八十九. 不死鳥とオリハルコン
「まだ倒れないんですか!」
雷ノ鳥群を放ってからおよそ十分。バーロンの動きは鈍くなりつつあるが、倒れはしない。どんなに血を流してもガラスケースだけは守ろうとしているのだ。
逆に矢筈の体力は著しく削られ、汗だくになりながら技を放ち続けていた。
限界なのは分かり切っている。でもやり続けなければならない。少しでも足止めにはなっているはずなのだ。
「俺も協力するぜ! 何と言ってもな」
そう言って大牙も戦場に駆けだした。雷ノ鳥群はコントロールが難しい故、味方に当たってしまうこともある。それを防ぐために大牙は別の場所で待機していたのだが、急に飛び出してしまった。この状況を見ていられなかったのだろう。
「くれぐれも……お気をつけて」
「分かってるって」
簡単にそう言い、大牙はバーロンの顔を目掛けて昇っていった。視界はほとんど黄色で埋め尽くされている。威力は落ちてしまっても飛んでる数は変わらない。今までのダメージの蓄積も大きいのか、バーロンも動きは相当遅い。
自分の技で出来るか分からない状況の中、大牙はひたすら走っていった。
やがてバーロンの首辺りまでやってきた大牙は爪に炎を走らせた。両方の爪は真っ赤に燃え上がり、バーロンを飲み込んでしまいそうな勢いが感じられた。
「ダブルファイアクロウ!」
そしてそのまま切り裂く。しかし首もダイヤモンドのように堅かった。ダブルファイアクロウが通じるはずもなく、大牙は弾き飛ばされてしまった。
「っとと」
何とか腕の辺りで踏みとどまった大牙。しかし、もう手段がない。自分の中で一番強いダブルファイアクロウもあっさりと弾き飛ばされてしまい、手札はもう何もない状況だった。
だが何もやらないよりはマシというのがスポーツ選手の思考なのか、大牙は再び駆けあがっていった。勝利を信じて――。
今度は首よりも上を目指す。どこよりも守備が疎かになっている顔へ向かって。
しかしそこは雷ノ鳥群が最も飛び交う場所だった。電車から見る住宅街のように、ビュンビュンと飛び回り、バーロンに着実にダメージを与えて行っている。
そんな状況のここは非常に危険である。
しかし、大牙はある案を思いついた。
先ほどの戦い、雛流と紅蓮のことだ。雛流は雷ノ鳥群の大きな力で紅蓮を破壊した。それを爪に集めれば――。
大牙は何も考えず突っ込んだ。雷ノ鳥群の電撃が何回か体に当たるがそんなものは全く気にしない。
そして大牙の真上から鳥が降りかかった瞬間――
「ダブルファイアクロウ!」
――両方の爪に炎を走らせ、わざと電撃を食らう。
両方の爪は電撃と炎が混じりあい、綺麗なオレンジ色をしながら燃え盛っていた。
そのまま野球で鍛えぬいた自慢の筋力で切りつける。今度はしっかりと深く突き刺さった。バーロンはついに体勢を崩し、尻もちをついた。
そしてその瞬間――
「オリハルコンシャークブースト!」
目にも留らぬ速さでバーロンの横を一筋の矢が通り過ぎて行った。
部屋中にバリンッ! と大きな音が響き渡った――。
次回は第九十話!
そして炎石編終了!
ぜひ読んでください!