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七十三. 再地獄

「ファイアクロウ!」

 大牙は最初と変わらず、果敢に攻め続けていた。それはもちろん時間稼ぎに過ぎないのだが。

 雛流は秘策があると言い、大牙に時間稼ぎをお願いした。それは誰もがお忘れの新たな技だったりするのだ。

 大牙と熱刃は相変わらずな攻防を続けていた。爪で切ったかと思えば、蹴りが飛んでくる。蹴って弾き飛ばしたかと思えば、爪が襲い掛かってくる。両者ともに、一歩も引かない戦いだった。

 しかし、どんなループでもいつかは終わりがやってくる。その終了の原点は熱刃だった。

「あ~、そういうことですか~」

 何も変わらないかったるそうな声。それとは対象的に機敏な動き。熱刃は再び地面を勢い良く蹴った。大牙にまた攻撃するつもりなのだ。

 大牙も食らってたまるか、と爪を目の前に持っていった。――が。

 熱刃の狙いは大牙ではなかった。大牙をスルーし、更にその奥へと進んでいった。狙いは雛流。

 そう、熱刃は全て分かってしまった。戦闘開始時からやけに大人しいと思っていたのだ。ツインガンと爪。明らかにばっちりなコンビなのにまったく活かさない。それはツインガンを所持する雛流が、一撃で蹴りをつけようとしていたからである。

 だったら、その発信源を壊せばいいだけ。それが熱刃の考えだった。

 それに対して、大牙は反応しきれなかった。雛流に至っては反応さえしていない。

「朝希! 前だ!」

「え!?」

 大牙が叫んだときにはもう遅かった。

 熱刃の爪先(つまさき)はすでに雛流の頬に当たっていて、雛流は壁に叩きつけられてしまった。

「がっ……!」

 苦しそうに雛流が声を漏らす。何も受け身をとっていなかった雛流は大きなダメージを負ってしまい、その場に倒れてしまった。

「朝希!」

「何私を無視してるんですか~?」

 雛流の元へと駆けようとした大牙を熱刃は、またもやその華麗な蹴りで大牙を吹っ飛ばしてしまった。雛流と同様に壁に叩きつけられ、ずるずると地面へ落下していく。

 雛流と大牙はもう動けなかった。熱刃も相当な力を入れていたのだろう。足が最初より不自由だった。

 しかし、有利なのは紛れもなく熱刃だ。動けるだけ、熱刃が勝っている。その状況は否めなかった。

「……ふぅ。やっと果てましたか~」

 そう言って熱刃は少し辛そうに、地面に置いてあったスナイパーライフルを手にした。そして、狙いは定めず、発射する。

 また、ここは灼熱の部屋へと化してしまった。ゴーゴーと燃え盛る炎が大牙や雛流を包み込む。

 やがて、彼らの姿は炎に埋め尽くされてしまった。無論、熱刃も。

「さぁ、最後の仕上げですよ~」

 燃え盛る炎の奥から、気だるそうな、しかしはっきりとした声が聞こえた。絶望を好むような声の余韻が部屋中に響き渡った――。

次回、決着です。

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