参話 連れ帰られる。
参話 連れ帰られる。
あの後、青年の二人の名前などを教えてもらうなどして榊は二人の青年と仲良くなった。
これから榊は第二の人生を…………女として、一人の武士として、過ごすことを決めた。
榊はこれまで女は戦ってはいけないとばかり思っていたが、その思い込みは間違いであり、別に戦っても問題はないということを青年…………ボルから言われ、嬉しかった。
自分自身の武を捨てなくてよくなったことが榊にとってはなによりも嬉しかったのだ。
榊が喜んでいる間に榊達が乗っている小船は大自然の森にぽつんと寂しそうにある桟橋にたどりついた。
若い男二人がかりで漕げば案外早く着くものである。
「それでは、案内しますね」
「よろしく頼むが、本当に大丈夫でござるか?」
「大丈夫ですよ!スーお譲さまはとてもお優しい方ですからね」
榊の心配…………雇ってもらうもとい、仕えられることができるのかという心配で榊の胸ははちきれそうなくらいに不安で一杯であった。
新たな主に一生の忠誠を誓えるのか、忠誠を誓うほどの器がある主人なのか、そもそも雇ってもらえるのかということができるのか…………考えれば考えるほど榊の気持ちは落ち込んでいった。
そんな時、榊の鎧で覆われた肩をボルがポンと軽くたたく。
「ゴルドの言うとおりだ。大丈夫だぜ?榊譲ちゃん」
「譲ちゃんはいらんでござる。榊でいい」
兜に覆われた榊から聞こえる甘い声にボルは内心声に癒されるなと思いながらへいへいと頷いた。
「心配してくれたのは素直にうれしいでござる。ありがとう」
「どういたしまして」
そうさっきから変わらぬ態度で答えながらボルは内心いやっほう!とうかれていた。
(幸せそうですね。ボルは)
ゴルドはボルの榊に惚れているのではないかということにさっきから気がついていた。
ボルと大体いつも一緒にいるゴルドはいつの間にかボルの心が読めるようになっていた。
態度が変わらなくても声や顔の些細な変化でわかってしまうゴルドはボルのことを考えてため息をついた。
(あなたの恋は多分今回も失敗しますよ)
ボルはこれまでおっさんのような髭の濃さや雰囲気で女性にモテたためしがなかった。
しかも今回はレベルが高い。
本人が言うには元男だったというのだから男には興味ない。
全戦無敗の自称ラブハンターの自分がアタックしてみても吐かれそうになったくらいだ。ボルはてんで駄目だろう。
(まったく、なんでボルは本当に難しい恋をするんですかねえ?)
まあ、あのくらいの美少女であったならば恋をしても無理はないだろう。
ゴルドは今回もボルを温かい目で見守ることにした。
「それにしても重いでござるな」
榊は以前とは大きさのあわなくなった鎧兜を着込んでいるせいか動きが危なっかしくなっていた。
刀も重そうに見えるが実を言うと、榊の刀は昔からそんなに重くない。
榊の今の刀は昔から同じで、榊の家の家宝であった。
代々受け継がれてきたもので、その刀はとても頑丈なくせにとても軽い。
おまけに斬れ味もよく、斬れぬものはないといわれるほどだ。
異世界から持ち込まれたものだといわれているが本当のことは誰も知らない。
榊の家のものでも。
「榊、なんかぶかぶかで歩きにくいだろ。鎧脱ぐか?」
「武士の誇りでござる。脱ぐ気はない」
「じゃあ、刀重そうだから持ってやるよ」
「武士の誇りでござる。自分で持つ」
「じゃあ、兜だけでも」
「武士の誇りでござる。脱ぐ気もなければ持ってもらう気もない」
「ボル。無駄ですよ」
「むう。気遣ったんだけどな」
その言葉に榊は反応を示すかと思えば、今度は何の反応もなかった。
(あれ?)
(あなたには無理ですよ。この方は男の時の心のほうが強い。それゆえに男には微塵も興味がない。諦めなさい)
青年二人のアイコンタクトに気付いた榊は頭に?マークを浮かべていたが二人は気にしない。
諦めきれないボルはゴルドに再びアイコンタクトをとる。
(最終手段として襲ってみるかな?)
〈この方は鬼神と呼ばれていたそうです。死にたければどうぞ、ご勝手に〉
「おい。ボルよ、お前は良からぬことでも考えているのではないか?」
その榊の何でもないような言葉にボルは絶句した。
考えていることが見抜かれているなんて…………。
「そんなことはない。なあ、ゴルド?」
「どうでしょうかね?案外そうかもしれませんよ」
おい!ボルは内心舌打ちした。
こいつ…………とボルはゴルドを睨みつける。
「はは。怖いですよ、ボル」
「お前なあ…………」
「どうやら図星のようでござるな。成敗してくれる」
シャッと榊の刀が抜かれる。
銀色に光り輝く刀身はこの上なくおっかない。
「まて、落ち着け榊!落ち着くんだ!」
「拙者は女の敵になりさがったボルを許しはせんでござる。覚悟!」
「お前は確か男…………」
「元でござる。今は女だ」
ゴルドは周りを愉快に走りまわる内心愉快ではない榊とボルを微笑みながら眺める。
〈それにしても、ここが森で良かったですね。榊。市街地で刀を振り回して人を追いかけていたら間違いなく捕まりますからね〉
ゴルドはそんな事を思いながら立ち上がり、手をパンパンと二人に聞こえるように叩く。
その音を聞いて一瞬止まる榊とボル。
しかし、文字通り一瞬であった。
すぐにまた走る。
「そろそろ屋敷につきますよ!」
「何!?」
その言葉を聞いてボルは急停止する。
「せいやっ!」
「のわあ!」
間一髪ボルは榊の上段からの振りをかわす。
そこから榊は突きにもっていく。
「諦めるでござる!」
「榊、雇われたくないのですか?」
「うっ…………」
ボルの首元で榊の刃が止まる。
ボルは目を瞑り、死を覚悟したような顔で口をパクパクしながら手を合わせていた。
榊はちっと舌打ちをして刀をひき、鞘に戻す。
「ここでこのようなけしからん奴を成敗できぬとは悔しいでござる」
「助かったのか?」
「榊、殺すのはやりすぎです。痛めつける程度のほうが良いと思います」
「お前、俺の味方じゃないのか?」
「僕は誰の味方でもありませんよ」
にっこりと、笑う。
その笑みはボルにとって悪魔の笑みであった。
「ほら、屋敷はもう目の前です。早く行きましょう。あまり遅いと親方に怒られます」
「そうだな」
〈ボルよ。いつか貴様を…………〉
結果的にボル達は魚ではなく、榊を釣り上げて連れ帰ることになった。
親方にたっぷり怒られることを覚悟しながら二人は榊を連れて屋敷の扉を開けた。
なんか文章が雑になったような気がします。
暑さのせいでしょうか?
感想、指摘など一言お待ちしております。