表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/23

拾参話 決心。

すいません。

遅くなりました。

拾参話 決心。



スーがサヨにこってりと絞られた日の午後。

開け放たれた窓から入り込む風が優雅に紅茶を飲んでいたスーの髪を弄ぶ。乱れる髪をいつものように無視し、スーは紅茶を一口飲む。

そして溜息をついた。


(どうしたものかなぁ……)


スーの表情がいつもの人懐っこい笑顔から一転、眉間に皺を寄せた難しい表情になっているのには訳が二つあった。

その訳の一つはつい先ほどあったクランツの報告。

つい数日前の狙撃事件に関することだった。話す前に数枚の報告書と思われる内容のプリントをホッチキスで留めた冊子をクランツはスーに渡してきたのでそれをぱらぱらと適当に捲っていた時のことだ。

気になる一文を見つけた。


『強い退魔効果のある魔殺鉱石が使われており、銃弾には主に魔力を吸って毒を分泌する吸毒石が使用されていた』


思わずぞっとした。もしあの時この銃弾が命中していたならスーは助からなかっただろう。

魔殺鉱石はあまり問題ない。スーほどの魔法使いなら。

問題は吸毒石だ。

あれはその名の通り魔力を吸って毒を分泌する石だ。対象の者の魔力が大きければ大きいほど効果を発揮する。スーほどの魔力を持つ者なら三十分程度でぽっくりあの世へ行ってしまう。

しかし、あれは太古の大戦で様々な鉱山から掘りつくされたため今はもう存在していないはずではないのか…………。


「よくもまぁ……こんな物騒な代物を使ってくるなんてーそんなにスーを殺したいのかなぁ?」

「そうですな。吸毒石はもう昔の代物だと思っていたのですが、まさかいまだに使われているとは。少々驚きました」

「だよねぇ!?っもう……本当びっくりしちゃったよ」


『吸毒石』別名magician killer。

とても捻りのない別名だがこの別名はこの悪魔の石にとても合っている。

大抵の魔法使いなら一度は聞いたことがある名前であり、魔法使いがもっとも恐れる物。魔力がある者ならば触れただけでも静電気がビリッと体内を駆け巡り“体内に入る=死”というのは魔法使い達にとって一般常識である。


「で、クランツぅ。こちらに仕掛けてきている奴らの動きは最近どうなの?」


スーはクランツに質問をぶつける。

はい、とクランツは無感情な声で返事をしながらスーに渡した物とは別の冊子をぱらぱら捲る。


「最近は館の周りのラファエルの森に狙撃者が目撃されたという報告があります。その他に諜報部隊からは『ちゃくちゃくと兵を集め、軍事力の強化をしている』との報告がありました」

