七十二. 灼熱の視界
灼熱の炎に囲まれながら、雛流と大牙は戦闘を繰り広げていた。
相手の熱刃は体術を得意とするようだ。大牙をまるでサッカーボールのように、軽く、遠くに飛ばしてしまったのだ。大牙は長年野球をしているため、それなりに体は作られている。女性に簡単に吹き飛ばされるような体ではないのだ。
しかし、熱刃はそれを成し遂げてしまった。相当強い者と思える。
「ってて……」
壁に叩きつけられてしまった大牙は、何とか立ち上がり、再び熱刃と向き合った。
今は熱刃の姿がよく見える。雲一つない空にある太陽くらいに見える。さきほど熱刃のスナイパーから発射された炎は、次々と消火されていっている。大牙が技のためにたくさん協力したのもあるのだが。
しかし、炎石にいることさえ困難な雛流たちの圧倒的不利は否めなかった。
あの灼熱地獄にいた雛流と大牙は軽い火傷を負っている。それに対して熱刃は、ダブルファイアクロウの傷しかついていないのだ。もともとの体質が勝負を左右していた。
「姿が見える今がチャンスね……」
と、急に大牙の側に立っていた雛流が言った。もちろん、大牙にとっては何がチャンスなのか全く分からない。
「どういうことだよ、朝希?」
「ダブルファイアクロウが炎の力を経てパワーアップすることは、向こうも理解しているはず。そう簡単に灼熱の部屋へしないでしょ」
「……まぁ、そうかもな」
「だったら私の命中率が上昇する。大牙君が力で劣ってしまっても」
「なるほど……」
大牙はスクッと立ち上がり、頭をポリポリ掻きながら言った。
「つまり、朝希の銃弾があいつに確実に当たるよう、意識を俺に持っていかせるってことか?」
「そういうこと」
お互いの了承を得ると、大牙は肩をぐるぐる回して、知らぬ間に雛流のほうへと行っていた視線を、熱刃へ戻した。
そして、爪に炎を走らせ、戦闘の態勢をとる。
「まだ分からないんですか~。あなたには無理ですって~」
「俺には無理かもしれないが、俺たちには可能だ」
そう言って大牙は熱刃へと爪を向けた。
雛流は完全に意識が大牙へ行くのを待ち、銃弾の発射準備を進めた――。
◇ ◆ ◇
ギィィィィィ――と鈍い音を立てて、扉が開いた。
扉と言っても、ただの鉄。開いても真っ暗。光など差してこなかった。街灯のない道のように、暗闇に沈んでいる。
「ちょっと来い」
その扉を開けた男が、手に繋がっていた鎖を引っ張る。どこへ連れて行くかなど、知る由もなかった。
血だらけになった手首を、鎖がぎゅうぎゅうと締め付けていく。その度に、顔を顰め、痛みと戦う。
暗い廊下をただただ引っ張られて歩く。電源のついていないテレビのように真っ暗な廊下を。
そして着いた時に、引っ張られていた水裟は驚愕の表情を浮かべたのだった――。
~被災地に届け! サイドストーリー!~
八「というわけで! あの災害から一年が立った今も、被災者の皆様は苦しんでおられる! そこで少しでも元気を届けよう! という意味をこめて、四十五話以来のサイドストーリーだ!」
水「ていうか何で八千代が仕切るんだ?」
雛「後書きの王だからじゃないの?」
水「……まぁ、そういうことにしておくか」
八「ということで! 今から被災地の皆様にメッセージを送ってもらいます!」
矢「へぇ~、八千代さんにしては結構しっかりと……」
八「ただし! ただのメッセージでは新しさがないので、小説っぽく比喩表現を入れてみよう!」
矢「あなた本当に八千代さん?」
八「では、言い出しっぺの私から行こう」
八「被災地のみなさん。一年たった今でも、復興はかなり遠いところにあります。ですが、机の一番端っこにあるリモコンのように、いつかは届きます。あきらめないでください! 復興もいつかは届きます!」
