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拾七話 レイゼン平原の戦い。決着。

今回はかなり長いです。(作者的に)

それではどうぞ。

拾七話 レイゼン平原の戦い。決着。







「バドレン様っ!敵の軍が大門を突破しました!」


ブレンダンの銀色の兵が実の娘が戦っている最中に屋敷の最奥の塔にまで逃げてきたブレンダンの大将、バドレン・ブレンダンに状況を報告する。ユガ邸の赤い兵は一人の将軍らしき人物を先頭に真正面から攻めてきた。

あの先程までの猛暑で約三万の兵の過半数が散り、将軍と軍師の自分の実の子供が正体不明の蒼い少女に命を奪われ、他の兵が混乱している時に攻めてきたユガ邸の軍をバドレンは普段の厳つい顔をぐにゃっと歪ませ、怯えた表情で望遠鏡を使って遠くから見つめる。

兵の声が耳に届いていないのかバドレンはガタガタと体全体を揺らす。恐怖のため震えているのは誰でも見ただけでわかる。


「バドレン様!」


先程バドレンに報告した兵とは別の銀色の兵は自分の主人であるバドレンの名前を声を荒げて呼ぶ。ブレンダンの屋敷の門が突破されたのだろう。声の必死さがそういうことなのだろうと思わせる。

バドレンの持つ装飾過多な望遠鏡はある一人の人物を捉えていた。

橙色の長髪の赤い異国の鎧に身を包んだ剣士。長い異国の剣である刀を振り回しブレンダンの銀色の兵を薙ぎ倒すその姿はその厳つい鬼の仮面からわかるようにまさしく鬼だった。よく見ると一人だけで兵を薙ぎ倒しているように見える。他の赤い兵は皆一人の異国の剣士が切り開いた道をただ進軍している。ブレンダンの兵は何もすることができずにただ倒されていく。

まさしく無双。この戦場にあの異国の剣士と並ぶ力を持つ戦士はブレンダンの兵にはいなかった。

ブレンダンの兵は恐れの為かだんだんと後退し、ものの数分で完璧に退却の姿勢で屋敷のほうへ向かってくる。

「くそぅ!」とバドレンは装飾過多な望遠鏡を覗いたままちっと舌打ちをする。


「おいっ!どうなっている!……あの勇猛果敢だった我がブレンダンの銀色の兵たちは何故退却などをする!?」

「おそらく、恐れの為かと思われます」

「信じられん!そんなことがあってたまるものか。……おいっ!この屋敷の門も突破されたのだな?」

「はい。おそらく敵の偵察兵か何かがしたものだろうと思われますが」


バドレンは必死に脳をフル回転させ、最善の策を考える。

屋敷の玄関を突破されたのなら今自分がいる屋敷の最奥にある広い庭にある屋敷よりも高い塔に辿り着くまでには一時間弱もいらないだろう。どこぞの屋敷みたいに内部構造が迷路のようになっていないわけだし。

バドレンの頭上にピコーンと電球のマークが現れる。何か思いついたようだ。


「おいっ、この屋敷にいる兵はどれくらいだ?」

「ざっと五千強くらいかと思われます」

「その中の魔法使い共は?」

「ほんの四、五人くらいです」


にやっとバドレンは笑う。


「今からそいつらを庭に呼べ。残りの兵は庭に入られることのないように庭への門を死守させろ」

「はっ。了解しました」


命令を受けた銀色の兵はそそくさと部屋から立ち去る。

バドレンは塔の窓から庭を眺める。そこには先程の銀色の兵に連れられた四、五人の魔法使いがいた。

さっきとは別の銀色の兵が部屋に駆け込んでくる。


「バドレン様。魔法使いを連れてきました」

「御苦労。ではこの塔の儂のいる最上階の部屋まで連れてこい。一人残らずな」

「はっ。了解しました」


銀色の兵は部屋を出ていくと急ぎ足で下に降りて行った。

一人にやっとバドレンは笑う。


(憎き魔法使い共を利用するよい機会だ。ブレンダンの為に働いてもらおうではないか)


バドレンの目は塔の暗い部屋の中できらっと光った。
















血と煙と火薬の混じる異様な匂いが辺りに立ち込めるブレンダンの屋敷の中を榊とサヨ達は駆ける。


ほぼ一本道のバカでかい廊下を榊を先頭にサヨ、装甲兵、狙撃兵、装甲兵の並びで奥のほうに突き進む。装甲兵は狙撃兵を守るように前と後ろについて移動する。

サヨはどちらかというと狙撃兵の部類なのだが、足が速く回避能力に長けているため護衛には今までだれも付いていなかったが今日はいつもと違い榊がいるため、榊がサヨを護衛する形になっている。

