九十一. 文化祭
「平和だね~」
「そだね~」
炎石戦から数日後、水裟と八千代はいつもの道を歩いていた。
あれからは普通に学校に通い、普通に過ごしている。何もない、のほほんとした生活。本当に平和だ。
水裟たちは学校に行くのが久しぶりに感じた。実際は一日くらいしか経っていないのだが、三十話も使うと自然とそう感じるのだろう。体育祭が本当に昔のようだ。
水裟と八千代は学校に向かってペースを保って行った。
☆
「もうすぐ文化祭だ!」
『……え?』
一時間目のロングホームルーム。ミスター・チョークが黒板の前で高らかに言う中、みんなは首を傾げた。ついこの間体育祭だったのに、というのがみんなの心の中の呟きである。
「先生、なんでこんなに早く文化祭なんですか?」
そのみんなが気になっていたことを発言したのは大牙だった。
基本、文化祭というものは体育祭の二ヶ月後にあるものだ。
「ふっ、大人の事情、ってやつかな」
ドヤ顔がむかつく。誰もがそう思った上に、それで済むと思っているミスターチョークが滑稽だった。意外とこのクラスのみんなは冷たかったりする。
「大人の事情って……ごくり」
須永は全員がスルー。
「先生、その事情って何ですか?」
大牙がもう一度みんなが気になっていることを問う。
「それは……言えないな」
「言わないとあの写真をばら撒きますよ?」
なんてことをいって携帯電話を取り出す。正直、誰もがその瞬間、大人の事情よりそっちが気になってしまっていた。
「分かった。言うからやめてくれ」
「了解」
そう言って携帯電話をポケットにしまう大牙。チョークを投げないということは相当まずい写真なのだろう。後で送ってもらおう、と思うクラス一同だった。
「理由としてはな――」
『…………』
「――二ヶ月暇だからだよ!」
教室中の空気が凍りつく。それだけで……それだけで文化祭を実行!? それがみんなの呟き(本日二回目)
「体育祭から文化祭までの二ヶ月間、何描写したら分からないだろ!」
「先生、話がリアルです」
「いいじゃないか! 文化祭したって!」
「悪いとは言ってません」
まぁ、そんなリアルな事情で文化祭が開催されることになったのだ。
影月学園の文化祭は毎年豪華で、ここら辺では有名である。
屋台が立ち並び、それぞれのクラスからの出し物、舞台での発表、いろいろとあるので子供にも評判がいい。それに加えて、生徒が一つになってやるあたりも、PTAの奥様方から高評価を貰っている。
昨年のビッグなイベントとしては、校舎全体で作ったドミノなんかが大好評だった。昨年生徒会長の土蓑倒史が企画したもので、作るのこそ大変だったが、達成感と感動は半端なかった。水裟も少し目を輝かせていたほどだ。
「みんな! 今年もいい文化祭にしよう! そして話を引っ張ろう!」
『おおお!』
こうして文化祭への準備が始まった――。