八十一. 再会
その大きな獣は未だに動こうとしない。挑発なのか余裕なのか、それは冬菜たちには理解できなかった。だが、とりあえず攻撃をしておいて損はないということは分かる。
冬菜は何の技も発動させずに、その獣のほうへと足を運んだ。それから、何回も、何回も斬りつける。獣に傷が出来るまで。
すると、さっきまで案山子のように動かなかった獣がやっと動き出した。何をするかと思ったら、瞬間に冬菜の方を向き、大きな拳を振りおろしてきた。突然のことで冬菜は全く反応出来ず、それの餌食となってしまう。
ドゴンッ! と大きな音が部屋に響き渡る。地面はガラスのような割れ方をして、部屋に散らばった。獣の一撃は相当な威力――いや、相当どころではない。絶大、もしくはもっと上を行く力。
冬菜はその獣に上から押しつぶされた。無事なはずがない。
八千代の体が震えた。情けなくも、怖くて動けない。あんなのに潰されたら、命がある方がおかしいくらい。まさに、サバイバルな戦いだ。
やがて獣が拳を元の位置に戻すと、へこんだ地面には倒れた冬菜の姿があった。ただひれ伏した冬菜。八千代は声を出すことすらできなかった。
「やっぱ、こいつとは張りあえないか」
と、部屋の天井から声が聞こえた。赤色の髪の毛をした、炎石独特の服装。手に持つのは魔法使いが持つような杖。八千代はその男に見覚えがあった。天国に突如現れた炎石の使者、炎道紅蓮。その紅蓮は、八千代の今の姿を見て、クスッと笑った。
「あまりの力の差に声も出ないか? まぁ、それが普通だから心配するな」
「…………ッ!」
必死で声を絞り出そうとする八千代。だがどうにも声が出ない。それは、知っていたからだ。このままじゃ全滅だということを。
「最後に名前を教えといてやるよ、銀髪のほう。こいつの名前はバーロン。炎石最強の力の保持者だ」
そう言った後、紅蓮は倒れている冬菜の元へと行った。それから冬菜を見下ろし、杖を構える。
「そして、残念だが、お前はここで終わりだ」
紅蓮は勢いよく杖を振りおろした。八千代にもどうしようもなかった――。
「終わりじゃありません」
だが、その杖は冬菜に行き届かず、制止してしまった。その杖を止めているのは真っ白な輝きを持った純白の剣。この剣は――、
「矢筈!」
杖を難なく止めた矢筈はそれをそのまま払いのけた。紅蓮もここは一歩下がり、矢筈の方を睨む。
「須永さん。冬菜さんを壁際まで運んでください」
「まかせとけ! っへっへっへっへ……」
「やっぱり大牙さん!」
「え、ちょっ!」
「ん。了解」
このピンチの状況にやってきたのは、仲間。途中で分かれた仲間がそこにはいた。矢筈、須永、大牙、雛流。一気に四人の戦士がこの部屋へと足を踏み入れた。
「みなさん、勝ちますよ!」
『おー!』
全員が一斉に武器を構え、戦闘を開始した――。
次回は、少し遅めになるかもしれません。
ご了承ください。