百二. 最終調整・上
冬菜が連れてこられたのは真っ暗な部屋。何も見えない――はずなのだが、冬菜にとっては人間の昼間のように見える。
連れてこられるとすぐにイスに座らされ、しばらく待つように言われた。何をさせられるのかは天等王以外知らない。
その最終調整はすぐに始まった。急に部屋に天等王のアナウンスが流れた。
「では、冬菜にやってもらうのは……この部屋に一時間いるだけ!」
「……舐めてるんですか?」
「いやいや、舐めてるのは君だから。ネックレスは持ってる?」
「いや、あなたがここに入れる前に強制的に外したじゃないですか」
「あ、そっか。ならOKだね」
そう言って天等王はパチッとあるスイッチを押した。
それと同時に冬菜はかなり顔を顰める。
「なるほど……これは結構厳しいですね」
「でしょう?」
天等王がスイッチを押したと同時に、家庭ではごく一般の蛍光灯が点灯した。しかし、ネックレスをつけていない冬菜にしてみればかなり苦しい状況なのだ。そこに一時間いることが最終調整となる。
地獄の技は暗いものが多いが、天国の技はかなりの光を発生させるものが多い。仲間の技でひるんでいては話にならない。そこから考え出したものだった。
☆
雛流が連れてこられたのは図書館。天国だからと言って戦場が隠されているわけでもなく、ただ書物が置かれているだけだ。
天等王は冬菜の方に行ってしまったため、ここにはいない。その代わり、調整内容が書かれた紙を渡され、それを各自実行するようにということだった。
「えっと、なになに」
『君は新たな技を身につけてほしい。君の技、雷球銃はそれなりに力はあるが、地獄には到底敵わないようにも思える。それに地味だし。だから地味は地味なりに地味から派手に変われるよう地道にがんばってくれ!』
「地味地味うるさぁあああああああああい!」
思わず紙を床に叩きつけてしまった雛流。彼女が一番気にしていることを連呼されてしまっては、さすがに動揺してしまっていた。
「まぁ、地獄に勝てないのは困るよね」
そう言って雛流は片っ端から書物を探るのだった。
☆
大牙は大きなグラウンドにやってきていた。端から端まで一キロメートルというありえないトラック。
地面はしっかりと砂になっているのに、なぜか室内にあるグラウンド。大牙は紙を広げて調整内容を確認した。
「このグラウンド室の観客席の一番後ろに環境調整機械がある。それを真夏に設定して、一時間走り続けてくれ☆」
星マークにかなりイラっとしたが、大牙は素直に従うことにした。
大牙のこの調整の目的は、ただ単に体力をつけるため。大牙の持ち味と言えば、野球で鍛えられた脚力と腕力。それを地獄にも対応させるという。大牙は炎系の技をメインに使うため、相当温度は上がってしまう。それにバテずに戦い続けさせるためにこの調整を言い渡したのだ。
大牙は環境を真夏に設定し、大牙はグラウンドを走り出した。
全ては勝つために――。
ここは二回に分けさせていただきます。
次回は水裟、矢筈、八千代、奏です。