百十一. ゴールデンアーチェリー
初めて味わう絶望。それはとても暗く、苦しいもので。奏に嫌というほど差という言葉が突き刺さる。
自分の技はとことん通用しない。それは奏自身が一番理解していた。だが、打たないよりは絶対にマシ。そう思った奏はまた矢を放った。
「ミスリルショット!」
無数の矢が宙を舞い、由良の方へと飛んでいく。スピードもそれなりにはあるので、躱すのは簡単ではないはずだ。
由良は一発目から着実にステップを踏んで躱していく。それと同時進行で奏の方へと近寄ってくる。それこそが奏の狙いとも知らずに。
奏はまっすぐ近づいてくる由良に矢の先端部分を向け、親指で思い切り引く。そのまま、スッと矢から親指を抜き、発射させた。
「オリハルコンシャークブースト!」
それは大海を行く鮫のように逞しく、速い矢だった。目にも留らぬ速さで由良に向かって突き進んでいく。ミスリルショットに気を取られていたためか、由良は躱すことが出来ずに直撃してしまった。
しかし、由良の腕にちょっとかすり傷が出来たくらいで、やはり大ダメージとはいかない。
(……やっぱり、この技を使うしかないのかな)
奏はそんなことを思いながら人差し指にはめてある金色の指輪を見る。この金色の指輪は最終調整の際、山の中で作り出したものである。奏は一度、この技を使ったことがあるため、どれほどの威力があるかを知っている。
その金色の指輪で放った矢は、一言で言うと強力。いや、それ以上の力を持っている。山など一瞬で塵となってしまうくらいの。
それほどの大きな力を持つ技だが、一つ難点がある。それは反動が奏に返ってくることだ。余りに大きすぎるため、自分の体を少々犠牲にしなければならない。
つまり、連続しては使えないが、一発決めると大ダメージ。まさに捨て身の技だ。
(やるしかない!)
覚悟を決めて奏は人差し指を矢に引っ掛けた。矢はみるみる金色になっていき、最終的には金の延べ棒かと錯覚するくらいの金色になる。
「ゴールデンアーチェリー!」
そのまま勢いよく発射される。大きさはシルバーアーチェリー等と変わらないが、それでも威力は桁違いなのだ。
そのことを察したのか、由良は少し顔を顰めている。それから小さく呟く。
「テンポチェンジ、200」
そう呟いたすぐ後、既にその場所に由良の姿はなかった。
「嘘!?」
今までも十分スピードは速かったが、向こうも桁違いにしてきた。そう、また気づけば後ろに回っていたのだ。
すぐさま反応はできたが、奏の体が追いつかない。ゴールデンアーチェリーの反動で全身が硬直する。
「……っ!」
「チェックメイト」
黒い刃が奏の肩を切り裂いた。