突撃人数はざっと五千人くらい。「陣」には残りの五千人くらいが残って「陣」を守っている。

この屋敷に突っ込む前に榊は約一万くらいの銀色の兵を峰打ちや足などを斬るなどをして薙ぎ倒してきた。サヨは一瞬のうちに百人値で峰打ち等を繰り出し倒す榊を見て惚れ惚れとしていた。


(まさかたった一人で自分達の倍の兵を打ち負かすとは……鬼神の名がつけられたことが納得できます)


まさしく鬼神のような強さ。ここに来るまで自分達は援護射撃以外に何もしていない。装甲兵なんてただの護衛だ。


(ここまで強い方が見方でよかったです。敵ならもう私なんか一瞬でバッサリですね)


サヨはふうとため息を吐く。榊の頼もしい後ろ姿を見るとため息を吐かざるを得ない。


「サヨ。おかしいと思わないか?」


榊の突然の問いかけ。サヨは首を傾げ、「そういえば敵がいないですね」と呟く。

榊は敵が何か企んでいると察知したらしく、周囲をきょろきょろしながら走っている。


「サヨ。前方と後方に何か気配を感じないでござるか?」

「?」


サヨは前方と後方を交互に見る。特に目立った気配は無いが…………。

はっとサヨは気づく。


「榊様!前方と後方に敵の気配があります。どうやら敵は挟み撃ちをするつもりなんだと思います」

「だろうな。後ろの装甲兵と狙撃兵の半分は後ろの兵を!残りは拙者と共に前の兵を!」

『了解!』


各自、個々の武器を構える。後ろの装甲兵と狙撃兵の半分はその場に立ち止まり、後ろから迫るブレンダンの兵を迎え撃つ態勢にはいる。

榊達は前にひたすら前進する。やがて敵の銀色の兵が剣を構え、榊達に突っ込んできた。


「はあぁ!」


榊は敵に突っ込むと次々と薙ぎ倒す。華麗に刀を振り回し次々と倒していく赤い鬼は勇ましく吠え、敵に恐怖を植え付ける。

サヨは遠距離から榊を狙ってくる弾や矢を自動式二丁拳銃USB(アルティメットサヨバスター)で撃ち落とし、装弾数に制限が無いのかリロードすること無く機関銃のように引き金を引いたまま弾を銀色の兵を撃ちまくる。

乱射しているのに誤射が一回も無いのはサヨの腕がよいからか、榊の運が良いのかはわからない。


狙撃兵は立ち止り、武器を構え、仲間を誤射しないように狙撃する。装甲兵は榊とサヨの猛攻からぬけてきた兵を打ち倒す。

ものの数分もかからないうちに約二千五百程の前方の銀色の兵は全員地面に倒れた。今回仕留めた数は榊よりサヨのほうが若干多かった。乱射していたのだから当たり前か。


「これで前のブレンダンの兵は全部でござるか」

「そうですね。後ろのほうはまだ交戦中の様です。……どうします?榊様?」

「拙者とサヨと数人の狙撃兵だけを残し、他の兵は後ろの兵の援護を!」

『了解!』


そういうと、少数の精鋭のような凛々しい顔つきの狙撃兵だけを残し他の兵は後ろの兵の援護に行った。皆まだ余裕があるらしく、表情が柔らかい。了解の声も元気がある。榊は上手くいっているなと内心ほっとした。


「さて」


榊は前のブレンダンの兵が守っていた扉を見つめる。その木でできた大きい扉の中央には奇怪な魔法陣と思われる銀色の紋章が浮き出ていた。

試しにドアノブを握って引いたり押したりするが開かない。鍵がかかっているのか。


「サヨ。どうにかならぬか?」

「うーん…………結構強力な魔法のプロテクトがかかってますね。下手に開けようとすると防御の魔法で神経を焼かれてしまいます」


というとサヨは自動式二丁拳銃ASB(アルティメットサヨバスター)を腰についたホルスターにしまうと右手を前に突き出して何かを高速でぶつぶつ呟く。その瞬間どこからか光がサヨの右手のひらに集まり、形を形成する。ものの数秒でロケットランチャーのようなものが出来上がる。

