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拾弐話 ある日の朝の光景。

拾弐話 ある日の朝の光景。



町で襲われてから数日、今までよりも夜のスー暗殺目的で侵入してくる者が若干増えた。

いつもなら二日に一度くらいのペースで来ていた暗殺者がほぼ毎日襲ってきた。どの暗殺者の顔にも焦りがあり、暗殺者たちのバックにいる依頼主が苛立ちの表情をうかべているのが榊には良く分かる。

前に仕えていた将軍もことがうまく進まないと苛立ち、従者や忍びの者によくあたっていたからだ。よく将軍やその妻に隠れて慰めていたものだ。


「これで、十何人でござるかな?」


指の関節をぽきぽきと鳴らす榊の前には大きなたんこぶをつけた簀巻き状態の黒ずくめの男が一人転がっていた。

最近は無駄な音をたてることなく仕留めることが出来るようになってきたのでスーを無駄に起こすことは少なくなった。

「ふああっ」と榊は欠伸をする。思えば今日は一睡もしていなかったことに気づく。

しかし主を守るため、榊は夜の間は一睡もしないことを心に決めていた。


「さて、この男は朝方にでも牢にぶちこんどくでござるかな」


可愛い顔でさりげなく汚い言葉を使う榊は元男である。




それから時が過ぎ、しだいに太陽が昇りやわらかな日光がスーの寝ているベッドの近くの窓から降り注ぐ。

その光が朝だということをスーに伝えるが、効果は無し。むしろ夜中の時よりも熟睡してるように見える。

口元からでている涎をサヨはティッシュで拭きとる。


(たまたま早起きしたらお嬢様の寝顔が見られるなんてラッキーですね。早起きは三文の徳です)


スーの寝顔を見て微笑むサヨの後ろには榊が刀を抱いて胡座をかき、壁に背中を預け眠っている。

ちょっとはだけている着物の胸元についつい目がいってしまうのは生物の性か…………。

ちなみに簀巻きになっていた男は地下牢にもういれてある。


(榊様の寝顔は凛々しいですね。お嬢様とは大違いです。さすがは武者ですかね)


スーのだらしなく開いた口元を見てサヨは思う。

子供っぽくて良いと思う反面、お嬢様だからもうちょっとちゃんと眠ったほうが良いというのはサヨの意見だ。


(そういえば…………)


スーが一人になって何年たつだろうか。

正確にはサヨ達がいるため一人になっていないが、スーの両親や親戚はもうこの世にいない。

ある者は暗殺され、ある者は戦死し、ある者は病で。

あんなにも多かったユガの血が流れる者達はスーを残して一人残らず天に召されてしまった。

自分が来た時にはもう残っているのはスーの母親とスーしかいなかった。

その母親はスーに似てとても白く、まるで絵画からぬけだしてきたのではないかと思わせるほど美しい人物であった。

自分にも子にも厳しい人物であったとサヨは覚えている。

よくいろんなことをやらかしてはお母様に叱られたものだ。

時にはスーと一緒に悪戯して一時間弱正座のまま説教をされた覚えもある。


(お母様が亡くなってから時々お譲さまは昼間の時間帯にお母様の部屋のベッドの上で泣いておられましたね)


今でも思い出す。

声をださずに、涙をぽろぽろ流すスー。

時折ベッドに振り下ろす今にも折れそうなほど細くて白い蝋燭のような腕の先についた拳はとても痛々しかった。

今、スーが眠っているベッドは母親の物だ。

他の母親に関する物はすべてスーが魔法で焼いてしまった。母の遺言である。


「どうしても焼きたくない物は一つだけなら焼かずにおいても構いません。それ以外は私と共に完全に燃やしてしまいなさい」


一枚の羊皮紙に書かれた読めないほどに崩れた文字。

元々字はヘタクソだったのに病が拍車をかけ、もう何かの暗号のような文字だったが幼児の頃から長年仕えているサヨは他の従者が苦戦する中、解読に成功した。

それと同時に、サヨは泣いていた。

自分の尊敬する人物、並大抵の男よりも雄々しく、武術に秀でた、一人の子を持つ強き母親。

そんな人物が死ぬことをサヨは考えたくなかった。自分の好きな人が死ぬのは見たくなかった。

点滴につながれ、ベッドに横たわる痩せ細ったスーの母親を見るたびサヨは涙を流した。

思えばいつもスーは母親に悪戯したり、無理に笑わせようと自分の両手の人差し指を使って母親の口元にもっていきスマイルを作ったりしたことには驚いた。なんで今にも死にそうな自分の母親の前でそんなに明るくいられるのか、分からなかった。死を喜んでいるとしか思えなかった。


「お嬢様はお母様の死についてどのように考えているのですか?なんであんなに痩せ細ったお母様の前であんな行動ができるのか私には理解できません。お嬢様はなんでそんなに嬉しそうな顔をしていつも苦しそうなお母様に接しているのですか?私が予想するに毎日叱られてばかりだったお嬢様は怒りんぼなお母様がいなくなることが嬉しかったのですね?だからそんなことができるんですか!?」


