八十五. 鳥たちの逆襲
奏が戦闘に加わり、ついに天国護廷7がここに揃った。奏は早速攻撃するべく、弓の発射口をバーロンに向けて――倒れた。
「って、えええええええ!? ちょっと! 奏さん!」
「今欲しいものはお金でもゲームでもない……鉄分だ」
そう言って奏はその場で寝転んでしまう。やはり体力は回復し切っていないようだ。
「鉄分!? 鉄を持ってくればいいのか!」
「大牙さんは黙っててください!」
「…………」
「ああ! もう! 面倒くさい!」
そんなやり取りをしていると、知らぬ間にバーロンが矢筈に向かって拳を振りおろしていた。容赦もない化け物だ。
矢筈は間一髪でそれに気づき、バーロンのパンチをかわした。しかし、地面はガラスのように割れ、瓦礫が周りに飛び散る。バーロンは結構な回数で地面に拳を叩きつけているにも関わらず、その威力はまるで落ちていなかった。
矢筈は後ろに下がった反動を、手と足と地面の間に起こった摩擦で止めた。それから普通に立ち、バーロンの方を向く。
唯一の弱点は顔。そこだけはどうしても無防備になってしまう。無論、それは矢筈たちも同じだ。
しかしどうしても矢筈自身が行ってしまうと、存在に気づかれてしまう。背後から近づいても、最高の状態で、今の八千代である。
ならば、その隙を与えないのが一番。無数の個所から行けば……勝機は少しある。
矢筈は自分の剣を地面に突き刺した。そして黄色の魔法陣を出現させる。そこに矢筈のありったけの力をこめて、発動させた。
「雷ノ鳥群!」
黄金の電気を纏った鳥たちが一斉に飛び始めた。向かう先はバーロンの顔面。前後左右上下、様々な箇所から攻撃を開始する。
どんなに足掻いたって、バーロンの手は二本。全て防げるはずがない。
無数の鳥はバーロンに襲い掛かった。最初の二、三体は防がれたものの、その後からの鳥は確実にバーロンにダメージを与えていた。そのうえ、矢筈が現在使える技で最強の雷ノ鳥群。雷剣よりは大きなダメージを負わせられるはずだ。
そして、この戦いで初めて、バーロンが膝をついた――。
☆
「は……花嫁!?」
「そうでございます」
何の歪みもなく答える王。それに対して水裟は動揺しまくりだった。こんな状況で求婚されるなんて思ってもいなかったのだ。当然である。
逃げ出すにも逃げ出せない。扉は固く閉ざされ、ガラスを突き破って脱出なんてすれば、あの化け物に一発KO。その前に着地で死ぬ。
そんな状況で残された選択肢は一つしかなかった。
――今、この場所で王を倒す。
そうすれば――全ては丸く収まる。
「水神打撃!」
水裟の後ろには大きな水の魔神。その動きは水裟の動きとシンクロする。水裟がとった行動を魔神も行うのだ。
しかし、その魔神は真っ赤な炎で消されてしまった。いや、正確には蒸発してしまった。
この炎石の温暖すぎる気温と、王が放った技の影響で。
「余計なことしない方が身のためですよ? お姫様」
「……ッ!」
水裟は、やはりどうすることもできなかった――。