七十九. 攻撃防御の心理
赤と黒が混じったドロドロのマグマが奏へと迫る。火山が放った剣地噴火。
それに対するのはシルバーアーチェリー。銀色と化した鋭い矢が、そのマグマに飛んでいく。マグマを完全に防がなくてもいい。ただ……火山に命中させることだけを奏は考えていた。
シルバーアーチェリーはマグマを切り裂き、火山へと向かっていった。
「嘘だろ!?」
マグマをあっさりと抜かれたことに少し動揺しているのか、火山はすぐさまマグマの進行を止めた。それから、いきなり防御へと姿勢を変更し、剣を胸のあたりに持ってくる。
これが、奏に圧倒的有利をもたらせたとも知らずに――。
思わぬ形でマグマが取り除かれ、奏にとってはとてもラッキーな状況になった。火山が一本目の矢に気を取られた。自分のマグマをあっさり切り裂かれたら防御に移るしかないだろう。ただ、彼に逃げ場はなかったのである。マグマを出し続ければシルバーアーチェリーで大きなダメージを負う。そして、防御へと転換すれば――、
――二本目のシルバーアーチェリーで大きなダメージを負う。
まさに、攻撃は最大の防御なり、という状況。奏にとっては良い方を火山は選択してくれた。
「シルバーアーチェリー!」
再び銀の矢が発射され、火山へと襲い掛かった。
「ちくしょう……ちくしょう!」
そして、グサリと火山を貫き、矢が刺さったままの火山は、その場で倒れてしまった。
「……はふぅ」
奏もその場に座り込む。何しろ、一人で戦ったのだ。他のメンバーと疲労は比べ物にならない。
奏は壁にもたれ、しばらく休憩した――。
☆
「……姫?」
冬菜がポツリと呟く。観戦室に見える和服を着た女性。それは紛れもなく水裟だった。
その隣には、赤いマントをつけた男性。冬菜たちに顔ははっきり見えなかったが、圧倒的にその男性の地位を表すものが見えた。
「冠……」
赤と白が混じった王冠。ということは、この炎石の王だと思われる。
だったらますます動けない。ただでさえ、さきほどの戦いで大きな傷を負ってしまった。もし王と戦闘となると……冗談抜きで死んでしまう。
冬菜は八千代の方を向いた。今、ガラスケースのところに水裟がいると伝えるために――。
「……あれ?」
先ほどまで隣にいたはずの八千代の姿がそこにはなかった。いつの間にかどこかに行ってしまったのだろうか。
「やい! デカぶつ!」
そんな声が部屋から聞こえてくる。冬菜は少し汗をかいた。この状況はまさか――、と。
「……馬鹿」
八千代は水裟の姿を確認したようで、考えもなしに部屋へと飛び込んでしまったようだ。どこか、いつもより表情が険しい。
しかし、冬菜はそこじゃないところに驚いてしまった。八千代の目の前に居る大きな……怪物。
獣のような角が頭から生えていて、爪はギラリと鋭い。おまけに目も鋭く、大きさは部屋の天井の半分。この部屋は、ざっと東京タワーくらいの高さがあるので、相当でかい。そして動物なのに華麗な二足歩行。
「こんなのに……勝てと……?」
冬菜は驚きを隠せなかった。八千代はビー短を抜いてやる気満々だ。
冬菜は、はぁ、とため息をついてから、双剣を取りだして、その獣と向き合った。
次回、また長くなりそうな戦いです。
おそらく初の天国護廷7一同での戦いです。