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拾四話 レイゼン平原の戦い。

たいへん遅くなりました。

すいません!!

拾四話 レイゼン平原の戦い。



蒼い空、白い雲、紅い太陽。

季節は秋のはずだが、とても秋とは思えない暑さがユガ邸より小さいが十分に大きい屋敷以外には何もない広大な『レイゼン平原』にいる多くの人間を苦しめる。

その熱の発生源たる太陽は蒼い空の中でいっそ憎らしいほど輝いている。その灼熱のまるでルビーのように紅い球体から照射される太陽光はレイゼン平原の大きな鎧を着込んだ大勢の人間を虫眼鏡で焼かれる蟻のように焼く。

レイゼン平原に建つ屋敷『ブレンダン』にいる役三万程の兵の過半数は戦わずして散った。残りの兵は何とか気力で持ちこたえていた。


「くそっ、どうなってやがる!!いきなり気温が上がりやがって……」


兵を率いる兵士団長アトレン・ブレンダンは兜を取り、額を流れる汗を拭く。髭が目立つ三十過ぎのおっさんは顔を真っ赤にし、怒っていた。

先程ラファエルの森にいる自軍の狙撃兵からの救助要請があったが無視。あのラファエルの森に救助に行き、そのまま戦闘にでもなってみろ。世界中の人間を敵に回すことになる。ただでさえ正面からぶつかったら確実に負ける戦だ。そんなことできるはずもない。

狙撃兵達の救助より、今この状況を如何にかしないとやばい。確実にやばい。

偵察兵からのトランシーバーを使った敵発見の報告があってから数秒もしないうちに気温の急激な上昇。

時刻は昼。太陽は真上。気温の上昇はあり得るが、十度以上もの急激な気温の上昇は聴いたことが無い。


「これは魔法の部類のモノですね。身回りに行っていた偵察兵の報告後数秒もしないうちの気温上昇。魔法以外では実現不可能です」

「正面から突っ込んでこずに姑息な技を使ってこちらの弱体化図るか。…………卑怯者共めっ!!」

「わざわざ正面から何の策もなしに突っ込んでくるような戦闘狂は兄様以外にはいらっしゃらないかと」

「うるさいっ!ミトレンは『調整の結界』を張るのに集中していろ!」

「了解。では兄様、じきに張り終えますのでその時にまた」


アトレンの妹のミトレン・ブレンダンはいかにも軍師のような格好をしていた。実際に軍師なのだろう。

やる気のなさそうな表情で溜息をつくと『調整の結界』を張るために目を閉じて集中する。

今、このブレンダン軍にいる魔法使いは数人。約三万人いた時から人数が変わっていない。

普通の兵士が多い中、極端に魔法使いが少ないのはアトレンとミトレンの父バドレン・ブレンダンの極度の魔法使い嫌いのせいだ。

ミトレンはアトレンよりも扱いが酷い。ミトレンが魔法使いだからか…………。

数分後、バシュウ…………という何かが蒸発するような音と共に屋敷とアトレン達がいるところを囲む水色の大きな『調整の結界』が張られその姿を現した。

水色のドーム状のその『調整の結界』はまるで大きなシャボン玉の様だった。つついたらパチンと割れそうである。


「それはそうと親父達はどうした?避難したか?」

「いえ、そこはまだ分かりません。なにせ先程の偵察兵の報告から通信系の機器は使い物になりませんから確認のしようがありません」

「通信系の魔法で通信すれば良いじゃないか!!」

「それは無理な話です。この屋敷に魔法が使える以前に魔力がある方が殆どいませんからね。通信できるわけがありません」


その言葉にアトレンは額に筋をうかべる。魔力は生まれついて持っているが、魔法は使えない。魔法は一部の才能ある者にしか使えない。努力で補えるようなものではなく、一回唱えて使えなかったらもう使えないのだ。アトレンは何回も試したが使えたことはない。

異様に秀才ぶっている妹の態度と言葉に日頃から鍛錬を欠かさないアトレンはミトレンに苛立った。

馬鹿にされるということがアトレンにとって一番我慢ならないことなのだ。

至極当然なことを言っている自分の妹が憎らしかった。


「親父の傍に魔法使いはいないのか?」

「あの人は魔法使いが大嫌いで近くに寄らせません。さっき確認しましたが誰もついていませんでしたよ」

間髪入れずに答えるミトレン。最初からその質問が来ることが分かっていたかのような回答にアトレンはまた苛立った。

手をパタパタさせて自分を扇ぐミトレン。『調整の結界』の効果で気温は元の秋の気温になっているはずなのだが何故か扇ぐ。

ミトレンの視線の先にはアトレン。やる気のない表情から一変、暑苦しい物を見てうんざりしたような表情で扇ぐ。その様子からアトレンが暑苦しいのだとわかった。


「ミトレン、お前やる気あるのか?」

「ぶっちゃけ無いです。あたしはインドア派なので屋外にはでてあまり戦いたくないというか戦闘自体したくないです。めんどくさいし汗かくじゃないですか。血の気盛んな方々でどうぞやっといてくださいと思います。」


