三十二. 魂の墓
天等王が連れてきたところは、水裟たちが暮らしている部屋、テラスの更に奥だ。
「ここだ」
「王……会わせたい人って……?」
「出て来い……火裟」
「え!?」
天等王は、確かに火裟と言った。火裟は、第16代の天国の姫だ。史上最高の姫だったと言われている。その姫は……確かに亡くなっているはずだ。
「お! 久しぶりだね~王。……で、そっちのちんちくりんは?」
混乱するし腹立つし、ロクなことないな。
「こいつは、現姫の和月水裟じゃ」
「お~、お姫様だったか。失礼したな。私は陽月火裟だ。第16代の姫だぞ! 先輩だからな!」
こいつの自己紹介など、今はどうでもいい。
「王! 何で彼女が生きてるんですか!?」
「死んでるけど……ここは魂の墓と言ってな」
魂の墓……それは、第16代の知の水氷座(ちなみに、知の水氷座とは、知の水氷心を持つものがついている役職であり、今で言うと、雛流)の夜望流花が発明したもので、昔の姫全ての魂が納められている。他の水氷心の魂の墓もある。
「……というか、いつでも話せるんだったら、死んでもあまり意味ないんじゃ……」
水裟がそういう疑問を抱く。それに対しては、火裟が答えた。
「残念じゃが……魂の墓で会話をするのは、死んでから5回のみじゃ。他のやつらは、2回だけどな。ちなみに私はこれで4回目じゃ」
じゃあ、これを省いたら、あと1回しか会話できない。
そこで、水裟があることにひらめいた。
「じゃあさ! 海梨姫とも話せるんじゃ……」
「残念じゃが、魂の墓に来るには、死んでから1ヶ月経たなきゃ無理なんじゃな~」
何か色々と都合が悪い墓だな……そう思う水裟だった。
その後、天等王は、用事で席を外し、今は、水裟と火裟だけだ。
「おい後輩。天国護廷7は完成したか?」
「いえ、まだ……」
「やっぱりの~……これを完成させるのは相当困難じゃからな。特に、暗の水氷心はな」
火裟の口からは、暗の水氷心が困難と出た。物静かでクール。本当の1人ぼっちだが、どこかで助けを求めている人。高校には全然いないタイプだ。
「どの姫も、これでつまづいているからの~」
伝説となっている火裟は、困難の暗の水氷心を持つ者を見つけ出せれたんだろう。
「火裟姫……ちなみに16代の暗の水氷心の人って、どこで知り合ったんですか?」
「ははは! これを言ってしまったらおもしろくないじゃろう! 探すのも楽しさの1つじゃ! おっと、そろそろ時間じゃな。頑張れよ~!」
そう言って、火裟は消えてしまった。最初から最後まで適当な姫だな……だが、姫の役割は、最高に果たせていると思える。少し憧れた。
水氷心を持つ者を水氷座につかせるために、水裟は気を引き締めなおした。
そして、地上に帰っていった……
*
水裟は、矢筈と共に家に帰ってきた。
「明日から新学期ですね~」
「そうだな~」
新たな生活が幕を開ける。地獄との戦いに向けて準備が始まる。今年の新学期は、今までの新学期とは違った緊張感がある。
「積極的に水氷心を持つ人スカウトだな!」
「ええ! 頑張りましょう!」
それは、水裟、矢筈、雛流、八千代、須永、全ての人が同じ気持ちだ。
明日は、始業式だ!
次話、新学期です!
久しぶりにほのぼの入れていきたいと思ってます。