そのロケットランチャーをサヨは構えると扉に向けてロケットランチャーの先端についた榴弾を飛ばす。それは見事に扉に着弾し爆発するが扉が壊れるどころか傷すらつかない。


「あれはサヨの話に聞くろけっとらんちゃーか?」

「正確に言うとRPGです」


榊の横から幼い少女の声が聞こえる。結構ハスキーな声に榊はびっくりして横を見る。

先程の凛々しい表情をした狙撃兵の一人だ。かなり若いのか背がかなり小さい。


「はあ……」

「略さないで言うとRocket-Propelled-Grenadeでロケットモーターで加速する榴弾を射出する無反動砲です」

「はあ……」


ペラペラとよくそんな噛みそうなことを言えるなと榊は感心する。彼女はこういうことには詳しいのだろう。


「へえ。コーラルちゃんはよくそんなこと知ってるね。お姉さん感心しちゃったよ」


と、サヨが横からその背の小さな少女の頭を撫でながら言う。まるで母が子を褒めるときのようなそんな仕草を見て榊はクスっと笑う。

そのコーラルと呼ばれた少女はかあっと顔を赤くしてサヨの手を払いのけて睨みつける。


「お子様扱いしないでよ!サヨ」

「お姉ちゃんは?全く。本当に昔から狼なんだから」

「実の姉妹でも無いくせにそんなこと言えないわ」


ぎゃーぎゃーとコーラルとサヨは言い争いをする。それを見ている他の狙撃兵が苦笑いをする。どうやらこういうことは日常茶飯事らしい。


「そのこーらるという小娘よ。前の扉は何とかならんでござるか?」


榊の小娘という言葉を聞いたコーラルが急に言い争いをやめて扉の前に行くと左手を前に突き出すと一言『開け』と呟く。

するとどうだろうか。RPGでも傷がつかなかった扉がパカンと気持ちが良いくらいに綺麗に開いた。


「おおっ!すごいでござる。やるではないか小娘」


榊はワシャワシャとコーラルの珊瑚色のウェーブのかかった肩くらいまでの髪の毛を撫でる。わざわざ痛くないように籠手を外して撫でてることが榊の女性に対しての対応か。

コーラルは「えへへ」と年相応の少女の笑みをみせる。もっとやってもっとやってという褒めてほしいという思いが榊に伝わったのかワシャワシャと榊は撫で続ける。

ふっとサヨは鼻で笑う。


「何がおかしいのよ?」


コーラルは案の定噛みつく。

サヨはいや……とクスクス笑う。


「飼い主に褒められて喜んでいる子犬みたいな表情をしているから……つい…………。普段ツンツン噛みつく癖にそんなにデレるなんて面白いなあって」

「子犬っていうなっ!!」


コーラルの跳び蹴りをサヨはRPGで防ぐ。RPGはコーラルの蹴りで砕けると光の粒になって消える。


「元気でござるな。お主らもそう思わぬか?」

「そうですね。あの娘はとても元気で狙撃兵皆のムードメーカーですよ」

「だろうな」

「ちなみに狙撃の正確さは彼女がナンバーワンです。正確さだけならサヨさんも敵いません」

「ほう。高性能すないぱーというやつか」


榊とその他の精鋭狙撃兵達はサヨとコーラルの喧嘩?をみて談笑している。

確かに銃の腕だけならサヨも敵いそうにないと思う。サヨは体に数発当てて倒していたが、コーラルは全部一発で仕留めていた。しかも全てヘッドショット。一人だけ他の狙撃兵よりも遠距離で撃っていたので結構目立っていた。