ガンッと鈍い音がアトレンの拳がミトレンの頬にヒットしたように見えたが、よく見ると薄い壁のようなものがアトレンの拳を防いでいた。


「おー怖い。血の気の盛んな方はいつもこうですね」

「ふざけるなっ!!そんなやる気のない脱力系の気を纏って戦場に立つな!!」

「唾とばさないでください。…………ぶっちゃけ汚いです」

「お前っ!!」


ミトレンに掴みかかろうとしたアトレンを必死になって他の数人の兵士が押さえる。

「離せっ!!」という怒声が結界内に響く。兵士達は離す気配が無い。

押さえられているアトレンをミトレンは冷ややかな視線で見つめる。


(まったく。あの人にそっくりですね。大の男が女性に掴みかかろうなんて…………まるで野獣です)


ふうと溜息をつくミトレン。




不意に。…………トントン。




「…………?」


ミトレンは肩を何かやわらかいもので叩かれたかんじがして後ろを振り向く。しかしそこには誰もいなかった。


(気のせい……か…………)


なんだったんだろうと首を傾げながら前をむく。


「兄様!?」


前を向いた瞬間、ミトレンは叫ぶ。肩を叩かれて数秒後ろを振り向いていた間に何があったのであろうか…………アトレンとアトレンを押さえていた数人の兵士が倒れていた。

慌ててミトレンは駆け寄り、『回復の結界』をさっきの結界とは比べ物にならないほどの速さで展開する。水色の泡がアトレンと数人の兵士を包み込む。

目立った外傷は無かった。というか苦しそうな表情で倒れているのではなく、とても安らかなまるで幼児が寝ている時のような可愛らしい顔で倒れていた。訂正。可愛らしくはない。倒れているのはあくまでおじさんだ。指なんかしゃぶっていてもおじさんだ。ミトレンは吐き気がしたが我慢する。


「兄様…………しっかりしてください!」


「う……んうう……」という寝ている赤ん坊のような仕草でアトレンの体を揺するミトレンの手をはらうアトレン。まことに気持ち悪い。

アトレン他数名はいくら揺すっても起きなかった。赤ん坊のような仕草がエスカレートし、ミトレンは胃の中のものが胸の辺りまでこみあげてきた時点で『回復の結界』を消し、後ろを向く。


「……………………んぐ」


どうやら吐き気は収まったようだ。当然吐いていない。

ミトレンは深呼吸するとアトレン達のほうへむく。

そこには先ほどと同じように赤ん坊の仕草をするアトレン達がいた。どうしてこのようなことになったのか。

少なくともさっきまでは騒いでいたはずなのに、どうして…………ミトレンが後ろを向いている間に何があったのか。

あの騒いでいた人達が数秒の間に。


(あれ……?そういえば…………)


肩を叩かれたと思った瞬間、音が聴こえなくなったような気がするなとミトレンは思う。

しかしそれは考えすぎかとミトレンは考えを改める。しかし他に考えはうかんでこず、ミトレンの頭をもやもやが支配する。

ガリガリと頭をかくミトレン。何か分からなくなったときの昔からの癖だ。

苛々する中でふと異質な気配を感じたのでミトレンは後ろを振り向く。


「……どうしたんですか?父様」


そこにはミトレンとアトレンの父、バドレン・ブレンダンが顔色を真っ青にして立っていた。皺が深く刻まれた、いつも厳格なバドレンの顔は何故かひきつっていた。

口をまるで魚類の様にパクパクさせ、ミトレンに何かを伝えようとしているが、ミトレンは何のことやらさっぱりわからない。


「言いたいことがあるならはっきり言ってください。……ああ、それともアトレン兄様達のあまりの気持ち悪さに言葉を失ってしまいましたか?」


バドレンはぶんぶんと首を横に振る。そして何かを伝えるためか両手を使ってミトレンに後ろを向くようジャスチャ―をする。

は?このハゲ親父は何が言いたいんだとミトレンは思いながらも後ろを向く。


「…………は?」


信じがたいことにアトレン達は消え、代わりに頭アンテナという名のアホ毛がぴょこんと立っている蒼い娘が棒のような長い物を持ってにっこりと微笑んでいた。

バドレンはその蒼い娘を指差したまま口をパクパクさせている。………………何があったのかは知らないが、とりあえずこいつは敵だということがミトレンにはよくわかった。そりゃ自分の父親のあの鬼のような顔が怯えた小動物のようになっているのだ。明らかに恐れているのがよくわかる。それにこの娘…………バカでかいオーラを隠さずにだしている。人間とは到底思えないような異質ででかいモノを。

ゆっくりとミトレンは蒼い娘に向けて杖を構える。剣は重くて使うのはダルイというミトレンの脱力的な考えからかミトレンは剣をそれなりに扱えるくせに剣は使わない。杖は軽くて持ちやすく、ミトレンの技量もあってかスピーディーに詠唱しながらの戦闘が出来るのでミトレンは杖が好きだ。長いのが玉に瑕だが。

