三十六. 空に響いた音
というわけで、決着&音の水氷心スカウト終了です。
左手に現れた大きな弓。アーチェリー部が使ってそうな弓は発射口が赤色になっていて、糸に手を添えただけで矢が出てきた。とても先端部分が鋭く、矢を持つところには穴が開いていた。何もかも貫きそうな矢だ。
それを確認した奏は思いっきり地獄の女性に突っ込んだ。天国の力を持っているとやはりスピードが上がっている。さっきよりも早くに接近できた。
女性はそれにもちゃんと反応し、奏の遠く後ろに回った。そこから無数のビームを発射する。
相変わらず水裟たちは接近できず、後ろのほうで見てるしかできなかった。
それに対して奏はまたしても突っ込んでいった。
(このビームは208のテンポの十六音符。このスピードを持っていれば……簡単にかわせる!)
次々とビームをかわしていく奏。女性も少し焦った表情でビームを撃ち続けている。
そしてついに、女性のところまでたどり着いた。
奏はすぐさま糸に手を添え、矢を出して、女性に狙いを絞った。
「いっけぇぇえええ!」
勢いよく矢を発射させる。……だが。
「全然痛くないぞ。何だ? このしょぼい威力の弓矢は」
全く効いていなかった。傷一つも見つからない。
「ええええ!? ちょっと水裟ちゃん! 全然効いてないよ!?」
「しょうがないだろ! お前の初戦の相手が強すぎるんだよ!」
何で来たかは知らないが、とりあえず地獄の者と考えると強いのだ。その上、水裟たちが前に出れない以上、倒せるのは奏だけとなる。しかしその奏は今日戦い始めたばかり。圧倒的に不利な状況だった。
その後も何度か攻めたが、結果は同じだった。
(どうする……私たちは近づけないし、近づける奏は攻撃威力がない。勝てる方法が……)
そう考えたとき、水裟のポケットから1つの指輪が落ちた。
その指輪を見て水裟はひらめいたのだ。
*
それは昨日の天国での出来事……
水裟は王に呼び出されてテラスに向かっていた。内容は全く知らないがとりあえず呼び出されたのだ。
「どうしたんですか王?」
「水裟たちはこれから水氷座に着く者を探すんじゃろ? だったらこれが役に立つと思っての」
そう言って王は、1つの指輪を出した。
「これは……?」
「銅の指輪じゃ。音の水氷心を持つ者の武器に必要な道具じゃ。持っておいて損はないから、持っておくのじゃよ」
「はい。……で、使い方は?」
「どの指でもいいんじゃが、その指輪をはめる。そのはめた指を矢の穴の中に入れ、それで発射する。そしたら、結構高い威力の矢が撃てるはずじゃ」
*
そう、この指輪は音の水氷座に着く者の必殺アイテム。そして、この戦いを勝利に導くアイテムなのだ。
「奏!」
「ん?」
水裟は銅の指輪を奏に投げた。奏はそれを空いている右手でキャッチする。
「とりあえずその指輪をはめて」
「うん」
奏は何故だか薬指にはめた。
「じゃあ、薬指で今度撃ってみてくれ」
「でも……もう近づける体力がないよ……」
ずっと走り続けて、ずっとかわして、ずっと攻撃し続けていた奏の体力はもう限界だった。
それを聞いて、水裟がニッと笑う。
「それについても考えてある!」
水裟はやっと今気づいた。奏と水裟が協力すれば……あいつに勝てることを!
「もう終わりか? もっと楽しませろ」
女性が言ってきた。
「言われなくても……」
『楽しませてやるよ!』
どういうことか、水裟の肩に奏が乗っている。その状態から、水裟は水氷扇を上に挙げた。
「氷の旋風陣!」
水裟の足元から冷たい風が発生する。やがてその風は竜巻となり、水裟と奏を包み込む。どんどん上に伸びていく竜巻をコントロールし、女性の目の前の地面に竜巻を当てる。
「目が見えないのか? 私には当たってないぞ?」
竜巻が消えると、目の前には奏がいた。
つまりは、氷の旋風陣を女性の目の前の地面に当て、奏を目の前に移動させる。そして……
最後の一撃でしとめる!
「な!」
「音楽を汚し、私を怒らせたことを……後悔させてあげる!」
薬指で、思いっきり矢を引っ張った。
そして、思いっきり発射する。
「これが音の水氷心を持つ者の必殺技……」
『ブロンズアーチェリー!』
銅で輝く矢は、女性を貫いた。肩からは血が溢れ出ている。
「……私の負けか……なかなかおもしろいな……音の水氷心も……」
そう言って、女性は地獄に帰って行った……
*
その後、舞台は壊れてしまったものの楽器は無事だったようで、影月高校吹奏楽部の演奏が再開した。
綺麗な音色が日向町に響いた。
その音は音楽を愛する者にしか出せない、高らかなフルートの音だった……
次話、八千代に地獄の物が襲い掛かる……?
「者」じゃなくて「物」ですよ!