乱射のサヨと正確なコーラル。弾の無駄使いをするサヨは結構な金食い虫かもしれない。


「あ、ちなみにサヨさんの弾はサヨさん自身の魔力でできています」

「魔力の蓄積量が半端じゃないのか?」

「はい。ちなみにコーラルも魔力の蓄積量は半端じゃありません。それこそお嬢様の次くらいに」

「やはり主がなんばーわんか」


ははっと狙撃兵達が笑う。


「そりゃもう。いくら次といってもお嬢様とコーラルでは桁がかなり違いますけどね」

「コーラルが一としたらお嬢様は億くらいですからね」


うわあと榊は驚く。


「ちなみにどれくらい?」

「神に匹敵する量の魔力がありますよ」


普段仕えているスーは意外にもかなり強大な人物らしかった。あんな変態なのが。もはやチートだ。

榊は会話を断ち切るようにふっと扉のほうを見ると籠手を装着し、刀を構える。


「さて、サヨと小娘。そろそろやめるでござる」


むーと頬を膨らませるコーラルとげらげら笑ってるサヨは榊の見ている方向を見て背筋が凍った。

そこは大きな庭だった。花が咲き誇るスーの庭に負けないくらいの花畑だ。

普通なら和む風景だが、今はまったく和めない。


そこには五体の巨大な粘土でできた人型の像が立っていた。

サヨが「嘘……」と声を震わせる。


「あれはなんでござるか?サヨ」

「あれはゴーレム。簡単に言うと鉄壁の門番です。なにかを守るために作られ、自分からは攻めることのしない人形です」

「ほう。で、あの人形の中に入っているモノはなんでござるか?」


サヨは驚く。榊がゴーレムを見ただけで中に何かが入っているのかわかったかのように聞いてきたのだから。その声はとても澄んでいて榊の決意がひしひしと伝わってきた。


「生きた人間です」


「ほう。やはりな」と呟くと榊はゴーレムのほうに歩みを進める。

ゴーレム達は口のような部分からプシューと蒸気を吐きだす。曇った赤い大きな一つ目が榊を見つめる。


「榊様っ!一人では無茶です。一回後退して作戦を練りましょう!」

「何故でござるか?」

「見たところあれは古代の大戦で使われていた旧式のゴーレム。核となる人間は入っていますが、中の人間の制御は全く効きません。一言で言うなら狂戦士(バーサーカー)です」

「何が言いたいでござる?」

「それ以上近づくとたとえこちらが攻撃する意思が無くても徹底的に攻撃を仕掛けてきます。そして中の人間の命が尽きるまで無限に再生し、止まりません」


榊は足を止め、後ろを向く。

サヨをまっすぐ見つめる榊の目は少し潤んでいた。


「中の人間を、救い出す方法はあるか?」

「ありません」


サヨは榊の目をまともに見ることができずに視線を逸らす。榊の目をみていると自分が泣きそうで怖かった。

すっとコーラルが右手を挙げる。


「どうした小娘」

「正確にはまだゴーレムは本格的に起動していない。…………方法がある」

「ほう。言ってみるでござる」


決心した顔でコーラルは榊を見つめる。


「スーお嬢様を呼び、中の人間を取り出してもらうことです」

「コーラル!それは膨大な量の魔力をつかうからお嬢様に負担がかかる。……お嬢様の体が弱いの知ってるの?」

「知ってるけれどそれ以外に方法は無い。本格的に起動する前ならそれでいけるけど本格的に起動したらもうゴーレムの中の人命救助は不可能。…………まあとりあえずはお嬢様に連絡してみて指示を仰ぐのが最善の策だと私は思うよ」


サヨはキッとコーラルを睨みつける。優しいお嬢様のことだ。二つ返事で了承してゴーレムから中の人間を救出するだろう。自分のことを全然気にしないで。

サヨに睨みつけられたコーラルの表情は思いのほかけろっとしている。こういうことには慣れているのだろう。


「サヨ」

「なんですか」


サヨは榊の目を見ず、コーラルを睨みつけたまま返事をする。


「主に連絡を」

「嫌です」

「強情を張るな。主に連絡を」

「嫌です」


ふうと榊はため息を吐く。


「ではサヨ。拙者の予想だとこのまま何もせずに放置しておくと敵の大将は主暗殺を企てる黒幕のところへ逃げるであろう。おそらくはあのごーれむは時間稼ぎ用。中に入っているのはおそらく敵の大将が嫌っていた魔法使いだろう」


サヨは反応しない。


「そして力を蓄え、ユガ邸に大群で押し寄せるであろう。それこそユガ邸の兵力の何倍、何十倍、何百倍の大兵団が」


サヨははっと反応して榊を見る。


「サヨの話を聞く限りもしこのまま突っ込むと拙者らは間違いなく壊滅。かなりの犠牲を生む。そして近いうちに兵力が極端に減ったユガ邸が襲撃され間違いなく滅びるであろう。少なくとも拙者の今の力では守りきれる自信は無い」


