百十二. 混戦
ますます激化していく中央の戦い。それが海極の寒い世界を熱くしていく。
現在は矢筈と風定が剣の押し合いを繰り広げている。その矢筈たちを通り越し、前線で戦う近距離型の八千代と大牙。そして後ろから援護をする雛流と須永。これが現在の天国のフォーメーションであり、妥当な位置取りである。
それに対して地獄は、全員が前線で戦うという形。というのも地獄の使者は全員が剣を保持しているため、後ろを固めても意味がないのだ。強いて言うなら小さな針を投げる技を持っている雷紋が遠距離型である。
しかし、結局はどこからでも狙えるのが地獄である。黒暗定紋風雷斬は衝撃波のため、ある程度の距離であれば届く。視野は明らかに地獄の方が広い。
☆
そんな中で八千代と大牙が地獄護廷7の四人を相手に近戦バトルを繰り広げていた。前線で戦うのはやはりこの二人だが、圧倒的に不利なため、援護の二人も今はこちらの戦いに付きっきりである。
地獄側も容赦のない攻撃を何度も送ってくる。小匙は剣を振り上げて八千代に向かって振りおろす。安定して躱すが、躱した先にはまた違う刃物が待ち構えている。逃げ場のない囲いに八千代たちは少々苦戦していた。
黒色の刃が八千代に襲い掛かろうとする。しかし、それを一匹のイルカが弾く。
「八千代さんに傷をつけられたら俺が許さん!」
ドルフィンブーストで八千代へ攻撃しようとした刃を弾いた須永。ナイスプレイと言えばナイスプレイである。八千代が傷つかずに済んだのだから。
しかし、剣を再び振り上げていた小匙が八千代の肩をズバッと貫く。赤い血が肩から流れ、思わずビー短を落としそうになってしまった。
「ちっ! かなりまずいじゃねぇか」
大牙も必死で両手に付いている爪で応戦するが、なかなか傷を与えられない。
「そろそろやらせてもらうか」
それどころか、今度は地獄側の反撃が始まる。
その台詞を聞いた八千代と大牙は反射的に後ろへと下がった。受け止めることもできなければ避けることもできない。それよりは避けられたほうが明らかにマシだ。
「黒暗定紋風雷斬!」
黒の衝撃波が天国四人に襲い掛かる。
一歩下がったのが功を奏して、安全に躱すことに成功した。
しかし、それだけでは地獄の猛攻は終わらなかった。
黒暗定紋風雷斬を放った雷紋以外の三人、小匙、明莉、菅鬼が剣を構えて目の前に立っていた。そのまま天国の四人を切り裂く。八千代たちからは大量の血が溢れ、その場に倒れてしまった。
「……マジかよ……」
予想外の攻撃に大牙はそんな言葉を漏らした。無論、それは他の三人も思ったであろう言葉だった。あの最大の技、黒暗定紋風雷斬を混乱させる道具にしたのだ。
「私たちも、総攻撃しないとまずいんじゃない……?」
震える声で雛流が言う。
それに賛成したのか、全員が立ち上がり武器を構えた。
全ては闇を打ち消すために。
次回は奏決着と四人の描写、矢筈描写、一気に進めていきたいと思います。