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六話 えれべーたー。

六話 えれべーたー。


「ん?」


榊は睡魔の魔の手から意識を取り戻し、目を開ける。


「あら、榊様。よくお眠りになっていましたね。もう夜になってしまいましたよ」

「…………なに?それは本当でござるか?」


目を開けて一番最初に目に映った大きな黒目と金髪の若干長めのツインテールをもつ色白の従者の女性、サヨに榊は尋ねた。


「ええ。もうかれこれ約六時間はお眠りになっていましたね」

「そうか。しかし、サヨよ。拙者はなぜ仰向けに寝ておるのだ?」

「それはそのほうがお眠りになりやすいのかと思いましたからうつ伏せから仰向けの姿勢に変えさせてもらいました」

「では、拙者の頭の下にある柔らかい物は枕か?」

「ええ。枕といっても膝ですけどね」

「ぬうわぁぁぁぁっ!!」


榊はサヨの発言に慌てて跳ね起きる。

まったく自分はなんてことを約六時間もの間されていたのかと榊は自分の体温が徐々に上がっていく感じがした。


「もう。そんなに照れてしまって……本当に可愛いですね」


榊の顔から湯気がでるかと思わせるほど、榊の顔は赤くなっていた。

しかし、ふと榊はあることに気がついた。

自分の体がさっきより縮んでいることに。

恐る恐る近くにあった大きな鏡の前に行き、自分の体を映してみる。

そこに映し出されたのは黒い質素な着物を着たでるところはでて、ひっこむところはひっこんでいるという恵まれた体を持つ現代での表し方だと女子中高生ぐらいの少女であった。

口をパクパクと動かしている榊にサヨは右手を自分の頬にあててはぁとため息をついた。


「まったく……羨ましいです。その可愛さに恵まれた体。多くの女性の憧れの的ですわね」

「拙者の…………鍛え抜かれた肉体が……こんなことに……どこに行ってしまったのだ?筋肉の鎧よ」

「え?今何と……?」

「実は………………」


サヨの悲鳴のような驚きの声が室内に響いた。

榊は指で耳を塞ぎ、顔を顰める。


「それ本当ですか!?……一度でいいから男の榊様のお姿を拝見してみたかった」

「本当でござる。自分で言うのもなんだが、あれはまさしく筋肉でできた鎧であったと思うでござる」

〈ああ、もう嘆いたところであの肉体が戻ることはないか。もはや過去の栄光でござるな〉

「でも今の榊様も十分良いと思います。こちらに来てから男性の方に言い寄られたことはないのですか?」

「ある。まったく……危うく襲われそうになったでござる」

「うわあ。やっぱり」


サヨは何故か同情していたが榊は無視をする。


「それにしても、良く簡単に信じることができるでござるな。疑ったりしないのでござるか?」

「こちらの世界はほぼ何でもありですから。そんなことでいちいち疑うなんてことはしませんよ」


あははとサヨは笑う。

その言葉に榊ははぁという言葉しか返せない。

無論、「何でもあり」という言葉にである。


〈ということは、あの忌まわしき妖術も例外ではないということでござるな〉 


榊は自分の心の奥底から溢れ出てくる暗い記憶を無意識のうちに封じ込めていた。


「榊様?どうしたんですか?そんな怖い顔をして」

「なんでもないでござる。気にしないでくれ」


そうですか?とサヨは心配そうな表情をうかべ、榊の顔色をうかがってくるが、榊は無視し、なんでもないという表情を顔に張り付ける。


「それはそうと、拙者の鎧兜と刀はどこに行ったでござるか?」 


榊は話題を変えるために先ほどから気になっていたことをサヨに問う。


「ああ!あれはですね、さっきお嬢様と執事の方がこちらにお見えになりまして榊様のお部屋にもっていってしまいましたよ」

「はあっ!?拙者の部屋とは……いつの間にそんなものが」

「良かったですねえ。十階ですよ?榊様のお部屋は」

「そうじゃなくて、なんでこの屋敷に拙者の部屋があるのかと聞いているでござる」

「いやあ、新しい友達ができるなんて言っていたものですから。お嬢様張り切っちゃって。全く使ってない物置を榊様のお部屋にしてしまったのですよ」

「随分と展開が早いでござるな」

「気にしてはいけませんよ」

「そうなのでござるか?」

「そうなんですよ」


サヨは心配そうな表情からすぐに元のニコニコとした万人にうける笑顔で榊の質問に答えた。

そのサヨの返答に榊はむぅと唇を尖らせる。

そんな榊を見たサヨの顔は、ニコニコとした笑顔からニタニタしたいやらしい笑顔に変わり、ぶつぶつと何かをつぶやいているが榊は気にしないことにした。


「ところで、えれべーたーという乗り物はどこにあるでござるか?」


榊の発音にサヨはプッと吹き出すも、榊の変な物を見る視線に耐えかね、元の笑顔に戻す。


「エレベーターはこの屋敷のいたるところにありますが?どのエレベーターですか?」

「なんでも入り口近くのエレベーターだと料理長ゴンザは言っていたでござる」

〈ええっ!あのゴリラ男が!?〉

「ああ。大エレベーターのことですね。これからご案内させてもらってもよろしいですか?」

「うむ。よろしく頼むでござる」


なんだか会話の途中にゴリラ男なんていう言葉がサヨの口から聞こえてきたが榊は気にしないことにする。

「それでは参りましょう」






「それにしても大きいでござるな」

「大エレベーターですからね」


あの部屋から出て、約十五分歩くと大きな柱が榊達を出迎える。

榊はこの柱が故郷にある樹齢何千何百年くらいの神木のように大きいと感じた。

さてというサヨの言葉に促されて榊は柱の真ん中あたりについている扉の前に行き、その中へ入る。


「これまた無駄に広いでござるなぁ」

「無駄は余計だと思いますよ?」


榊は真っ白で無機質な空間で思ったことを口にした。

それに何食わぬ顔で突っ込む。

榊が「無駄に」と口にしたとおり、エレベーターの中は広かった。

百人ぐらいは普通に乗れる広さだとぱっと見から理解できる。

榊達の他には両手で数えられるほどの従者たちしか乗っていないため、榊達の声は案外目立つ。


「それにしても、ここに来るまでの間の人の視線が痛かったでござる」

「榊様の恰好は珍しいですからね。まあ何人かけしからん視線をむけていた従者もいるようですが」


榊は元男だったため、ここの紳士風な従者たちの気持ちは分からなくでもない。

自分もついつい目がいってしまうだろうと榊は思う。


「まったく…………これだから男というものは」


と、サヨは何故か自分の体と榊の体を見比べる。

そしてうっとりと榊を眺める。


「どうした。拙者に何処かおかしいところがあるのでござるか?」

「いえいえいえ!なんでもございません」


何故かいえを三回言うサヨのことを榊は変な奴だなと思う。

なんでもないと言うわりに自分の体と榊の体を比べるサヨは一種の変人かもしれない。


ウィーン…………チーン!


「あ、着いたようですね」

「そのようでござるな」


気がつけば榊達以外の人間はもう乗っていなかった。

そのせいか、榊は柄にもなく緊張していた。

榊はハア……とため息をつく。


「緊張してますか?」

「ああ」

「大丈夫ですよ。気楽にいきましょう」

「そうでござるな」


榊は気を引き締めると、サヨとともに大エレベーターの扉にむかって歩きだした。




随分とお待たせしました。

(まだ読んでくれている方がいらっしゃるのかわかりませんが)

今回なんか急展開してる感じがしますけどどうでしょうか?


指摘、感想など一言もらえると嬉しいです。

それでは。

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