前だ。こんなキャラが立ってたり立ってなかったりする奴らの集団、普通のプレゼントを入れるなど到底思えない。ネタ会と言っても過言ではないのだ。

 そして存在の薄い(特に雛流辺り)は濃くなるチャンスでもある。つまりは、負けられない戦いがここにはあるのだ。


 まずはウォームアップの食事。野獣の如くチキンにかぶりつき、嘲笑うかのように唐揚げを食べる。そして、農業の人が汗水たらして育てた米を何食わぬ顔で食う。


 なんておかしい描写は置いておいて、普通に食事を済ませたのだった。


 ☆


「では、お待ちかねのプレゼント交換で~す!」

 ふ、お待ちかねなんて笑わせてくれる。水裟と冬菜以外の目はそう語っていた。笑わせるようなイベントといえばそうなのだが。

 こんな戦場と化しているプレゼント交換だが、ルールは普通のものと変わりない。ラジカセで音楽が流され、音楽が止まったとき手に持っていたプレゼントを貰う。しかし、うわぁー! 自分の来ちゃったよ~! なんてものは八千代曰わくクソ同然らしいので、その場合はやり直し。以上がプレゼント交換のルールだ。

 それらを守り、楽しい――楽しいプレゼント交換にしましょう♪ 音符マークが戦闘開始の合図だとは言うまでもない。


「では、ミュージックスタート!」

 八千代がラジカセの再生ボタンを押し、すぐさま自分の椅子に着席する。

 曲は定番のあの曲。心が恐怖で覆われ、幽霊が出てきそうな、稲○淳二の……。

「何で稲川○二!?」

「いいからいいから~」

 何がいいのかさっぱり分からなかったが、水裟はプレゼント交換に再び向き合った。

 外見は意外と普通で、赤色のリボンで結ばれているのが多数だった。

 ダークな音楽が30秒ほど流れて、やっと停止された。水裟の手元にあったのは青色の紙に青色のリボンと、基本の色が青色で包装されたものだった。実際のところ、誰のものか全く想像できなかった。ただ、理解してしまうのだ。開けたら――。


 水裟の手元にあったプレゼントの中身は、野球選手のプロマイドだった。白色の服に青色のラインが平行に入っていて、背中にはローマ字で「HIIRAGI」。そして影月高校とローマ字で――。

「って、これ大牙じゃない!?」

「……ばれた?」

 右手で前髪をサランとしながら大牙が言う。

「ばれるだろ! しかもその仕草格好良くないし!」

 早速ロクでもないものが入っていた。まさか自分自身でプロマイドを作るとは、ある意味で天才だ。


「私は誰のかな~?」

 八千代がランランとしながらリボンをほどいていた。八千代が持っていたのは水裟のものではなかった。

 その箱から出てきたのは、髑髏(どくろ)で作られたネックレス。何やら黒紫なオーラを放っていて、今にもとりつかれそうな――。

「あ、それ、私のです」

 普通に挙手する矢筈。

「それは天国でも結構奥底のところにある髑髏結晶を使い、作られたネックレスでして、それを首につけることによって――」

 無駄に設定を入れてキャラを濃くしようとするのでスルー。


 続いて開けたのは奏。いろいろとバカ集団のお世話をしてくれているので変なものは当たってほしくないのが水裟の心からの願いだった。

 その箱から出てきたのは、ノートとシャープペンシル。

「あ、それ私よ」

 普通に挙手する雛流。

 ――いや、普通だよ? 危険じゃないからいいよ? でもお前は少しくらいひねろやああああ!

 思わず心中で叫んだ水裟だった。


 続いて髑髏のネックレスについて演説をし、息切れしている矢筈。

 箱から出てきたのは紙飛行機五機。いろいろ突っ込みどころがあるのだが特には――。

「これ、ところどころ赤色だったり……0って書いてあるんですけど……」

「八千代さん特製、私の0点テストで作った紙飛行機だ! ありがたく受け取れい!」

 少し欲しかった水裟だった。


 続いて雛流。ここでオーバーリアクションでもしておかないとこのまま終わってしまうが、果たしてどうだろうか。

「あ、ハンカチだ。可愛い♪」

「ご臨終です」

「何か言った? 水裟」

「いえ、何も」

 ちなみにハンカチを入れたのは奏らしい。クリスマスということでサンタさんの刺繍がされているものだった。


 続いて冬菜。相変わらずの無表情っぷリで箱を開けていく。

 中に入っていたのは極小ビキニで――。


 その後、須永が赤色に染まったのは言うまでもない。


 今度は大牙が開ける。リボンが破れているがあえて言わないでおく。本当に雑な開け方だ。

「おおー、サンタさんのぬいぐるみじゃねぇか」

 これは消去法で冬菜が入れたものだ。しかし、水裟にとって冬菜がこんな明るいものを入れるのが少し以外だった。

「クリスマスで検索したところ、サンタさんが出てきたのでこれにしました」

 ちゃんと調べていた事実に、少し心打たれてしまった水裟だった。


 ☆


 これまでみんなのプレゼントを見たわけだが……まじめふまじめ半々という、何とも中途半端な結末。

 ――真剣に入れた私が馬鹿みたいだ……。

 しかもそのプレゼントは須永に行き渡っているのだ。なぜよりによってあいつなのか。

「これは……」


 入っていたのは一枚の写真で、天国護廷7のみんなと水裟が移っている写真。修学旅行や体育祭、文化祭と言った思い出の写真が数枚入っていた。

 水裟が入れたのは、今年の天国活動。全てを写真に入れて残しておいたのだ。

 その写真を見て少し微笑むみんなだった。


 そして世間は新年を迎える――。

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