八十七. 読んだ火炎
思い切り地面を蹴って戦闘再開した雛流と紅蓮。雛流は防御など考えずに、攻撃するためだけに駆けだした。そして二発ほど紅蓮に向かって撃ちこむ。
紅蓮はそれを剣で簡単に弾き、今度は俺の番、というのを体で表した。すぐさま攻撃に移り、雛流の腹部を貫こうとする。それを雛流はまた銃弾を二発撃ち、躱していく。
こんな攻防が何回も続いた。雛流が攻めては紅蓮が防ぎ、紅蓮が攻めては雛流が防ぐ。減るのは命ではなく体力だった。
しかし、環境の違いからなのか、雛流のほうが著しく体力がなくなっていた。紅蓮はまだ平然と立っている。その分、雛流のほうが不利な状況になってきていた。
そして雛流は考える。もう確実に当てないと負ける、と。その方法は――先ほども実行した、近距離からの発砲。リスクはそれなりに大きくなるものの、命中率が格段に上がる。捨て身の技に等しかった。
でも、やらずに負けるよりはマシだと雛流は思う。だから、捨て身の技を――実行した。
地面をしっかりと蹴り、紅蓮の方へ向かって駆けだす。ツインガンをしっかり構えて発砲しようとする。
しかしなぜか、紅蓮は口の端を吊り上げた。
「やっと来たか」
そんなことを言って。
よく見ると紅蓮の剣は燃えていた。真っ赤に、ゴォゴォと。その剣は地面に突き刺さっており、地面に炎が走っていた。その、死地に等しいところに――雛流は突っ込んでしまった。
紅蓮は命中率が上がるこの方法を狙ってくると思っていたのだ。体力のことはたまたまだが、いつかはこの方法をとってくる。だって一度は成功しかけている。それもかなり成功に近い「しかけている」なのだ。そこをつけば、勝利は確実に近づく。
雛流はその考えにまんまと引っかかってしまったのだ。
「火炎地サンピラー!」
その炎は勢いよく上に向かって発射された。そして雛流は、炎に飲み込まれてしまった――。
☆
無数の矢が部屋を飛び交う。ガラスを目指して。
しかしそれにバーロンが反応しないはずがなかった。雷ノ鳥群で攻撃を受けているにも関わらず、意識をミスリルショットの方へ持っていく。全ての矢を大きな腕で進路を塞ぐ。もちろんミスリルショットに意識などないので、躱すこともなくその場に落ちた。
「あんな技いつの間に……じゃなくて、あんなに多い数を防ぐとかどうすりゃいいんだよ」
須永が言う。奏は思い返すと、みんなの前でミスリルショットをするのは初めてだということに気づいた。
初のお披露目だったが、そのミスリルショットはあっけなく敗れてしまった。
――何か方法は……。
二人は同じことを考える。バーロンが矛先を須永と奏に向けても、矢筈の雷ノ鳥群の影響で攻撃は来なかった。
必死で考える二人。雷ノ鳥群には時間制限があることを二人は知っていた。バーロンの攻撃が来る前にガラスを破壊したいところだが――。
と、奏は急に何かひらめいた。可能性は少ないかもしれないが、やる価値はある。
奏は踵を返し、もと来た道を走っていった。
「ちょ、氷川!?」
「すぐ戻ってくるから待ってて!」
奏の姿は廊下の奥の方へと消えていった――。