七・伍話 夜。
今回はちょいとグロいです。
七・伍話 夜。
はっはっは…………
満月の夜。
とある村に続く林道を少年は必死に走っていた。
体中血や泥に塗れながら、足の指の爪が割れて血がドクドク溢れる痛みに耐えながら少年はただ走った。
途中で派手に転び、膝を擦りむきながらも拳を地面に打ち付け、体に鞭打ち、立ち上がる。
「くそっこんな物!」
少年はボロボロでもう使い物にならない草履をそこら辺の草むらに投げ捨てる。
目から溢れる涙を左手で拭い、少年はまた走り出す。
足の裏に尖った石が刺さっても。
何度も転んでも。
途中で吐いても。
涙が溢れても。
少年は全力で走る。
右手に長い刀をしっかりと握りしめながら。
「母様っ!皆っ!」
少年はそう叫びながら必死で走る。
自分の故郷の村を目指して。
しばらく走ると明りが見えた。
眩しいくらいの光が。
林の先から少年の目にとびこんでくる。
少年はだんだんと走るペースが落ちてきていた自分の足を左手で強く叩き、速度を上げる。
体中から悲鳴が聞こえたが無視する。
少年は唇を噛む。
さっきとは比べ物にはならないほどの涙が目から溢れる。
林に突っ込み、明りのほうへ突き進む。
鋭利に尖った葉が少年の体を切り刻むが少年は痛みを堪える。
「邪魔だぁっ!!」
少年は周りの背の高い草や道を塞ぐ細い木々を自分の長い刀で斬り裂き、自分の進むべき道を切り開く。
もうすぐだ。
もうすぐ着く。
それまで無事でいてください。母様、皆。
「うらあっ!」
少年は道を塞ぐ大きな木を一太刀で切り捨てる。
よくこれだけの立派な木を切り捨てられたものだと感心するほどの巨木を。
ズザザザザッ!
巨木は周りの木々を薙ぎ倒し、地面に自身の体を打ち付ける。
その巨木の切り株を超えて、少年は走る。
少年は切り株を超えて走り出した瞬間、その肌が熱を感じ取る。
とても熱い……熱風が少年の頬を擽る。
少年の唇が少年の歯によって裂けた。
血が下にポトポト落ちる。
「クソぉ!」
少年は数十メートル先にある光にむかって走り出した。
少年は目的地についた瞬間、絶句する。
村が……燃えている。
多くの家が、畑が、草花が、人が、動物が、燃えている。
少年は一目散にある家にむかう。
この村の中ではそれなりに大きい、自分の家へ。
〈母様!〉
何をどうしても最悪の場面ばかり頭に浮かんでくる。
少年は自分の家へ行く前に近くの井戸から水を燃えずに無事だった桶で汲み、頭からかぶる。
〈ッ……!!〉
言葉で表せないような痛みが全身を駆け抜ける。
それを堪えて、少年は走り出す。
「畜生!」
少年は他と例外なく燃え盛っている我が家にとびこむ。
次から次にある障子を切り捨て、切り捨て、蹴破って、蹴破って、目的の部屋を目指す。
途中我が家を支えていた大きな柱が降ってきたがそれも切り捨てる。
廊下をドタドタと、叱られるような走り方をして向かう。
「母様!」
目的の部屋の障子を蹴破った少年は咄嗟に鼻を塞ぐ。
生きた生物が焼ける何とも言えない吐き気を引き起こす悪臭が少年の鼻をついたからだ。
堪え切れずに少年はその場に嘔吐する。
「げほ……母様!」
少年は口を拭うのも忘れて、部屋にとびこむ。
そこにいたのはかつて少年の母だったもの。
今は見る影もない。
既に死んでいた。
上と下がわかれた自分の母を見て少年はまたもや嘔吐する。
「母様…………畜生!」
少年は焦げた畳に怒りで震える拳を打ち付ける。
「はははははっ!どうだ。思い知ったか小僧!」
高笑いと共に少年の後ろに杖を持ち、髪を腰まで伸ばし、顔が髪に隠れている白い布を身に纏ったガリガリの女が白い光を纏って現れた。
その姿を見て少年は絶句する。
「お前は俺が斬り殺したはずなのに……何故!?生きている!?」
クククと女は嗤う。
「簡単なこと。あれは私の分身だからだ。その証拠に貴様は私の死体を触って確認したか?」
「!!」
手応えはあった。
真っ二つにしてやったからおそらく殺したものだと思った。
ろくに死体を確認せずにこちらに走ってきた。
「お前か?母様を、皆を殺り、村に火を放ったのは」
「いかにも!私の強力な術でかるーく滅ぼしてやっ」
ドゴオッ
「話してる最中に殴りかかるとはな。貴様の親父と似ておるなぁ!ハハハ!」
「お前ぇ……生かしちゃおけない!」
少年は刀を構え、一気に距離を詰めて斬りかかる。