ミトレンは蒼い娘に杖をむけて詠唱しようと息を吸い、口を開き言葉を紡ぐ。


『光よ!』


ミトレンの少々ハスキーな叫び声は蒼い娘…………グリムの頭上に光の矢を数本出現させ、グリムにむかって降り注ぐ。

グリムはそのあまりにも短い言葉で紡がれた光の矢に感心する。降り注ぐ光の矢をグリムは避けることもなく、手に持っている長い棒のような物で光の矢を撃ち落とす。

撃ち落とされても次々と出現する光の矢は次第に勢いを増し、土砂降りの雨のようにグリムを襲う。

その光の矢を制御しているミトレンの手に持った杖には自然と力が込められ、黄金色に発光している。


(なかなかやるね……あたしの光の矢を撃ち落とし続けるなんて。あたし以上の天才かもしれない)


ミトレンは口の端を釣り上げる。久しぶりに骨のありそうな奴がでてきたと内心嬉しい気持ちが湧きあがってくる。ミトレンはアトレンにむけた言葉の中で間違ったことを言っていた。

『戦闘自体したくない』ということだ。ブレンダンの血筋の者は例外なく戦闘好きである。めんどくさいし汗をかくということを本人は嫌っているがいざ戦闘をしてみるとそんな気持ちは吹き飛んでしまう。

無類の戦闘狂であった。今魔法を撃ち落とす者に出会い、その血が騒ぎ出す。


『止まれ!』

「!?」


グリムは棒を両手持ちから右手での片手持ちに切り替えると、棒を持っていない左手を光の矢に向け、一言叫ぶ。グリムのロリボイスは光の矢の雨を見事に空中で停止させる。

止めてからグリムは棒を両手持ちに切り替えると自分の真上にむかって振る。

グオッという音がしたかと思うと棒から衝撃波のような蒼い炎が光の矢を飲み込み、そのまま上にむかって飛んでいった。

蒼い炎が見えなくなるほど上に飛んでいくのと同時にミトレンの杖は黄金の光を失った。この魔法の元の太陽の光の中に隠した光の球が蒼い炎によって消滅したからだ。

光の矢が全て無くなっても矢の発生源の球さえ無事ならまた矢を作り、飛ばすことができるが発生源を失ってしまえば作ることはできない。


「はあっ!」


ガキィィン!という金属同士がぶつかったような音が辺りに響く。接近戦はどうかと思いミトレンはグリムにむかって杖を振りかぶり、思いっ切り殴りつけるがグリムの棒にガードされる。

ガードされてもミトレンは諦めることなく殴り続ける。グリムは接近戦に持ち込まれたことに驚きながらもミトレンの魔法使いとは思えないラッシュを棒で防ぐ。


(ただの魔法使いだと思っていたけど、結構インファイターだね。ユガ邸の兵士よりも強いかもしれないね)

「ねえ、なんで挨拶もなしに戦闘をおっぱじめたの!?」

「だってあんた……あたしにむかって挑発したでしょう?あたしはそれにのったの。ただそれだけ」


ミトレンはグリムから少し離れ、杖を自分の頭の上で振り回しながら短く『雷よ!』と叫ぶ。晴れ渡った空から突如降り注いだ雷がグリムに直撃する。が、グリムは何事もなかったかのようにけろっとしている。不可視のバリアでも纏っているのかとミトレンは首を傾ける。


「あなた、魔法使い?」

「そうよ?あんたは何者?」


あのでかい雷をくらってもけろっとしているこの娘はただものじゃないとミトレンは思う。


「とても魔法使いとは思えないラッシュだね!!久しぶりに興奮してきちゃった」

「あたしの質問に答えてくれるかしら?あんたは何者?」

「どこにでもいるような可憐な女の子だよ?」

「嘘ね」


ミトレン即答。

その言葉にグリムはばれたかーと左手で持った棒でミトレンの攻撃を防ぎながら右手で頭を軽く叩く。何故かちょっと舌も出している。


(うわっ何この子……すごく可愛い。なんか持ち帰りたいかも)


ミトレンは無性にこの蒼い、アイドルみたいなふりふりで露出が結構ある服を着た少女を連れて帰りたいと思った。

全体的にやわらかそうだから抱き枕なんかにはちょうど良いかもしれない。


「まあいいわ。あんたに勝ってからその正体を暴いてあげるわ」

「あはは!!勝つなんてそんな無謀な。あなたに勝てるかなあ!?」

「せいぜいほざいてなさい」


ミトレンの瞳に炎が灯る。

その瞳には絶対連れて帰ってやるという思いがこもっていた。




最新拾四話投稿しました。

戦闘シーンは慣れていないせいかとてもヘタッピです。

勉強あるのみですね。



誤字脱字、指摘、感想等一言お持ちしております。


それでは。

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