八十三. 命中率の増加
今回は特別短いです。
本当に申し訳ない。
「ここは……」
しばらく時間が経ち、再び道を歩み始めた奏。次の部屋にあったのは、天井にぶら下がる大きな石。青色が透き通っていて、とても綺麗だった。
「特に何もないよね……」
そう思い、この部屋を後にする。今度は違う音が奏の鼓膜を揺らしている。
ドカンッ! と何かが壊れる音。火の音、剣の音。これも、何かがあることを示している。
奏はゆっくりと廊下を歩いた――。
☆
「ドルフィンブースト!」
「雷球銃!」
イルカの如く華麗に宙を泳ぐブーメランと、雷の球がおうに向かって発射された。それは水裟がいる観客席へと向かっている。
一応観客席だからなのか、ガラスになっていて、突き破ることはかなり簡単だ。――しかし。
バンッ――! と、その攻撃は弾かれてしまった。止めたのはバーロン。その大きな腕でガラスへの進路を塞いでしまったのだ。
「くそっ!」
須永が戻ってきたブーメランを手に取りながら言う。雛流も顔を顰めていた。
「ナイスだバーロン。そうだな……俺はあいつらの始末をするか」
そう言ったのは紅蓮。ゆっくりと歩いて須永と雛流の元へとやってきた。
その杖を抜いて刃先を雛流へと向ける。杖の中は剣になっていたようだ。
雛流や須永は遠くから攻撃を放っていたことから分かる通り、近距離戦は得意ではない。相手が近距離戦の戦士ならばなおさらだ。雛流たちの不利は否めない。
「行くぞ」
「……どこからでもどうぞ」
珍しく雛流が挑発的な口調で言った。それに紅蓮は何の躊躇いもなく乗ってくる。挑発されても勝てばいいだけ。当たり前のことだった。そのうえ、その挑発に腹を立てているわけでもないので、剣はしっかりと安定して雛流に襲い掛かっていた。
しかしそれに恐れることなく、ツインガンの銃口を紅蓮へと向けた。
近距離戦は確かに不利である。攻撃を防ぐことができないのが最大の欠点。だが、一つだけメリットができる。それは――
――命中率の増加。
目の前にある敵の体を貫くことが簡単に出来てしまうようになる。
しかし、相手が相手。そう簡単に仕留められるはずもなかった。すぐさま反応していた紅蓮は、肩の服の部分が破れた程度で済んだ。
「須永君」
「ん?」
と、不意に須永の名前を呼び、こっちに来るよう手招きした。
須永はそれに素直に従い、雛流の元へと歩を進める。すると雛流は須永の耳元で囁いた。
「私があいつを倒す。だから須永君は水裟の救出に専念して」
「……分かった」
そう言うと、須永は雛流と紅蓮の元から離れた。
「さぁ、始めるわよ。炎道紅蓮」
「言われなくても」
雛流はツインガンを、紅蓮は剣を構え直し、お互い同時に地面を蹴った。