その一撃は女の体を斬り裂くが、女は煙となって消える。
「ははは、こっちだぞ!小僧」と女は少年の家の外へと転移していた。
ちっと少年は舌打ちをし外へ飛び出す。
「うらあっ!」
「そんな大振りでは当たるわけないだろう?」
女は軽々と少年の飛び出して助走をつけた上段からの振りを飛びのいて避ける。
着地し、女は杖を構え、高速で言葉を紡ぐ。
「ちょこまかと……このクソアマァ!」
少年は叫ぶと渾身の力を込めて刀を投げる。
「奇抜なことを……無駄だ!」
周囲の家から炎が女の前に集まり、壁になる。
その炎の壁に弾かれ、刀はクルクルと回転しながら後方へ飛ばされ、地面に刺さる。
「さて、そろそろ仕舞いにしようか?小う!?」
「それはこっちの台詞だクソアマ」
女後ろから女の左胸に小刀が深々と突き刺さり、心臓を穿つ。
「貴様……どうして……」
「俺の脚力はこの村の中じゃあ一番なんでね。かなり速いんだぞ?それに俺の投げた刀にお前の注意がいっていたことが俺にとっての好機であり、お前にとっての失敗だ」
少年は女に刺さった小刀をグルグルと回しながら引き抜く。
血がボタボタと地面に流れ落ち、女の白い布を赤く染め上げる。
少年は女を地面に叩き伏せると馬乗りになる。
「何をしようとするのだ!?」
「なに、簡単なことだ」
ぐさっと女の首に小刀を突き刺し、抜く。
次に首と体を切り離す。
勢いよく切り離したためか、女の頭がごろごろと転がって燃え盛る壁に激突する。
ゴッ!
「!?」
少年は女の手に持った杖で殴られ、くらっとするも頭をぶんぶんと振って意識を保つ。
「くそ、気持ち悪い奴め!」
少年は女をバラバラにして全てを炎の中に放り投げる。
炎は何の例外もなく女の体を飲み込む。
その瞬間「ぎゃああああ」という絶叫が聞こえたが少年は無視することにする。
「自分の炎で焼かれて死んでしまえ」
少年は荒い息を整えながら、女にむかって言う。
やり遂げたという達成感からかは知らないが、少年の口の端はつりあがっていた。
「ん……と、拙者はまたあの夢を」
榊は自身の過去を夢に見た。
本当に忌々しい夢であるなと榊はいつも思う。
大体いつも夢を見るときはあの夢だ。
あの時の嫌なことがいつまでも自分の記憶にこびりついていることが榊にとっては嫌だった。
できるものなら忘れてしまいたい。
「あれぇ?榊。その男は誰?」
「ああ、主の寝込みを襲おうとしてきたけしからん奴でござる。気絶させて縄で縛ってあるから大丈夫でござるよ」
榊の横には頭に大きなたんこぶをつけた黒装束の男が縄で縛られて気絶していた。
幻覚かなにかは知らないが頭の周りを鳥がとんでいるが、スーは気にしない。
「それにしても、榊はいつもあぐらをかいて刀を抱えた状態で寝てるの?」
「大体そうでござるな」
「へえ。すごいなあ」
「そういえば、いつから起きていたでござるか?」
ああとスーは「榊が何かを殴った音で目を覚ましたんだよー」と答える。
「それは悪いことをしたでござる」
「別にいいよぉ。それよりもなんかさっきからうなされていたみたいだけどー?」
「悪夢を見ていたでござる。なーに、もう大丈夫でござるよ」
「そう?ならいいんだけどなぁ」
そういってスーは気絶している男にむかって右手をのばし、高速で呪文を唱える。
男はまるで天に召されるようにすうっと、神々しい光と共に消えた。
「どこにやったでござるか?」
「このユガ邸の地下牢にだよぉ?悪い人は閉じ込めるの常識だもん」
そういえばそうだった。
なんで自分は閉じ込めなかったのかと榊は自分に問いただす。
帰ってきた答えは睡魔に負けたというものだった。
それは仕方ないなと榊は心の中ではははと笑った。
「それじゃあ榊、スーはまた眠るからぁ護衛お願いねー」
「承知したでござる」
スーはそんなことを言うと自分の布団をかぶり、再び眠りについた。
それを確認すると、榊は部屋の扉にむかって言う。
「さてと、さっさと扉を開けてくるといい。曲者よ」
「ひいっ!?」
勢いよく榊は扉を開けて、先ほどの男の仲間と思われる者をぶん殴る。
その音でスーは再び目を覚ましたのは言うまでもない。
なんか番外編みたいな感じで書いたんですけど、ちょっとグロかったですかね?
それになんかいつもよりもヘタッピな感じがしますね。
指摘、感想等一言お待ちしております。
それでは。