七十七. 近距離噴火
火山はスッと腰から剣を抜いた。時代劇に出てくるような和風な柄に、しっかりと伸び、銀色に光る刀身。その刃が、奏へと襲い掛かる。
奏には防ぐ方法が限られてくる。このまま弓で防ぎ、折られたら意味がない。それから戦闘が不可能になってしまう。矢なんてもってのほかだ。残った選択肢は――躱す。
奏はうまく後ろへ下がり、火山の一撃を躱した。そして、地面に剣をたたきつけてしまった火山の僅かな隙を見逃さなかった。銅がめり込まれた指輪のついた薬指で弓を引き、勢いよく発射させた。
「ブロンズアーチェリー!」
銅色に変わったその矢は、風の如く火山に襲い掛かった。グサリ、という音が聞こえるぐらい、深く刺さったように見えた。
だが、火山は何もなかったように普通に立ちあがった。そう、椅子から立ちあがるように。
「ん? 今何かしましたか?」
なんてことを言ってくる。それに、奏は言葉を失った。自分の中で、一番の威力を持つブロンズアーチェリーが、彼にとっては幼児のパンチレベル。勝機が一気に薄れた瞬間だった。
「くそっ!」
再び、矢を火山の方に向ける。今度はミスリルショット。複数の矢を発射させて追いこもうという作戦だ。小指で矢を引き、発射させる。複数の矢が宙で弧を描き、火山へと襲い掛かった。
しかし、火山は避けようともしなかった。そして、彼が出すオーラで分かった。負ける気がしないと言っている。
ミスリルショットは全て命中した。火山にも、しっかりと行き届いている。――が。
「…………」
またしても、無傷だった。これも、あっさりと攻略されてしまった。
「意外と強いんじゃないか、と思った俺がバカだったのかもな」
そう言って、再び剣を構え直す。奏には、躱すことしか出来ない。攻撃を防げない上に、攻撃を食らわせられない。本当のピンチだ。
「止めさしてやるよ。もう終いだ」
そう言って火山は剣の柄を、自分の腰辺りまで持っていった。すると、剣はたちまち炎をあげ、赤色へと変わる。まるで太陽だった。そして、ゆっくりと剣を地面と平行にし、剣先を奏へと向ける。
そして、準備完了、といった風に、火山は奏のほうへと突撃した。
「チェックメイト」
その言葉と共に、剣先から炎がものすごい勢いで噴射された。そう、これは、噴火そのものである。
『剣地噴火』
奏の姿は、炎で見えなくなってしまった――。
☆
大きな咆哮が聞こえる。それ故に、姿は確認できていない状況。
激戦を終えた冬菜と八千代は、どんどんと先へ進み、やがて、ある部屋にたどり着いたのだが、次の部屋から聞こえた雄たけびに、少々ひるんでしまい、様子見というのが現状。
ただ、部屋がどういう構想になっているかは理解できた。先ほど、悠斗と戦った時よりも、ざっと3倍くらいの広さはある。上の方にはガラスケースで張られた観戦室みたいなところがある。何だかなめられた気分になる冬菜。
……と、冬菜は途端に目を細めた。茶色い髪をしたポニーテール。水色が主となった和服を着た女性が、観戦室に男と立っている。
「……姫?」
そう、それは水裟にしか見えなかった。