七十六. 水と雷の同心円状
早くも矢筈と須永の戦いが決着しました。
あれですね……この二人の戦いだけ最初からぐいぐい来ていたので短くなりました。
すいません。
――終われるわけがない。
もちろんそういう気持ちが彼らにはある。だって、姫を守るのが使命なのだから。
矢筈は剣を支えにして立ちあがった。須永も、自力で立つ。体力も限界。それでも、立つしかなかった。
「あれをやりましょう。須永さん」
「最初からそのつもりだよ。そうでもしないと……勝てねぇ」
二人はそう言って武器を構える。
圧倒的な有利を持っている右陽と左陽も油断は一切していなかった。それどころか、警戒している。何か来る。そう反射的に言い聞かせているようだった。
そして、ついに矢筈たちが技を仕掛けた。
須永が部屋の中央に立ち、その真後ろに矢筈が剣を構えて立っていた。そして須永がブーメランを胸のあたりまで持ち上げ、回転させながら宙に浮かせた。次第にそのブーメランからは水が発生し、同心円状の水の壁が出来上がった。
そしてそこに、雷を纏わせた剣を持った矢筈が、その水の壁に剣を刺す。
これで技は完成する。
同心円状の水の壁は、雷も纏い、端から少量の電気が放たれている。それの中心――ブーメランを精一杯投げる。
あまりに大きすぎる水の壁。避けられるはずはない。
「くっ!」
右陽が顔を顰める。躱すことが出来ないなら……力で破壊するしかないからだ。
ただ、先ほどのライトニングシャワーで、ほとんどの力を使い果たしてしまった右陽と左陽。今度は二人が絶体絶命だった。
二人に大きな水の壁が襲い掛かった――。
この部屋にいる四人はびしょ濡れ。あんなに大きな水の壁を作ったのだ。濡れないほうがおかしい。
その湿った空気が漂う部屋には、二人、倒れている姿があった。――右陽と左陽である。
矢筈たちは勝利した。短い戦いだったにも関わらず、息切れが激しい。それほどに、厳しい戦いだった。
二人はその場に座り込み、しばらく休息をとった――。
☆
場所は移ってとある部屋へ続く廊下。下は大理石で出来ている、何とも高価な作り。その廊下を八千代と冬菜は歩いていた。
悠斗との戦いを終え、道を歩み始めた二人。冬菜も体の疲れが少し飛び、今は自分で立って歩いている。歩くたびに銀色の艶のある髪がたなびく。
先ほどの部屋からだいぶ歩いた二人だが、まだ次の部屋は見えてこない。まるで永遠に続くトンネルだ。
それからまたしばらく歩くと、灯りが見えてきた。ついに次の部屋が見えたのだ。
八千代は何の疑いもなくその部屋へ足を踏み入れようとした。しかし、その時――。
――ギィヤァアアアアアアアア!
と、雄たけびが聞こえた。姿も見えない。だが、これだけは分かる。ただものじゃないのが、この先に居る。
冬菜は目つきを鋭くし、八千代も何やら怯えていた。
「とりあえず、全員との再会を待ちましょう」
「うん……」
冬菜たちはその場に静かに座った。
次回は奏です。