二十八. 姫の勇姿
みんなの目の前に広がった信じられない光景。血だらけになりながら、皆をかばった水裟の姿。綺麗な和服が、腹部だけ赤色に染まっていた。獄等王たちの前で、無残に倒れる水裟。あんな大技を食らったのだ。もう呼吸は困難に違いない。
しかし、その水裟には異変があった。水氷輪をつけていない。地獄が持っているわけじゃない。それに、和の水氷輪の型でもなく、色々と違う箇所があった。
いち早くその異変に気づき、全てを理解したのは矢筈だった。
「まさか……」
矢筈は、王に頼んで、倒れている水裟の元へと運んでもらった。
「やっぱりか……」
矢筈の表情は、変わらず暗かった。
そのことを、矢筈は皆に伝えた。
「地獄バースターをくらったのは……海梨姫です……」
何と皆をかばったのは海梨姫だという。その証拠に、海梨姫の隣には、水裟がいる。
そのことを知らされた水裟は、すぐに海梨姫の所に駆け寄り、手を前に出し、海梨姫は青いベールで包まれ、水裟は必死で回復させようとした。
「ん~……全部の力使い切っちゃったし……ここで退くか」
地獄の者たちは、地獄バースターで全てのエネルギーを使い果たし、もう水裟を殺す方法がなくなってしまったため、海極にいる意味もないと判断した。
「じゃあな、天国。今度は絶対水氷輪を手に入れる」
「1年後じゃ!」
そう言ったのは天等王だった。
「1年後に、海極で戦いを申し込む。そこで、長きにわたる戦争を終わらせる!」
獄等王は、それを聞いてニッと笑った。
「楽しみにしてるぞ」
そう言って、地獄の者たちは帰って行った。
*
海梨姫の状態は、相変わらずで、もうすぐ死が迫ろうとしていた。それでも水裟は回復をし続ける。
まさかの事態に、雛流、八千代、須永はどうすることも出来なかった。ただ、呆然と立ち尽くしているだけだった。
矢筈はずっと海梨姫の状態を見ている。
ただ立っているのもダメだと思った雛流は、天等王に質問を投げかけた。
「王……何故1年後に戦いを申し込んだんですか?それまでに天国護廷7が集まるとは言い切れませんし……」
疑問の内容は天等王が、何故1年後に地獄に戦いを申し込んだかだ。雛流の言うとおり、1年間に天国護廷7が集まるとは言い切れない。
「それはじゃな……お前らが卒業の時に、何も考えずに卒業してほしいからじゃ」
「え?」
「お前らが、地獄の事で考えながら卒業してほしくない。清々しい気持ちで卒業してほしい。ただそれだけじゃ。地獄との戦いならば、いつでも日付を変更できる。申請したのはこっちじゃからな」
その考えには、天等王の思いやりが入っていた。そして作戦も含めての言葉だった。
「それより……姫の状態はどうじゃ?水裟」
「……目を開けません。もう……無理なんじゃ……」
「水……裟……ちゃ……」
その声に皆が驚いた。この声は海梨姫の声だ。
「話したいことが……あるの……」
苦しそうに、海梨姫が言った。
その言葉を聞いて、天等王は背を向け、天国に帰ろうとした。
「水裟以外、天国に帰るぞ。わしたちはお邪魔だ」
その王の言葉に、皆は驚いた。矢筈は怒りを王にぶつけた。
「何言ってるんですか!?ずっと海梨姫の側にいてあげましょうよ!あなたそれでも王なんですか!?」
「王だ。だからこそ帰る。さっさと言う事を聞け。王の命令だ」
そう言われると、矢筈も抵抗できず、他の3人も王についていった。
海梨姫に背を向けながら、天等王は言った。
「海梨。これが、お前への最後の言葉になるかもしれないが、お前の姫としての行動は……絶対に無駄にはしない」
「王……」
「ありがとう。しっかりと水裟と話し合え」
「こっちこそ……ありがとうございました……王……」
「そして水裟、苦しいかもしれないが、話し合った後、海梨をおぶって天国まで帰ってきてくれ」
「分かりました」
そういい残して、王と4人は天国へと帰っていった。
天等王は、大粒の涙を流していた……
*
王たちが天国へと帰っていた後、苦しそうに水裟に語りかけた。
「水裟ちゃん……これが……最後のお話よ」
「……はい」
「私がかばったのは、あなたが死ぬ前にこの話をしたかったから……」
「……」
「まず、私が右手の中指にはめている指輪を……水裟ちゃんも同様に……右手の……中……指に……」
海梨姫の話し方が、だんだん苦しそうになってきた。水裟は言われた通り、指輪を右手の中指にはめた。
「それは、水氷の指輪……姫が……認めた……次の姫に……渡すもの……」
「っていうことは……私を……?」
「ええ……天国を……よろしくね……」
「海梨姫……」
「あなたなら……地獄を……倒せるから……」
「……」
「じゃあね……水裟……ちゃん……ありがとう……」
そう言って、海梨姫は静かに目を閉じた。
水裟は大粒の涙を流した。
その後、水裟は海梨姫を背負って、天国へと帰って行った…………
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次話は、色々と話し合いです。