五十七. 八千代さんが帰ってきた
「お……おおおおお?」
ついさっき旅行から帰ってきた八千代は水裟の家に入ったとき、ただただ驚いた。まさかの光景が目の前に広がっている。綺麗な銀髪のストレートで、沖縄の海のように透き通った青い目。この脱力感あふれる少女を見て、八千代は驚いていた。
「……産んだの?」
「産むか!」
八千代の問いかけに全力で水裟はつっこんだ。
「じゃあ何さ! 産む以外にどうやったら家に少女がいるようになるんだよ!」
「拾った」
「…………」
ずばっと冷たい回答に八千代は凍りつく。
「そういう方法があったのか……」
また、拾ったという事実に違和感を持たないあたりが八千代である。
そんな意味の分からないプロローグも終え、八千代は水裟の部屋にある座布団に座り、冬菜をまじまじと見続ける。
冬菜は一切表情を変えず、まっすぐに八千代を見つめている。
「……で、この子の名前は?」
「やっと聞くんだな。愛沢冬菜。暗の水氷座に着く者だ」
「どうも」
またまたその事実に驚く八千代。無理もないだろう。以前戦った相手がこうして目の前で仲間になっているのだから。
「前に……出会ったこと、あるよね?」
「はい。私があなたをボコボコにしました」
「こいつ嫌い!」
八千代は泣きながらそう叫んだ。おそらく冬菜も八千代が嫌いなのだろう。テンションが高い人が苦手そうな顔と性格しているから。
それに、明と暗。水氷心の名前からして相性が悪い。
こんなので大丈夫か、と、水裟は心配になるが、とりあえずあることを提案した。
「じゃあ冬菜、八千代。天国に行って紹介しに行こう。この事実はまだ私と八千代しか知らないんだし」
「……それはお断りします」
何とその提案を冬菜は断った。
その言葉に水裟は驚いた。八千代は少し笑顔になりながらも、頑張って驚いた表情を作り出した。
「地獄の者が受け入れられるか怖いか? 大丈夫だよ、みんな優しいから」
「いえ、そうではなくてですね……」
「どういうこと?」
「私自身が、天国の光に耐えられないのです」
以前の戦いからも分かるように、地獄の黒暗座は、その黒暗座に着くことによって力を発揮する。水氷心にはそんな力はなく、今の冬菜は本当の自分の力しか持っていない。地獄からすると、天国はとても明るいところで、目が耐えられないそうだ。ダークアイという冬菜の技も、かなり大きな負担があるので、そう簡単に日常的には扱えない。
「……どうしたらいいんだ……」
水裟も真剣に悩む。どうしたら冬菜に害がなく天国に入れるか。
「水裟。とりあえず矢筈君呼んだら?」
「ん。ああ、そうだな」
そう言って水裟は天国特有の携帯電話らしき物を取り出し、矢筈と会話をした。
もちろん、こっちに来て欲しい、とだけ言った。
しばらくすると矢筈がやってきて、また驚いた表情を浮かべる。
「地獄の者が……暗の水氷座ですか。考えもしなかったことですね……」
誰よりも驚いていたが、すぐに了解し、事情も大体把握した。
「そういうことですか……てことは、ついにまともな出番が来たわけですね」
「まともな出番?」
「ええ、この状況を解決できるのは……雛流さんです」
雛流が鍵となる。一体どういうことなのか……
雛「えええええ!? やっと出番かと思ったらこんなにでかいことなの!?」
矢「はい。よろしくお願いします」
次回、「五十八. 知の本業」よろしくお願いします!