暗い想いが心に積り、ある日サヨはスーが大切に育てている花が沢山咲き誇る花壇で作業をしていたスーにサヨは自分の気持ち伝えた。

後から考えてもこれは言いすぎだったとサヨは思う。

最初からあまり考えもせずにただ怒りにまかせて自分の想いをバケツの中の物をぶちまけるようにサヨは怒りを言葉にしてスーにぶちまけた。

まだ年端もいかなかった当時のスーはその言葉を聞くとニコニコした顔のまま固まった。

当然だ。いきなりこんな酷い言葉をぶつけられれば誰だって固まる。

本当に大人げなかった。

そして何を思ったのか知らないがスーはその場にスコップなんかがはいったバケツに、自分の持っていたスコップを入れてすっと立った。

にこにこしたままサヨに近づくと、スーは思いっきりジャンプしてサヨの頬に回し蹴りを放った。


「っ!?」


突然のことにサヨは尻もちをついて蹴られ、赤くなった頬をさする。

このときの回し蹴りの痛みは忘れることができない。

なぜなら体の他に“心”にも痛みを感じたからだ。

サヨはスーのほうに顔をむけた瞬間、絶句した。


スーのその美しい顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃに汚れていた。

さっきのにこにこ顔はどこへ行ったのかと思うほどつりあがった眉、固く結ばれた唇、普段の純白の頬より赤い食べ頃のトマトのように紅潮した頬。

それは怒りの表情だった。

「……ぁ……な…………」ひっくひっくとしゃくりあげ、その唇から発せられる言葉。かすれててよく聞こえない。

サヨは首を傾げる。「言いたいことがあったらはっきりと言ったらどうですか?お嬢様」本当に昔は自分も子供だった。今思うとついつい苦笑いしてしまう。言いたいことぐらいもう分かっていたのに。


「貴女にそんなことを言われたくなかったわ!あたしがお母様のことをどう思っているかわかってるでしょ!?好きなのよ!?いつもみたいに笑っていてほしいんだよ、怒ってほしいんだよっ!!………………」


スーはサヨの赤い従者服の襟を掴んでぐいっと自分のほうに引き寄せる。サヨの顔を両手でがっしりと掴み、しっかりと見つめる。

スーと目があったサヨは最早放心状態であった。目の焦点が定まっていない。

サヨ自身、自分は壊れてしまったのだろうと思った。スーの母親の死は避けられない。ある日聞かされたその“事実”がサヨをおかしくしてしまった。

なんだかスーの顔を見ているとこっちまで泣けてきた。

サヨは自分の頬を伝う涙を拭うこともせずスーにぎゅっと抱きつき、静かに泣いた。







「ふう…………」


サヨはスーの口元から流れる涎をまたティッシュで拭う。さっきからよく流れるなぁとサヨは感心する。

その使用済みティッシュを近くにあったゴミ箱に捨てるとサヨは近くにあった白くて長いベンチのような椅子に腰を下ろす。


「あれからお嬢様はずいぶん成長しましたね。言葉が幼稚になったのは私かクランツ様の教育ミスですかね?」


一人、呟いてみる。

寝息だけが聞こえる広い空間に空しく響く。

スーの口調は実際教育ミスではなかった。

あの回想した日から数日後、スーの母親が亡くなり、スー自身が母親の遺品と体を焼いてこの世から葬った次の日。スーの口調はガラリとまではいかないが変わった。母親が健在だった時よりもやわらかくなったのだ。甘えん坊にでもなったのか?と従者一同は首を傾げたものだった。

それから急に従者の数が増え、スーの我が儘がエスカレートした。

「こりゃ先代よりも厳しいな」という声が従者の間で言われるようになった。

が、逆に「先代よりも優しい人だ」とも言われるようになった。使えない人間をズバズバ容赦なく切り捨て、行く所のない者を平気で人買いに売りさばいたスーの母親とは違い、どれだけ役立たずで行く所もないポンコツでも必ず手を差し伸べるスーは優しかった。


「なに回想なんてしてるのだか。私も年ですかね?」


ふーと溜息をつくサヨはまだ二十代前半である。この台詞だけを聞かれると絶対おばさんに勘違いされそうだが。


「うーん…………」

(あ、そろそろ起きますね)


サヨはぱんぱんと自分の頬を叩いて気合いをこめると、毛布に包まってもぞもぞと蛆のように蠢く自分の主に最大限に爽やかな笑顔をうかべ、挨拶をする。


「おはようございます。もう朝ですよ?そろそろ起きてくださいね。お嬢様」

「うーん……おはよう。眠すぎて死んじゃいそぅ」

「そんなバカなことあるわけないですよ。さあ、起きましょうね」


ばっとスーの毛布をキャベツを剥くようにスーからとる。

この後スーはサヨのことを「鬼ぃ……」と言い、こってり絞られた。




最新話投稿完了です。

今回はサヨが結構出てますかね?気のせいですかね?

まだまだヘタッピな文ですみません。勉強あるのみです。


指摘、感想等一言お待ちしております。

それでは。

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