五十三. 頼る
ひたすらある場所を目指して冬菜は走り続けた。勝つために。
目的地についたところで、インターホンを押そうとする。来たのはある人の家だ。
そのときにはもうすでに先回りされていた。
「先輩~。こんな家に何か用ですか~?」
「和月……天国の姫か」
顔が熱くなってきた。地獄の知り合いに、天国の姫に頼っているなんて知られるのは恥ずかしいに決まってる。最大の敵である天国に頼る元黒暗座に着いていた地獄の使者。向こうからしたらこれほどおかしいことはないだろう。
「こんなのに頼っても何もないぞ。天国護廷7に頼っているただの弱虫だ。それは冬菜、お前が1番知っているだろう」
「…………」
確かにあの時の地獄戦では簡単に勝ってしまった。風定の言うとおり、冬菜にとって水裟は天国護廷7の仲間に頼っている、権力だけを持っている人だと思っていた。
だけど、今回の事で冬菜の考え方は変わったのだった。
「彼女が頼っている天国護廷7は、必死で彼女を守ろうとしている。それは天国護廷7も彼女を信頼し、頼りにしているということです」
その答えを聞いて、風定がニヤッと笑って、冬菜のほうを見た。
「変わったなお前。あんなに人を信頼しないお前が人を信頼するとはな……だったら、本当の信頼を見せてみろ」
「本当の信頼……?」
「ああそうだ。今目の前にあるインターホンを押してみろ。本当に信頼してるなら、自分の羞恥心を捨ててでも頼ってみるんだな。まぁ、向こうが頼ってくれてるとは限らないけどな」
冬菜は一瞬戸惑った。押すか押さないか。自分のプライドが大切か、初めて出来た頼れる人が大切か。
冬菜の答えは決まっていた。
冬菜は人差し指でしっかりとインターホンを押した。ピンポーンという音が水裟の家に響き渡る。
そして水裟が話しかけてくる。
「あれ? 冬菜、どうした?」
「……苦しくなったからここに来ました」
「…………」
そこからは冬菜は涙を流し、涙声で水裟にお願いした。
『助けてください……!』
その言葉を聞いたとき、外から笑い声が聞こえた。「本当に恥ずかしい姿ですね、先輩」といった笑い声が。
それに対して水裟は当たり前のように答えた。
「分かった。私の出来ることは絶対にやりきる。それで、今冬菜を馬鹿にしたやつを叩き潰してやる。それと……頼ってくれてありがとね」
そう言って水裟は表に出た。
外に出ると冬菜と2人の男がいた。風定のことは水裟は知っている。さっきの笑い声は風定でなかったことぐらいもすぐ分かる。
そうだとしたら、もう見るのは1人しかいない。
「お前か」
「初めましてお姫様。暗の黒暗座に着く恭賀と申します」
「天国の姫、和月水裟」
そう言って水裟は和の水氷輪の型になる。
水氷扇を恭賀たちに向けて、冬菜に語りかけた。
「冬菜、倒そう。冬菜を足手まとい扱いする奴を」
「……はい!」
こうして再び戦いは始まった。
次話開戦!
八「作者~! 私の存在忘れてないか~!?」