九十. 帰還
地面には血だらけになった大きな獣にガラスの破片。バーロンはピクリとも動かない。
砂煙が徐々に引いていく。立っているのは天国護廷7全員。先ほどまで倒れていた冬菜や八千代も立ちあがっていた。
「嘘だろ……」
一番驚いているのは炎石の王だった。まさかバーロンがやられるとは思っていなかったのだろう。
そのうえここは、いわゆる体育館のようなもの。観客席はあくまで観客席にすぎない。セキュリティはそんなにしっかりしていないのが現実だった。
「ふぅ、やっとですか」
そんなことを言って冬菜が一歩前に出た。それと同時に八千代も前へ出る。
「みなさんお疲れ様でした。ここからは私たちの仕事です」
「一発で仕留めなきゃいけないんだよね~」
なんてことを言って武器を構える。
それに王は少し顔を顰めた。理由は分からない。明らかに力を持っているのは炎石の王なのである。冬菜と八千代はしばらく休んでいたとはいえ、それまでに大きなダメージを受けている。勝率は互角なんてとても言えない。
「……二人とも、弓使いの女に感謝することだな」
そう言ってフワッと観客席から戦闘会場まで降りてきた。その言葉にキョトンとしたのはもちろん奏である。特に感謝されることなどした覚えがないのが彼女の本音である。
実はというと、奏が壊したあの青い石。あれは王にとって力の源になるものだったのである。四天王最強と言われていた火山がその守り役を務めていたのだが、それが敗れてしまい、今に至るわけなのだ。
たまたました行動が、天国にとっては思わぬ有利を手にしたのだ。
「だから私も最強の技で立ち向かう。水氷輪を手に入れれば……世界を手に入れれる」
そう言って紅蓮と同じような形の剣を抜きだす。それを両手で構え、綺麗に一周弧を描いた。そこには炎が発生し、天国護廷7全員を飲み込もうとしていた。
それに冬菜と八千代は武器を構えて技を発動させる。
「如月八千代」
「何」
「私はあなたが嫌いです」
「知ってるわ馬鹿! 私もお前が大嫌い!」
「でも、一個だけ共通点があるんです」
「生憎だけどね」
――水裟が一番最初の仲間だということ。
冬菜は黒色の双剣をバツ印からプラス印を空中で描いた。そう、ユナイテッドキングダムソードだ。そのド真ん中に光を放ちながら回転するビー短がはめられる。
そのままその衝撃波は大きな炎へ向かっていく。
『ライトニングキングダム!』
それはハレー彗星のように炎石の王へと襲い掛かっていった。炎など人間が軽い向かい風の中歩いていくような感覚で突破する。それは威力よりも思いが込められた一撃だからなのだろう。
そしてライトニングキングダムは王を貫いた。
☆
「ふぅ……」
こうして炎石での大戦争は幕を閉じたのだった。
「水裟……」
『おかえり』
みんなが温かい笑顔で迎えた――。
次回からは日常に戻っていきます。
そして九十話達成! これからもよろしくお願いします。