「戦争でもする気なのかなあー」

「そのようですな。こちらも軍事力の強化でもしますか?」


スーは首を横に振り、反対の意思を示す。


「ううん。そんなに強化しなくてもいいよぉ。今の戦力で間に合ってるよ」

「そうですかな?聞いたところ相手方は一万ほどの隊を三つ持っているそうですが……」

「そのくらい榊や皆は大丈夫だよっ!もし心配なら『蒼』を呼べばぁ?」


『蒼』という単語を聞いたクランツは右手を顎に生えている髭にもっていき、弄ぶ。何か考えるときにするクランツの仕草だ。


「ほう……グリム嬢ですか。しかし彼女は戦闘面では本気を出させると敵味方関係なく刈りますが、どうするつもりですか?」


その言葉を聞いたスーはふふっと鼻で笑う。その自信に満ちた仕草はもう策を考えているのだとクランツに覚らせる。


「その時は嫌いになっちゃうよ?ってぇ、言えばいいんだよ」

「グリム嬢にその言葉は少々鬼畜だと思いますが……」

「それぐらい言わないとあのアホの子にはわからないよぉ」


スーはにこにこと笑う。

クランツは他の従者と同じようにスーのことをただ優しいとは思ったことが無い。クランツは苦笑すると、いつになく真剣な表情でスーに確認する。


「それでは、『蒼』ことグリムリーパー嬢を呼ぶことにして良いですね?」

「心配なんだねぇ」

「保険です。もしもの時の」

「はいはいわかったわかったぁ。それじゃあ呼ぼう。あの『死神』を」


スーはすっと右手をあげると少し空気を吸い込む。そして口を小さくあけ、『call!』とえらく透きとおった声で呼び出しをかける。

キンッと空気が張り詰め、まるでテレビの砂嵐のようなザザーッというノイズがスーとクランツがいるこの白い空間に響く。

スーはあげた右手をさげ、家具のない広い場所にむかって右手の人差指で指す。


『グリムリーパー!スー・R・ユガの名において呼びます!今すぐ召喚に応じなさい!』


前のユガ邸衛生兵召喚の時とは比べ物にならない力を指先に込め、呼び出す神の名前を言う。

スーの指先から発せられる光が白い絨毯に蒼い奇怪な模様がこれでもかと書かれた魔法陣を構成していく。

数秒で構成された魔法陣にある五つの丸の部分に天井のほうから蒼い五つの光が降り注ぎ、勢いよく発光する。


カッと眩い蒼い光が白い空間を蒼に染め上げる。クランツはこういう魔法系の物に耐性があまり無いのかくらくらとよろめく。

蒼い光はものの数秒で収まった。魔法陣のあるところには蒼い煙がもくもくと漂っている。

スーは額の汗を少しばかりハンカチで拭う。


「ふう……とりあえず召喚成功かなぁ」

「こういう『魔の光』の部類の物はなかなか慣れるものではありませんな」

「そうかなあ。今度クランツ専用の『対魔法装備』でも作ってあげようかぁ?」

「いえいえ……お嬢様直々に作ってもらうなんて……私ごときの為なんかにはもったいないでございます。私よりも先に榊譲やサヨに作ってもらったほうがよろしいかと」

「サヨは自分で作れるから別にいいらしいよぉ。榊には防具一式作った時に一緒に作ったから別にいいよ。……まあお楽しみにぃ」

「わかりました。お嬢様の好意、素直に受け取っておくとしましょうかな」


クランツは無表情だが、内心とても嬉しかった。

人から寄せられる好意は大抵嬉しいものであり、素直に受け取っておくものだという生前の妻の言葉は嘘ではなかったようだとクランツは思う。


「あのー……お呼びですかー!?」


蒼い煙の中からえらくハイテンションなソプラノボイスが白い空間に響く。


「ねえ、クランツ?何か聞こえなかった?」

「気のせいでしょうな」

「スーちゃーん、お呼びでしょ「幻聴かなあ」

「スー「おっかしいなぁ……」

「……グスッ………………」


無視され続けたためか、声の主は案外早く泣き始めた。泣き虫なのか無視が悲しかったのか嫌いなのかは誰にもわからない。


(あ、やりすぎた)「どうしたの?『蒼』?」

「うう……やっぱり『白』ことスーちゃんじゃん。無視なんてひどいよ」

「ごめんねぇグリムちゃん。無視じゃなくてね、ただ気付かなかっただけなんだよぉ」

「そうなんだ。気付かなかったんじゃあしょうがないよね!もっと目立たなくちゃ!!」

(危機一髪。泣かれたらここら辺一帯焼け野原になっちゃうからね)


過去にも飴玉一つもらえなかっただけで泣きながら一つの国を潰したことがある娘だ。細心の注意を払って扱わなければ。

まあいくら腐っても神。その強さはチートだ。


「それにしてもさぁ、早く煙の中から出てきなよー」

「まって!今着替えてるところだから」

「なんですと!?」


着替えという単語に真っ先に反応したのはクランツ。この爺さんが変態というのは限られた者しか知らない。


「なんで着替え中なの?」

「だってお風呂の最中に召喚されたんだもん。まだ髪の毛乾かしてる途中」


煙の中からドライヤーのような音がする。この部屋に電源は無い。どうやってドライヤーを使っているのかはわからない。まさに神のみぞ知るだ。

ともかくグリムリーパーが機械を使って髪の毛を乾かしていることは大体わかった。


「魔法で乾かせばぁ?」

「そっかあ!その手があったね。さっすがスーちゃん。あったまイイー」


頭がよいのかとスーはつっこみたくなったが、抑える。

グリムリーパーの反応からするに今まで魔法で乾かしていたわけではないとわかった。


「…………この騒ぎは何だと思って来てみれば……またクランツ殿が興奮してるでござるか。それに他にも客人がいるようでござるな」


スーは入り口のほうに目をやる。そこには呆れた表情でこちら側を見つめてくる花柄の着物姿の榊がいた。


「そこの蒼い煙の客人は誰なのでござるか?主」

「ああ、スーの友達のグリムリーパー。アホだけど『死神』なんだよ」

「なんと!?…………危険因子は斬り伏せる必要があるでござるな」

「やめとけ。榊嬢。一瞬で真っ二つにされるぞ」


いつのまにか興奮の収まったクランツ。冷静に忠告しているように見えるがその視線は榊の着物の胸元にある大きな果実にくぎ付けになっている。


「近い。離れるでござる」

「ならもうちょっと胸元を隠したらどうだ?」

「きついから無理でござる」


榊の胸元は少々はだけており、少しだけでも十分にエロいと言える。


「ん?その喋り方はもしかして『鬼神』さんかな!?」

「拙者の異名を知っているでござるか?珍しい者がいるな」

「やっぱりそうだったんだ!握手してよ!!」


蒼い煙がすうっと消え、そこに現れた白い肌に腰までありそうな髪の旋毛の近くに大きな毛がピーンとアンテナのようにたっていた。巷では『アホ毛』という。他には大きくて勝ち気そうな目に榊には劣るが十分に大きな果実に胸元が大きくあいたふりふりのどこぞのアイドルが着てそうな服を着込んでいることが印象的だった。グリムリーパーこと蒼い人は榊に近づくと榊の右手を両手で力いっぱいぶんぶんと振りながら握手した。蒼いといっても髪の毛とか目は水色に近い。


