拾伍話 レイゼン平原の戦い。弐
かなり遅くなってしまい申し訳ありません。
学校のほうが忙しかったので遅くなってしまいました。
それでは、拾語話、どうぞ。
拾伍話 レイゼン平原の戦い。弐
「はあ!」
ガキインとミトレンの杖がグリムの持つ長い棒を勢いよく弾く。弾かれたことにグリムは内心驚く。
ミトレンはグリムのガードが空いた一瞬の隙を逃さずに拳を腹に打ち込む。
ゴッという鈍い音と共にミトレンの拳に痛みがはしる。くっとミトレンは痛さのあまりか渋い顔になる。
(堅っ!魔法で強化したのにこんなに痛いのか。相手も強化をしているのだろうが些か堅すぎる)
ミトレンの拳が赤くなる。じんじんと腫れているのが傍から見てもよくわかるほどに。
こんなにも本気で長時間魔法を使った戦闘はしたことが無かった。
天才であるからか、大抵の相手ならば数十分かからずに倒せてしまう。
しかし、今回の相手は違った。やわらかそうで弱そうでいかにも少女な外見をしているくせに異常なほど攻撃が効かない。現に今も目の前の蒼い少女はミトレンが最大までに強化した拳を腹に打ち込まれてもけろっとしている。それどころかにいっと笑っている。正直気味が悪い。
さっきから防いでばっかで何も攻撃してこないのも謎だ。ガード以外の行動と言ったらミトレンが光の矢を発射するために作った光の球を長い棒から発せられた蒼い炎によって一発で破壊したことくらいしか思い当たることが無い。
「あんた、時間稼ぎしてない?」
「えぇ?そんなことないよ?時間稼ぎをしようなんてこれっぽちも思ってないんだからね?」
そう言って蒼い少女、グリムは左手に持った長い棒で拳が駄目だと判断したミトレンの杖での猛攻を軽く捌きながら右手の親指と人差し指で全然思ってないということを伝えるかのようにジェスチャーをする。
そのジェスチャーを見てミトレンはフンと鼻で笑う。
「嘘ね」
「なんで?なんで嘘だってわかるの?」
「だってあんた汗をタラタラ流しながら抗議してるし。一目で嘘をついていることくらいわかるわ」
グリム、絶句。
「もう。ばれちゃしょうがないよね。最初は時間稼ぎして捕まえるつもりだったんだけど、今ここで倒しちゃうよ」
「できるものならやってみ――――」
ガキィンッ!!
ミトレンは挑発をやめ、咄嗟のグリムの攻撃を杖で防ぐ。
(くそっ……この娘……死神か)
グリムの目は妖しく光り、体からはプレッシャーに似た冷気のようなオーラを噴出させていることがミトレンにはわかった。この世界の死神独特のオーラだ。
ミトレンは自身の杖で防ぐグリムの得物を見る。柄と思われる部分に直角についている、よくファンタジーモノに出てくるような形をしたポピュラーな鎌。
しかし、グリムの得物の銀色に光る刃には蒼い何かしらの意味を持つ文字が刻まれ、妖しく光っている。
普段使われている農具の何倍ほどか……少なくともグリムの背丈くらいはある。
ギリギリとミトレンの木製の杖はグリムの鎌に削られる。ほんの数秒で半分近く。
「!?……限界まで強化したこの“祈りの杖”がここまで削られるなんて……!!」
「へぇ。その杖が“祈りの杖”か。これが悪しきモノに絶大な力を発揮するというあの“宝具”なんだ。……」
クスクスとグリムは口の端を釣り上げる。
「大したモノじゃないなぁ!」
ズバンッ!!
あははとグリムが笑い飛ばすと同時に杖は綺麗に斬られ、ミトレンの左腕が肩の部分から派手に斬り飛ばされた。瞬間、ミトレンの斬り飛ばされた左腕があった場所から勢いよく血が噴き出す。
「っ!?くあぁっ!!」
ミトレンはあまりの痛さに叫ぶ。咄嗟に残った右腕で治癒の魔法をかけるが、血が止まる気配はない。
「クソッ!!止まれ、止まれぇー!!」
「止まるわけないじゃん。死神の鎌に斬られたんだよ?どんな魔法を使っても“神殺し”の武器の傷が治ることはないよ」
その言葉を聞いたミトレンの動きが止まる。“神殺し”の武器。確かにグリムはそう言った。
ぞくっとミトレンの背筋が凍る。その顔にあった痛みに苦しむ顔が一瞬で怯えたような表情になる。
“神殺し”……この世界に存在する武器の中で唯一神と呼ばれる高位的存在を殺せる武器。その武器によってつけられた傷はどんな魔法を使っても治ることはない。傷がついた瞬間から徐々に腐りはじめ、最終的には体全体が腐り、死に至る恐怖の武器。
そんな武器を神である死神が持っているなんて……ミトレンは反則だと思った。
時間が刻一刻と過ぎていく。
時間が経つにつれてミトレンの体は黒く変色していく。
ミトレンの目からは涙がぽたぽたと零れ落ちる。
その様子を見て楽しそうに笑うグリム。完璧に狂っているのか、死神だからなのかは定かではない。
「ねえ」
「……何よ……」
ミトレンはグリムをきっと睨む。しかし、怯えながらの睨みは迫力が無く、グリムは何も怖いとは感じない。
「このまま苦しみながら死にたい?それとも苦しまずに死にたい?」
「……勝手にすれば?」
ミトレンは諦めたのかもう泣いたりすることはなく、恐怖の表情から無表情へと変わっていた。
グリムはつまんなそうに唇を突き出して拗ねたような顔になる。
「じゃあ、このままでいっか」
「…………」
ミトレンはただの屍のように沈黙する。その様子をグリムはただ見つめる。
ミトレンの体はもう殆ど腐り、黒く変色した塊になりかけていた。綺麗に残っているのは顔の部分と右足の脹脛くらいか。
「つまんないなあ。本当につまんない」
「…………」
喉がほぼ腐ったのか喋られなくなったミトレンはヒューヒューとわずかに開いた口元から呼吸をしている。正直まだ生きていられることが不思議なくらいに腐っているのに。肺はまだ腐って無かったのかとグリムは驚く。
「今頃皆は何してるんだろうなあ」
グリムは地面に鎌を刺し、そのまま体育座りをしながら考え事を始めた。
なんだかグリムがチートみたいな感じに強いですが、あまり気にしないでください。(一応死神ですから)
そういえば主人公である榊中心の話を最近書いていなく、どんどん影が薄くなっている感じがします。
そろそろ榊中心の話を書かなければ……。
指摘、感想等一言お待ちしております。
それでは。