サヨは榊の目を見つめる。


「で、最後に残った選択肢は主に連絡を取ることだ。仮に主が助けに来たとしても、何も一人で来る訳はあるまい?」

「あっ…………」


サヨは気づく。


「主と同じかそれ以上の魔力を持つグリムも主は連れてくると拙者は思うでござる。主も馬鹿ではない。ちゃんと考えているだろう」


榊はサヨの目を見つめる。


「死神でも神でござる。魔力は有り余っていると思うでござるよ。…………さあ、サヨ。連絡するでござる」

「はい……」


ポケットからトランシーバを取り出し、サヨはスーに連絡を取る。


「もしもし、お嬢様?」

「なあに?サヨ?」





ふっと、サヨの真後ろから声がした。サヨは慌てて後ろを振り向く。

そこには後ろのブレンダンの兵と戦っていたユガ邸の兵を引き連れたスーとグリムと……何故かクランツがいた。クランツの肩には何故か簀巻きで猿轡までつけられた厳つい男性が担がれている。


「お嬢様!…………なんでこんな前線に」

「いやぁ……暇だったから来ちゃった。敵さんの大将もあっさり捕まえちゃった。本当に転移って便利だねぇ」

「いやあそうですな。難なく侵入するにはもってこいの魔法ですな。……それにしてもまったくブレンダンの人間がどれほどの戦闘力を持っているのかと期待した私が馬鹿でした。まさか拳一発で終わるとは」

「主?いつからそこに?」


榊は驚愕の表情でスーを見る。


「榊がぁ、旧式のゴーレムに突っ込みそうになる前から。姿隠してた」

「あなたという人は…………では拙者らの話も?」

「うん。全部聞いていた。……さてグリム?人命救済を始めるよ?」

「わかった。……まぁ死神が人を助けるのってあまりないからぁ皆凝視しなさいよ!」


その場一同別に凝視しなくてもいいだろというツッコミはしなかった。グリムを泣かせる危険性があったからだ。泣かせたら全てが「ぱあ」だ。


すっと魔法で浮き上がるスーとグリム。榊達が米粒ほど小さくなるまで上昇すると二人は止まる。榊達は邪魔にならぬよう屋内に避難した。

スーはゴーレム達の動き出す一歩手前のところで止まり、右手を突き出す。その手のひらに光が収束すると真っ白なスーの身長ほどの長い杖が現れる。

スーはゴーレム達に杖の先端を向けると一言『固定』と呟く。白い縄状の光がゴーレム達を地面に縫い付ける。

次にスーは『停止』と呟く。白い縄状の光はゴーレムの全身に突き刺さる。ゴーレムの曇った赤い瞳は色を失い、黒く変色する。機能が完全に停止したのだろう。

刃を隠した棒を頭上でぶんぶんとグリムは振り回し、棒の先端をスーに向けて『対象を選択』と呟く。スーの足元に蒼い魔法陣が現れ、そこから柔らかな蒼い光がスーを包む。

次にグリムは『対象捕捉。魔力の供給を開始』と短く呟くとグリムの体は蒼く発光する。スーの体はグリムと同じように蒼く発光する。もっとも、その光は蒼というよりは水色であった。


『これより、救命の大魔法陣を形成する』


スーとグリムの二人の声が見事に重なる。二人の体が強く輝くと水色のブレンダンの庭をすっぽり覆うほどの魔法陣が一瞬で地面とスー達のすぐ足もとに形成される。


『玉を形成』


魔法陣に五つの大きな玉が形成される。その玉はゴーレム達の頭上に一つずつ形成される。


『目標を捕捉。照射!』


水色の大きな光の柱がゴーレム達を包み込む。膨大な魔力が地面を震動させる。榊達も揺れている。

やがて、ゴーレムの体から核にされた魔法使い達が出てくると、空中に引っ張り上げられる。

ゴーレムから全ての魔法使いが出るとゴーレムは崩れ、元の土になる。


『照射を中止。救命の大魔法陣を分解』


光の柱が消え、魔法使い達がふわふわとゆっくり落ちる。

救命の大魔法陣は文字通り徐々に分解されていき、空中に四散して消えた。


魔法使い達が柔らかい草花に受け止められ、その数秒後にスー達が降りてきた。

榊達は揺れで倒れた自らの体を起こし、スー達に近づいていった。


「主…………ぐりむ……」

「これでぇ、一件落着ぅ」


にっとスーは笑って榊に抱きついた。






今回はかなり長いので(作者的に)誤字、脱字が結構あるかもしれません。


これでレイゼン平原の戦いは終わりです。

また日常に戻ります。実はこの後のネタを考えてなかったり。

またゆっくりと更新していきます。


指摘、感想等一言お待ちしております。

それでは。

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