九十三. 準備完了
「ああ、面倒くさい」
文化祭まであと三日という今日。水裟たちのクラスは、文化祭に向けて毎日準備をしていた。といっても飲み物の買い出しとか、部屋の飾りつけとか、正直雑用ばかりをやっている。水裟が進んで希望したのもあったが。
今、水裟は近隣のスーパーマーケットにやって来ている。飲み物だったり、お菓子だったりを買うためで、ブラブラと飲み物コーナーを歩いている。
水裟が来ているのは「STAY」という大型スーパーだ。ショッピングモールといったほうが正しいのかもしれない。かなり広いので、それなりに疲れる。
「姫、お疲れのようですね」
「こんなに広けりゃねぇ~」
と、先ほどからダラダラしている水裟についてきた冬菜が、コーラを手に取りながら言った。正直買い物など一人で十分なのだが、「姫の傍にいるのが私の役目なので」とか言ってついてきたのだ。多分、あの賑やかな空気が苦手なだけだろう、と水裟は思う。
「冬菜」
「何でしょう?」
「文化祭楽しみ?」
「……正直ですが、なぜあれほど盛り上がるのか分かりません。ジュースを出すだけのどこが楽しいのか」
水裟は最近何となく思っていたことなのだが、冬菜は少し水裟に似ている。ああいった賑やかなところを嫌うところとか。それなりに落ち着くのもそれが原因なのかもしれない。
「書道の方が文化っぽいと思うのですけどね」
「冬菜、これからもよろしくね」
「何を急に……」
心から冬菜を大事にしようと思う水裟だった。
☆
「おおー」
水裟たちが買い出しを終えて教室に入ると、もうかなり部屋は仕上がっていた。紙で作られた花や折り紙で作られた暖簾などが飾られており、しっかりとお店になっていた。
「あ、おかえりー」
と、近くに居た奏が優しい声で水裟たちに話しかける。
「御苦労」
それに続いてなぜかリーダー気どり(一応リーダーなのだが)の須永がそう言った。相当やる気なのがすぐ分かる。こんな行動力、普段の須永には全くない。
「えっと、コーラとかオレンジジュース、あとホットケーキミックスとシロップ、こんだけでいいんだよね?」
「ああ、十分だよ和月君」
「頭かち割っていいですか?」
「申し訳ない」
すぐさま謝り、須永はいつもどおりの感じに戻った。どちらも鬱陶しいことには変わりないが。
「よし、これで準備は整ったな」
須永が普通のトーンでそう言う。飾りつけよし、テーブルを上品に見せるクロスよし、飲み物お菓子よし、やっと全てが揃った状況だ。
「あとは当日を待つだけだ! みんな、気を抜くな!」
『お……おー』
どこに気を入れる要素があるんだ、と誰もが思ったがそこには触れないでおく。
そして、文化祭は当日を迎えたのだった――。