………………………………………
天国護廷7&水「台無しだぁああああああああ!」
奏「何でいい感じだったのにそこで崩しちゃうの!?」
八「ええええええ」
水「やっぱり八千代だな」
八「ええええええ」
冬「本当に馬鹿ですね……馬鹿ですね」
八「なんでお前はちょいちょい傷つくことを二回言うんだ!」
冬「次は私が行きます」
八「失敗しろ!」
水「大丈夫なのかこれ……」
冬「私にも苦しいときがありました。親に捨てられ、地獄に捨てられ、人生、孤独のほうが多いです。ですが、今は良い仲間に巡り合っています。被災地のみなさんも同じです。良い仲間は悲しみを半分にしてくれます。復興目指して頑張ってください! ……でももしまた裏切られたら……」
天国護廷7&水「重いわぁああああああああ!」
八「失敗したぞ!」
大「いい感じだったのにな」
雛「何ていうネガティブ思考……」
水「ていうかネタバレしてない?」
冬「気のせいです」
八「んじゃあ、次! 大牙!」
大「俺!?」
大「俺は野球をやっています。ちなみに強いです。誰にも負けません。俺のように皆さんも強く、負けないでください!」
天国護廷7&水「自慢かよぉおおおおおおおおおお!」
水「ポンコツ!」
八「ポンコツ!」
雛「ポンコツ!」
矢「ポンコツ!」
奏「ポンコツ!」
冬「ポンコツですね……ポンコツですね」
大「みんな酷い」
全員「お前が酷い」
八「えっと……じゃあ……水裟!」
水「ええ!? もう主人公行くの!?」
八「早く行け!」
水「私はこの話の主人公です。主人公だとたくさん災難が降り注ぎます。でも主人公はそれを払いのけます。みなさんは人生の主人公だと思っています。だから主人公のように災難を払いのけてください」
天国護廷7「主人公主人公うるせぇええええええええ!」
八「結局自慢かよ!」
大「俺と同じかよ!」
天国護廷7&水「うん」
大「否定しろよ!」
八「えっと……雛流!」
雛「任せなさい!」
雛「私は賢いです。賢い人は知恵を振り絞って解決策を練ります。みなさんも私のように知恵を振り絞って頑張ってください!」
天国護廷7&水「また自慢かよぉおおおおおお!」
八「何なの!? 何でみんなそんなにアピールしたいの!?」
奏「八千代ちゃんのって結構マシだったんじゃない?」
水「そんな気がしないこともない」
八「じゃあ次! 矢筈!」
矢「あいあいさ~」
矢「私の技、雷ノ鳥群は一羽の鳥では成り立ちません。でも、たくさんの鳥たちが集まって完成します。それと同じです。みなさんも雷ノ鳥群のように復興を目指して頑張ってください!」
天国護廷7&水「分かりづらい!」
八「あくまで例えなんだから分かりやすいの来いよ!」
矢「ええ!? 分かりやすかったじゃないですか!」
八「分かるのは読者だけだ!」
水「えっと……奏大丈夫?」
奏「頑張るよ」
水「じゃあ、ラスト! 奏! 頼んだ!」
奏「はいは~い」
奏「私にはこんなのにしか例えられないけど……。音楽って絶対一つの楽器じゃ成り立たないの。私がやってるフルートだけじゃ、音楽のすべてを表現できない。でも、私の後ろには、トランペット、トロンボーン、打楽器、サックス……色んな楽器と演奏者がついている。そして、一つの音楽になる。みなさんも一緒ですよ。後ろにはみんなついています。一人じゃありません。何億人もの人がいます。そうすれば、素晴らしいものが奏でられますよ」
天国護廷7&水「さすがです!」
八「姉貴!」
水「姉貴!」
雛「姉貴!」
矢「姉貴!」
大「姉貴!」
冬「姉貴! ……姉貴!」
奏「今ので良かったのかな?」
全「最高です」
八「じゃあ最後にみんなで声を揃えて言うよ! せーの!」
全員「復興目指して頑張ってください! 応援しています!」