三十一. 姫の役割と氷の旋風陣
遅れてすいません。
その分といってはあれですが、いつもより少し長いです。
矢筈に叩かれた水裟は、ひとまずその日は部屋に戻り、ご飯を食べて休むことにした。
矢筈に叩かれて初めて思う。
『姫の役割って何だろう?』
水裟は強い人であること。そう思っていた。でも、矢筈が姫に手を出すくらいだから……やっぱり何か間違ってるのか……
海梨姫と比較してみる。彼女は、明るく笑う人だった。精神的にも強い。
(やっぱり……強さなのかな……?)
考え事をしてると、突然眠たくなり、水裟はしっかりと寝た……
*
翌日、水裟は一旦地上へと帰った。あんな状況で矢筈とのギスギスした空気が嫌だったからだ。
久しぶりに家に帰った。何にも変わってないので、ちょっと安心した。
「ただいま~」
そう言って家に入ったものの、誰もいない。
水裟は今は1人暮らしだ。親は都合で長い間、他県で暮らしている。引越しという話も出たが、人見知りの激しい私は、1人でこの地域に残った。妹の裟希も、親について行っている。
ベッドに寝転んでみても、考えることは同じだ。姫の役割は何なんだ? 強さしか思いつかない水裟は、何が間違ってるんだと、矢筈への怒りを表す。
「こんなときは……」
水裟は、ベランダから屋根に登り、平らになっている部分で三角座りをした。昔から、悩みや悲しいことがあるときは、ここでリラックスするのだ。
「水裟~、何か悩んでるの~?」
隣の家の八千代が声をかけてきた。八千代も昔から悩みがあるときは、自分の家の屋根に登る。そして、悩んでいる方に、悩んでない方が相談に乗る。それが昔からやってきた八千代との1つのコミュニケーションだ。
「ん……まぁ、ちょっとね……」
八千代が、水裟の横に座った。
*
そのころ天国では、テラスで矢筈がうつむいていた。
そこに、王が来た。
「後悔しておるのか? 水裟を殴ったことを」
「ええ……側近が、姫を殴るという行為をとってしまった。恥ずべき行動です」
「わしは、殴って正解じゃと思うが?」
「え?」
予想外の返答に、矢筈は驚いた。王は理由を話した。
「お前が殴ったことによって、姫の役割が理解できるじゃろう」
「……だといいんですけど……」
矢筈は、顔を上げ、空を見ていた……
*
雛流は、生徒会室から飛び出した後、図書室に行って、最近のチラシなどを見ていた。
「これ……いいんじゃないかな?」
雛流が見ていたチラシは、日向祭りというものだ。雛流たちが住んでいる町は、日向市という。そこで毎年4月に行われる、日向祭りに、影月学園吹奏楽部が出演するのだ。そこで、リズム感と絶対音感を見抜けば……
「そのためには……翔子にお願いするか」
実は翔子は吹奏楽部のフルートを担当している。怪しまれないように、楽譜を貰おう! という事で、雛流は、生徒会室へ行った。
*
水裟は、八千代に悩み事を話した。
「姫の役割か……」
「私はずっと強さだと思ってた。今もだけど……それで、強さだけを求めていたら、矢筈に殴られてしまって……」
「矢筈君が!?」
信じられない表情だった。矢筈が、しかも大事な姫に手を出すとは思えないだろう。
「だから……違うんじゃないのかなって思ったんだね?」
「そうだけど……強さ以外に何があるんだよ! 海梨姫だって、とっても強かったじゃないか!」
水裟は屋根を叩いた。ドンと振動が八千代に伝わる。
それに対して、八千代はニッコリ笑いながら答えた。
「確かに、海梨姫は強かった。でも、戦いでは、悪いけどそれ程でもなかったよ?」
「……」
「海梨姫の強さって、精神的なものじゃなかったのかな?」
水裟は、少し理解したような表情を浮かべた。
「何だか分からないけど……水裟が近くにいると、凄く力が湧いてくるんだよね。……姫って、そういうことじゃないのかな? 何にもしなくても、誰にでも、力と笑顔を与えてくれる。そういう存在なんだよ」
水裟は、スクっと立ち上がり、自分の部屋に戻ろうとした。
「ったく……八千代! その国語力を勉強に活かせろよ!」
そう言って、自分の部屋に戻って行った。
話の途中に自分の部屋に帰るときは、悩みが解決した。そういう合図だ。
八千代もにこっと笑いながら、自分の家に帰っていった。
……なんだかんだで、また八千代に救われた……
*
翌日、天国に行ったとき、すぐに矢筈をテラスに呼び出した。
「あの……姫……」
「ごめん!」
矢筈が謝る前に、水裟が謝った。
「それと……ありがとう。お前のおかげで、姫の役割に気づけた」
「こちらこそ……すいませんでした」
その後、ニコッと笑いながら、矢筈が言った。
「やってみてください。氷の旋風陣」
「役割は気づけたけど……出来ないぞ?」
「絶対出来ますよ。命を賭けてもいいです」
何なんだこの自信は? しぶしぶ一昨日練習していたところに行った。
「じゃあ、やってみるぞ!」
「頑張って下さい!」
右手の中指に水氷の指輪をはめ、右手で水氷扇を持つ。そして、右手を高らかに上げた。すると、水氷の指輪と水氷輪が光り出し、足元から冷たい風の竜巻が、水裟を包み込んだ。
「出来た……」
「水氷の指輪は、姫と認められた者がはめるものです。姫の役割をしっかり理解してたら、水氷の指輪も反応して、力をくれるんです」
「強さを求めてたのが……ダメだったのか……」
何がともあれ、氷の旋風陣は完成した!
「水裟、ちょっといいか?」
そこに、王がやってきた。
「お前に会わせたい人がいるんじゃ」
「会わせたい人?」
王がついてこいと、人差し指をクイックイッとした。水裟は無言でついていった。
次話、王が会わせたい人と会います!
感想、評価をお願いします。