百八. 光の漆黒剣士
早くも冬菜さん終了です。ごめんなさい、思ったより早い展開になってしまいました。
一斉に地面を蹴る。ぬかるんだ泥が跳ねあがり、また、びちゃ、という音を立てて地面へと戻っていく。
冬菜は双剣を、恭賀は一本の剣を構えては相手に斬りかかり、激しい火花が飛び散る。
スピードも力もほぼ互角である。お互いの剣は相手に届くことなく、中間で静止している。歯を食いしばり、絶対に届かせてやるという一心で力をこめる。
「……っ!」
しかしこうも長く押し合っていると大ダメージを受けている冬菜のほうが押され始める。先ほどまで冬菜と恭賀の間で散っていた火花はだんだん冬菜の方へと寄ってきている。
――当てるなら今しかない。
ここでやれることはただ一つ。大きな技で畳みかけることだ。小さな攻撃でじわじわダメージを与えるよりは確実に効率が良い。
しかし、外した時には隙を突かれる。そこだけがどうしても解消されない問題である。
(行くか……行かないか……)
どんどん迫ってくる火花。そして黒い刃物。
行くか行かないかではなく、既に行くしかない状況だったのだ。
冬菜はすぐさま双剣を恭賀の剣から離し、上空へと大きくジャンプした。
そこから、黒い双剣でバツ印を描く。そしてその後にプラス印を描き、大きな斬撃を発生させた。
「なっ……!」
咄嗟の行動に恭賀も反応できないだろう。それほどに冬菜は最後の力を振り絞って、最高のスピードを使ったのだ。
そう、もう勝利は確実――のはずだった。
「ユナイテッドキングダム……!?」
冬菜がユナイテッドキングダムソードを放とうとした時だった。恭賀がポケットから瞬時に取り出した物が冬菜の視界を邪魔した。
恭賀が取り出したのは閃光球。文字通り激しい光を放つ球で、光が苦手な者からしたら一溜まりもないだろう。もちろんその光は冬菜の視神経を刺激した。
「……ッ!」
思うように技が放てない。放てたとしても、当たる確率はかなり低い。
「ダークアイ!」
それに対して恭賀は暗の黒暗座に着いた者のみが使える技、ダークアイを使用し、光に対策を取っている。
「これで勝負は決まりです!」
恭賀は勝利を確信し、黒い妖気を剣に纏わせる。一気に蹴りをつけるため、最大級のパワーで。
「黒暗定紋風雷斬!」
それは今までの黒暗定紋風雷斬とは比べ物にならないほどの大きさだった。空から鯨を落とした時の水しぶきを想定するかのような、大きな斬撃。
「な……!」
しかし、そんな技を放っておきながらも、ありえない大きさを持っていると分かっている――いや、分かるはずがない。見えないのだ。それが彼女――冬菜の数少ない弱点。
――のはずだったのに。
光の中に大きなイギリス国旗のマークが見える。それは恭賀が放った黒暗定紋風雷斬よりも遥かに大きいものだった。そして光に映る斬撃の発生源は――腰までストレート伸びた長い髪の毛、黒いブーツ、黒いハーフパンツ、黒いコート。そして、黒い双剣。
光から彼女の姿が出た時には、何よりも、ぱっちりと開いた青い目が輝いた。
「何で目を開けて……!」
「……お年寄りの言うこともたまには聞いてみるものですね」
それから一息おいて……
『ユナイテッドキングダムソード!』
イギリス国旗が恭賀に襲い掛かった。
泥は大きく跳ね上がり、冬菜の頭を汚していく。それは、勝利を表す汚い雨だった。
次回はその後の冬菜を前半にやり、後半には矢筈と愉快な仲間たち、奏の描写をやっていこうと思います。
矢筈と奏は同時進行でやっていこうと思っています。