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拾話 外出弐。

拾話 外出弐。




ゴリラ顔料理長のゴンザがいなくなってからどのくらいの時が経ったのだろうか……もう日が傾きはじめ、オレンジ色の光がラファエルの森の木々の葉に降り注ぎ葉がまるで鏡のように光を反射する。

昼頃のラファエルの森も綺麗な翡翠の宝石のように輝き美しいが、夕方のラファエルの森はそれ以上、言葉に表せないほど美しい。

この時間帯の森のカメラのシャッター音が一日の時間帯で一番多いのは夕方のラファエルの森の写真が高値で売買されているからか。その写真も、写りの具合等で値段もかなり変わってくる。

この森の人気は計り知れない。


ラファエルの森の中を走る榊たちの乗る馬車の中にも光が降り注ぐ。

サヨは欠伸をかみ殺し、クランツは石像のように同じ姿勢のまま固まり、スーは時折大きな欠伸をしていかにも眠そうで、榊は夢の世界で冒険している。


「クランツぅ………………まだ?」

「さすがにおかしいですね。もうとっくに着いているはずなのですが」


(眠いです!しかしお嬢様の前なので眠れません。榊さんが羨ましいです)


スーの我慢は限界に近づいていた。

今日はいっぱい買い物でもしたりして外での充実した一日を過ごそうと思っていた。

いつも家の中なのでそろそろモヤシになりかけていたからクランツの提案は嬉しかった。


「もういっそのことさぁ、魔法で転移しちゃって良いかなー?」

「せっかくなら馬車で!と言ったのはお嬢様ですが?」

「そうだけどさ……」

「それに、転移などのレベルの高い魔法を使うと注目を浴びることになりますぞ?」

「そうか……」


と、ここで夢の世界から帰還した榊が突然話に加わってくる。


「もう日が暮れているでござるな。主。今日はもう屋敷に戻り、また明日来ることにするでござる」

「うーん……もうそうしようかぁ」

〈せっかく榊を着せ替え人形にして遊ぼうとしたのに〉


スーは大きな欠伸を一つすると、「帰ろう」と榊たちに言う。

「残念ですな」とクランツはスーに同情する。

なにしろクランツもそれを楽しみにしていたからである。

榊着せ替え人形遊び。この従者と主は頭がおかしいのかそれともそっちの趣味があるのか。本当のことは誰も知らない。


一方、榊は主であるスーのその帰る発言を聞いて内心ガッツポーズをしていた。

このクソ恥ずかしい恰好で町に買い物に行かなくて済むという榊にとってはとても助かる発言だったというのは別に書かなくてもわかることだが、重要なことなので書く。

ついつい顔がほころぶ榊。


その榊の様子を見ていたスーは口の端をつりあげる。と……「ねぇ、榊?」と妙に艶っぽい顔をして榊の耳に口元を寄せる。


〈榊には明日もその恰好で、ね?〉

〈は?冗談でござろう?〉


一気に榊の表情がひきつる。


〈これはね、お願いじゃなくて命令だよ?主からの。それとも何?榊は主であるスーの命令を聞けない悪い娘なのかなぁ?〉

〈くッ…………ご勘弁をッ……〉

〈無―理―〉


スーはクスクスと笑う。

榊は背筋になにか冷たいものが走ったような感じがしたのかぞっとする。

ぎこちない動作で顔をスーのほうにむける。スーは笑っているが、目は笑っていなかった。

あれは本気の目だ。

この主は言動からか、とても幼く見えるが有言実行型でやるといったら必ずやり、命令も絶対であり、威圧感をかけて必ず実行させるので結構侮れない。

前の主である将軍とは違う。今の主は前の主とはまるで逆だ。

そう言うと自分は前の将軍のことを侮っていた。酷い言い方をすればなめていた。

まあ自分は実際にはあの将軍に仕えていたが、心の底から忠誠を誓い、仕えたのは将軍の娘の秋蓮様であると榊は思う。


「うー」

「そんな風にぃ、膨れる榊もスーは好きだよ?」


榊の膨れっ面を見てスーは微笑むと榊の膨れた頬を指でつつく。

傍から見たら大変微笑ましい光景だ。榊の刀の存在を無視すればの話だが。抱きかかえられている“それ”はこの雰囲気をぶち壊すような気配をだしているが誰も気づかない。

まあ鞘に収まっているから無理もないが。

スーは榊の頬にたまった空気を抜くと、にっこりと年相応の少女の笑顔になる。その顔とは裏腹にわきわきとある部分にむかって伸びるスーの腕はまるで別の生物ではないかと思わせるほどの動きをしていた


