五十二. 捨てたプライド
双剣を構えた冬菜は早速、恭賀に斬りかかる。
しかし、今までの何倍……それほど大袈裟にいっていいほどに体が動かなかった。今まで相当軽かったことを考えると、まるで何十キロの重りを全身に巻きつけている、冬菜にはそういった感触だ。
もちろん恭賀に傷をつけることは出来ず、あっさり避けられてしまった。
「鈍いね~。黒暗座に頼っていたのがとっても分かるよ。先輩」
「…………」
恭賀のいう事は一理あった。今まで自分はこんなにも黒暗座に頼っていたのか……と自分が恥ずかしくなる冬菜。
あの時はどれだけでも動けたのに、1回の攻撃でこんなに体が重く、疲れたのは初めてだった。
動こうとしても体が抵抗して動いてくれない。そんなことが今まであっただろうか。
色んなことを頭の中で考える冬菜。そして自分の弱さに気づいた表情で恭賀をにらむ。それは悲しかったのか、嫌だったのか、冬菜自身も分からなかった。
ただ、とりあえずは攻撃するしかないということだ。
冬菜は再び双剣を構えて恭賀の方に走っていった。
だがあっさりかわされてしまい、恭賀が後ろに回って、剣を冬菜に向ける。
「本当に弱いな~。今までこんなやつが黒暗座についていたとはね~」
「…………」
冬菜は無言で立ち尽くすだけだった。下手に動くと刺されて死ぬのがオチだ。何故か分からないが自分の中に生きたい自分がいる冬菜。
「……殺したい割に刺さないんですね……」
「ん~、まぁ一応先輩への敬意ってやつかな?」
「殺そうとしてる時点であなたに敬意はないですよ」
「まぁ、そうかもしれないけど……だからある人を呼んでるんだ」
「ある人?」
「お願いしま~す」
すると、空から漆黒の翼を広げて冬菜の元にやってきた。そいつはよく見覚えがある奴で、冬菜は正直こいつが苦手だった。
「風定……」
「よ! 捨てられた冬菜」
恭賀は何故風定を呼んだのか。それは簡単だった。単に1番力が強いし、風定は冬菜の事が嫌いだからだ。
冬菜はもう戦う気はなかった。というか戦えなかった。自分には力がない、その事が分かってしまったから。
だから冬菜は……
逃げることを選択した。
冬菜の考えでは、おそらく風定は、黒暗定紋風雷斬でとどめを刺そうとするに違いない。その時に発生する砂煙と冬菜の技で……うまく逃げるしかなかった。
そして展開は思うようにいく。
「じゃあな、冬菜。黒暗定紋風雷斬!」
大きな黒い斬撃が冬菜に襲い掛かる。しかし想像以上の砂煙に、しっかりと斬撃の姿が確認できない。
だから冬菜はいちかばちかで技を放った。
「黒旋風!」
黒い旋風が冬菜を包み込み、自分を側にあった家の屋根に移動させる。そして砂煙がおさまる前に逃げた。
「ちっ、逃がしたか」
「まぁいいでしょう。すぐに見つけれます」
「そうだな」
冬菜は昔から、仲間には戦いの時に頼るな。そういったことを教えられた。戦士たるもの、敵に背中を見せるな、仲間に頼るな。冬菜の家の家訓だった。
しかし当の冬菜は、自分のプライドを捨ててでも勝とうとしていた。
あの言葉を思い出してしまって……
『冬菜! 苦しくなったらまた来いよ!』
八「ただいま~」
水「あ、帰ってきたんだ」
八「これからまた活躍するよ~!」
水「悪いけど冬菜たちの戦いが終わるまで出番ないよ」
八「泣」
水「次話、冬菜がとった行動とは?」