「いだだだだっ!?」


榊はあまりの痛さに悲鳴をあげる。

ゴキッという音が聴こえてきたが空耳だろうとスーとクランツは思う。 

十数回振られたところで解放された榊の右手は赤を通り越して黒っぽくなっていた。


「ごめんねぇ、榊。この子力加減を知らなくて」

(アホの子だから仕方がないんだけどね)

「はあ……」

少々涙目になる榊。普通だったら失神するとはスーは口が裂けても言えない。


「その蒼いのが『死神』とやらでござるか。拙者は榊でござる」

「グリムリーパーだよ。よろしく、『鬼神』さん」

「そういえばぁなんでグリムちゃんは榊が『鬼神』だってわかるのー?」

「え?『神様のチャンネル1』の世界では一番有名人だったからよ?この人凄く強いんだよ!?私といい勝負だよ」


『神様のチャンネル』とは『死神』グリムリーパー等の『神』が使用する魔法で映し出される映像。映っているのは色々な世界。一般的に庶民のテレビのチャンネルに近い。

ちなみに『神様のチャンネル1』とは榊がもといた世界の別名。『神』の間ではそのように呼ばれている。


「ぐりむよ。この世界は何ちゃんねるなのでござるか?」

「発音おかしくない?……あ、気にしちゃいけないんだね。分かった。えーとねこの世界は『神様のチャンネル2』だよ」


ある世界のある国では教育テレビのチャンネルである。もっとも、この世界は教育上よろしくない単語が飛び交う世界である。大変教育には向いていない。


「さて、グリムちゃんも榊も揃ったしこれから言うことを頭に入れといてね」

「なになにー!?」

「何でござるか?」

「それはねえ………………」












「はあ……どうしようかなあ」


今部屋の中では何故か宴会が行われている。

榊が提案したことなのだが「腹が減っては戦は出来ぬでござる」と榊は酒やら刺身やらetc。色々な物をどこからか榊は持ってきて宴会を始めた。無論、戦いに出る全員で。これが訳の二つ目だ。

スーが難しい顔をしているのには襲撃事件のことも絡んでいるのだが、主な原因は戦いに出る全員が酔っ払っていることだった。

後三日後に戦いに出るのにこんなのでいいのかとスーは思う。


「たまには良いじゃないですかな?こうして皆の団結を榊嬢は図ったのではないかと思います」


珍しくクランツは正常だった。榊達をフォローするクランツの顔は好々爺のような笑顔になっている。

その笑顔には“処分は無しにしてください”という意思がこもっており、一緒に戦ってくれると決心してくれた榊とグリムと皆の処分の考えをスーは切り捨てた。


「クランツは飲まないの?」


スーはクランツに尋ねる。

ふっとクランツはその質問を鼻で笑う。


「私はスーお嬢様の執事でございます。何かあった時の為に酔っ払うことはできません。それに、私は酒が飲めないのです」

「へえー、初耳」


嘘だ。クランツは本当は飲めるが飲んでる姿は見たことが無い。

クランツの妻から聞いていた。「あの人はお酒が入ると泣きながら語る癖があるんですよ。だから妻である私以外の人の前では恥ずかしくて飲めないんですって。それに一人でも飲めないんですよ。寂しいとか何とか言い訳しちゃって女々しいですねぇ」

(本当は飲める癖に嘘ついちゃって。それじゃあもう一生お酒飲めないじゃない)


「クランツぅ?何か聞いてほしい話はなーい?」

「いえ、ありませんよ!?」

「なんならさあ、場所移って二人だけでお酒も交えて朝まで語ろうよ」

「お嬢様「人の好意は素直に受け取っておくものだよ by妻」

「………………すいませんお嬢様。お言葉に甘えさせてもらいます。それでは参りましょうか」

「そうだね」


ドンチャン騒がしい大広間から執事と館の主のお嬢様は小部屋へと場所を移して本当に朝まで語ったという。






最新話投稿。

相変わらずヘタッピですねえ。


次回は戦闘系だと思います。

うまく書けるかどうか…………心配です。

指摘、誤字、脱字、感想等一言お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