がし。


「むー」

「ははは。こればかりはいくら主であろうと駄目でござるよ?」


スーの両手を両手で掴み、スーの欲望を止める。


「いいじゃん別に」

「まったく。主はませているのでござるな。それに、そこの変態爺がじっと拙者のある一部分と主を見つめてくるのは如何なものかと思うでござる」

「変態ではない。私は“紳士”であり、スーお嬢様の執事だ。お嬢様のなさることを見守り、常にサポートし、過ちを犯そうとしている時は全力で止めるのが私の仕事だ」

「では今が全力で止める時ではないのでござるか?主は過ちを犯そうとしているが」


ふっとクランツは鼻で笑う。

そして自信満々な顔で言い放った。


「今は“全力で見守る時”だ」


〈このエロジジイ!〉


榊はクランツに対しての見方を変えた。

“主と一緒でとんだ頭のおかしい人間”だという風にこれから認識することを榊は神に誓った。

とりあえず榊は片手でスーの腕を押さえつつもう片手でクランツの視線からある一部分を守るように隠す。

完璧には隠れきれていないことは今更書かなくてもわかることだ。

その大きな果実を掴もうとするスーの手。

その何から何までを熱心に見守り続けるクランツ。

そのクランツの横でいつも通りのスマイルのまま鼻から大きな風船を作っている最近急激に髪が伸びたのかツインテールが長くなったサヨ。わざわざ書かなくてもわかることだが、眠っている。ついにおちたか。

誰一人として榊を助ける人物はいない。


〈この変態コンビが!〉

「そうだよぉ?スーは変態だよ?」

「私は“紳士”だ。それにしても榊嬢。改めて眺めてみると随分と大振りな果実だな」

「やはり主はそうであったか。拙者の目は確かであった。しかしクランツ殿?その発言はちょっと……な?」

「私はただ思った事を口にしただけだ。気に障ったなら謝る。今まで見た中では珍しかったのでついつい」

「ついついじゃ済まされないと思うのは拙者だけか?」

「どうだか」


顔全体が赤くなり、感情的に言葉をかえす榊。

対して無表情で無感情に、淡々と機械のように言葉をかえすクランツ。

あまりにも対照的だなということがよくわかる。


「確かに、大きいのは羨ましいですねー」


鼻風船が割れたと思ったら会話の中に入ってくるサヨ。

今までちゃんと聞いていたのだろうか?それとも別の理由があるからなのかは誰にもわからない。


「まあサヨは板だからな」

「なんですってええええ!もう一度言ってみなさい!!」

「だから板だ」


ぱちんと平手打ちが良い音をたててクランツの頬にヒットする。

表情を変えることなく、クランツは赤くなった頬に手を添える。


「暴力的な女は嫌われるぞ。サヨ」

「デリカシーのない男は嫌われますよ?クランツ様?」


ほぼ同時の発言。


「仲が良いでござるな。二人とも」

「はは。冗談を」

「どこがですか?全然良くないですよ?」

「その発言が同時というところとか……」

「隙ありっ!」


むにゅっとスーの両手が榊の果実にふれ、掴む。

その大きな果実は見た目よりかはとてもやわらかく、不思議な気持ちがスーを支配する。


「うわあ、大きいなぁ。手に全然収まってない」


むにょむにょという効果音が聞こえてきそうなほどスーは榊の果実を揉みまくる。


「うわあああああ!何をしているのでござるかぁ主!!」


榊はスーの手を自分の果実から引きはがす。

そしてサヨのほうに預ける。

馬車は大きいので難なくスーは座ることができた。


「それに比べてサヨはねぇ……ぺたぺたぺたんこだね」


サヨのある部分を撫でながらスーは残念そうに呟く。


「お嬢様ぁ!?いくらお嬢様でも許しませんよ?お尻ペンペンの刑です!!」


ブチッという音がサヨの頭から聞こえてきた。

血管かなにかが切れたのだろうとクランツは冷静に分析する。


「やだやだ許してサヨ!お尻ペンペンは嫌ぁ!」

「いいえ、許しません。私はお嬢様のお母様から頼まれていますからね。存分にやらせてもらいます」

「うわーん!サヨとお母様のバカー!」



薄暗くなりはじめたラファエルの森に、ぺちーんぺちーんという音と、少女の悲鳴が長く響き、榊たちの乗る馬車が再びいろんな生物の視線を集めることは容易に想像できた。






今回は少しはっちゃけてます。

なんだか思っていた展開とは違う感じで書けば書くほど元の設定から遠ざかっていく感じがします。


指摘、感想等一言お待ちしております。

それでは。

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