百一. 最終調整
「……もうすぐか……」
暗黒の空――いや、地面といったほうが地獄では正しいのだろうか。それを眺めながら獄等王は呟いた。
あの海極での戦いから早一年が過ぎ去ろうとしている。それは、地獄がもうすぐ世界を手にするということを意味していた。
地獄の考えとしては、まず負けるはずがない。天国も以前に比べればかなりのパワータイプと化しているが、やはり地獄の特色には敵わない。
地獄は今、最終調整を進めているところだった。何としてでも水氷輪を手に入れ、世界を征服しなければならない。これは獄等王にとっての義務なのだ。
地獄護廷7の面々も着々と準備を進めている。しかし、最近妙なのは風定である。彼は地獄でも一、二を争うほどの実力の持ち主なのだが、誰よりも練習場に長くいる。そんなに練習しなくても良かろうに、なんてことを思う。
その風定はと言えば、まだ練習場だ。
☆
ブンッ、ブンッ、と剣を振るたびに風の音が鳴る。そのたびに自分の汗が飛び散る。それを拭い、また振り始める。風定は先ほどからそれを繰り返していた。
――このままでは地獄は勝てない。
確証のない考えを風定はここ最近、脳内で繰り返している。その理由として最も大きいのが、冬菜を取り返しに行ったときである。もう半年前のことだが、風定にとって、それはまだ新しい記憶だった。
弱かった、あの弱かった天国の姫が恭賀を倒した。恭賀はもちろん冬菜より力があるから雇われた身だ。それをあっさりと倒してしまった。
怖いのは姫じゃない。あの天国の姫まで地獄護廷7と戦えるようになっていたら、天国護廷7のやつらはどうなっているのだろう。それが一番引っかかっていた。
冬菜もおそらくは体に慣れて、あのとき以上の力を出してくる。風定にとっては全く油断できない戦いとなりそうだった。
だから剣を振り続ける。勝つために――。
★
「また……天国引きこもり生活……」
天国引きこもり生活。それは文字通り天国に引きこもることである。
夏休みにも一度実施し、それはそれはみなさん素晴らしい力を身につけた過去がある。それを最終調整として行うという。
「あ、ただ今回はこちらから課題を出すぞ♪」
前回と違うところは、天等王が課題を出すということ。今回の引きこもり生活は天等王の課題をクリアすることが目的となる。
その課題は……まだ誰も知らない。
「あ、ちなみにみんなの受検まであと三日。終わらなかったら試験会場には行かせないよ♪」
『理不尽だぁああああああああああああ!』
ちなみに人生もかかっているという、まさに地獄の訓練。
果たして水裟たちは三日間でクリアできるのか。