拾六話 レイゼン平原の戦い。 参
か・な・り、遅れました。
すいません…………本当に自分勝手な作者ですね。
それでは、長らくお待たせしました。
拾六話、始まります。
拾六話 レイゼン平原の戦い。参
ヒュウゥゥ……と気候に合った涼しい風がレイゼン平原に風が吹く。先程までのあの暑さはもう失われ、今は気候に合った気温にまで下がっている。
燦々とまではいかないが、やわらかな日の光が広大な大地に降り注いでいる。
グリムの言う『神様のチャンネル2』の世界の暦の上では秋である。
「榊様っ!先程グリムリーパーが敵の将軍と軍師を倒したとの報告がありました」
広大な大地に作られたそこそこ大きなどこぞの屋敷を思わせる「陣」に全身真っ赤な軽装の偵察兵がこの「陣」の最高責任者である榊のところへ報告に来た。走ってきたのだろうか、肩でぜえぜえと苦しそうに呼吸している。部屋のドアを勢いよくドンと開けたのも疲れのためなのか。
「倒した?もしかして殺したでござるか?」
直立不動の姿勢でどっしりと構えている全身真っ赤な鎧を着こみ、兜はなく、代わりに鬼を思わせる目の部分が大きくあいた厳つい仮面を顔につけた鬼もとい武者、榊は眉を顰め、偵察兵に問う。榊の鬼のような目を見てびくっと体を硬直させる。ちなみに榊の黄緑の目はよく見えるが、眉は仮面で隠れていて見えないので実際は眉をしかめたように見えたといったほうが表現的には正しい。
「倒した……ということでしょうから、そうではないかと」
「ふう。ぐりむには時間稼ぎついでに両方捕まえて来いと拙者は言ったのに……」
「ま、昔から人の話を聞かない方でしたからね…………」
榊の横にいたサヨが若干呆れ口調でぽつりと呟く。サヨの服装はどこかにピクニックにでも行くようなジーパンにワイシャツにベスト。さらには羽付きの帽子なんかをかぶっている。
榊はサヨを一瞥すると、はぁ。とため息を吐いた。
「?……どうしたんですか?」
サヨが頭に?を浮かべながら榊に問う。榊は「いや、なんでもないでござる」とサヨに気にしなくて良いという意思をサヨに伝える。
サヨは「そうですか?なにか困ったことがあったのなら何でも言ってくださいね?」とにこっと榊に微笑む。いつものゼロ円スマイルとは違い、明るさ二倍増しの笑顔に榊はついついつられ微笑む。
(とても、そんな恰好で戦場に来たのか!?死にたいのでござるか!!…………とは言えないでござるなぁ)
そんな軽装備では上半身と下半身がお別れになってしまってもおかしくないと榊は思う。榊的にはもう少し何か着こんでいてもらいたいという思いがある。
もうこっちの世界に来てから何日、何週間たったのだろうか。榊は覚えていない。
(まあ、いざとなったら拙者が守るからそれくらいの軽装備で逃げ回っていてくれたほうが助かるという感じもしないわけではないのでござる)
実際、遊撃型なのだろう。そのための軽装備だと言われると納得できる。サヨの腰についているホルスターに収まった二丁の自動式拳銃USBは妖しく光っている。
なんともおかしな名前だなと榊は思うが、けっして顔にも口にも出さない。多分殺されるから。
ちなみにモデルは『神様のチャンネル1』の榊の元いた時代の何百年後かくらいに作られたコルトM1900という自動式拳銃らしい。
「で、今ぐりむは何をしているでござるか?」
「はっ、何もやることが無いのでただひたすらぼーっとしているそうです」
榊はその言葉を聞いてため息を吐く。
「では、ぐりむに主の元に先に戻っているように伝えるでござる。拙者らはこれからブレンダンの兵の残りを無力化するでござる」
「はっ!」
偵察兵は小型の通信機みたいなものを服の内ポケットから出すと、連絡をするためにかアンテナを伸ばしスイッチみたいなものをオンにする。
そして、最初は猫撫で声で柔らかい感じで連絡するとスイッチをオフにする。その小型の通信機を服の内ポケットに入れると榊達の居たところから走って出て行った。
「さっきの子をあやすような声はなんでござるか?」
「アホの子に連絡していたのではないですか?…………あの子すぐ泣きますし、軽くここら辺一帯をしょうもない理由で焼野原に変えちゃいますしね」
榊の疑問にサヨは即答する。榊は話を聞く限りグリムのことをとてもメンドクサイというかはた迷惑な奴だと思う。
「で、いつ頃敵陣に攻め込みますか?」
「将軍と軍師を倒したらしいから敵は混乱しているだろう。混乱に乗じて一気に攻め込むでござる。……時間は十分後かくらいでいいでござるかな」
「結構すぐですね」
「敵の大将はまだ健在らしいでござるからな。放っておくと色々と面倒でござる。策をたてられる前に攻め込み、一気に無力化し、そして大将を捕縛するでござる」
「わかりました。それでは兵全体に伝えておきますね」
そう言うとサヨは近くにあった大きな黒い通信機のスイッチをオンにすると、カラオケのマイクのようなものにむかって少々ドスの効いた声で「十分後にここを出る。各自装備を整え、「陣」の門の前に今すぐ集合!」と短く言うと、通信機のスイッチをオフにする。
「そういえば、榊様は行くのですか?」
「無論、拙者が先頭になって敵陣に攻め込む。皆の士気を高めるためにも、皆の危険を少しでも減らすためにも。拙者が先頭になって敵を蹴散らすでござる」
へえーとサヨはぽーっとしていた。なんだかカッコいいと思ったのか。
「でも、将軍である榊様が前に出るのは危険なのでは……」
「心配することは無い。拙者は負けないでござるよ。拙者がいる限り敗北なんてありえないでござる」
仮面の中の瞳は笑っていた。その瞳を見ていると榊に鬼神なんて言葉は似合わないとサヨは思えてきた。誰であろうか、この優しい武者に鬼神の異名をつけたのは。
「さて、そろそろ行くでござる」
「はい」
サヨは榊の右斜め後ろから三歩下がって歩く。
これから戦場に行くと思うと、自然といつもと同じように体が強張るものだけれど今日は違った。
なぜなら今のサヨにはとても頼もしい人物がいるからだ。
名前は榊。
異世界から来た鬼神の異名を持つ武者。
初めて会った時から全体的に柔らかく温かい人だと思った、裏表が無くただ純粋で真面目でとても優しい武者だ。
これから戦場にむかうが、少しでもこの武者の役にたてるよう逃げながらでも援護しよう。
自分の広い視野と長い射程と狙撃の腕で榊の障害を潰そう。
そうサヨは決意した。
次回投稿はそんなに遅くならないと思いますが…………自分勝手な作者なのでどうなるかはわかりません。
こんな作者の書いている作品でも楽しんで読んでくれたら嬉しいと思います。
指摘、感想等ありましたら一言お待ちしております。