私の姉は男を見る目だけが壊滅的にない
私の姉は可愛くて、優しくて、頭が良くて…まあとにかく非の打ち所がない完璧な女性なのだが、ただ一つ欠点がある。
それは…
「うわぁーん!アリスちゃん…!また浮気されちゃったよー」
男を見る目が壊滅的にないのである。
「お姉ちゃん、だから言ったじゃん!?あの人、お姉ちゃんと言う彼女がいながらあからさまに他の女の人見てるって…!?」
「で、でも…デート中とかすごい優しいし、髪飾りも贈ってくれたし…」
「…で?その髪飾り、浮気相手の人とお揃いだったんでしょ?何なら、お姉ちゃんが本命じゃなくて浮気相手ってことにされたんでしょ?」
「うわぁーん!なんで、アリスちゃん分かっちゃうのー!?」
そりゃあ、こう何度も何度も同じことが続けばある程度予想も付く。
泣きながら抱きついてくる姉の背中をさすりながら、もう本当にどうしたものかと頭を抱えるしかない。
一体何をどうしたら、こう何度もクズ男を引っ掛けてくるのか…
もういっそのこと独身を貫いたほうがいい気がする。
もしくは…
「またミーシャは婚活に失敗したのか?」
「うるさい…!」
もう腐れ縁のこの男とくっついてしまえと言う感じである。
「ご機嫌よう、グレード様」
「おう、アリスちゃん。お邪魔するな」
「アリスちゃんに気安く触るな!」
私の頭の上に載せられた手を、姉が勢いよく振り払った。
別にこのくらいいいのに…
そのまま姉がきゃんきゃんとグレード様に吠えに行ったため、しっかりと挨拶は済ませた私はスーッと気配を消しながらその場から立ち去る。
毎度のことながら仲が良いのか悪いのか。
姉があそこまで感情を剥き出しにするのはグレード様ぐらいだ。
普段は温和な姉なのに、あの人相手だとなぜあそこまで荒れるのか…切実に謎である。
しかも今回はかなり姉が荒れていた。
故に、優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいたあの場所で…
ーーードカーン!
爆発のようなものが起きることは、容易に想像が付くのである。
だが今回は思ったよりも規模が大きかったらしい。
まだ屋敷に辿り着いていなかった私は、衝撃波が届くその瞬間に目を瞑り…
「また派手にやっていますね」
再び目を開いた時には、不思議な透明な膜に覆われ、何者かに持ち上げられていたのであった。
「…エレズ?」
見慣れた銀髪にアメシストのような瞳と目が合い、驚いたように目を丸くする。
「はい、アリス様」
そして、満面の笑みが眩しすぎる…!
流石に至近距離は目が潰れる。
お願いだから顔の良さを自覚して欲しい。
「お怪我はありませんか?」
そして多分、その言葉をかけるべき相手は間違っていると思う。
だって、エレズってグレード様の護衛だよね?
おそらくブチギレているであろう姉から、グレード様の身を守ることの方が大切じゃない?
身内が言うことではないかもしれないが、姉は喧嘩を売ってきた相手に容赦がない。
今までのクズ男たちも皆、姉の手によって静粛されているのである…まともに社会復帰出来ないくらいには。
「ありがとう。私は大丈夫だから、グレード様の方を…」
「それでは、巻き込まれないうちに中へ入りましょうか。あの二人なら放っておけばそのうち仲直りします」
「えー…」
私の言葉は完全にスルーされ、なぜかそのまま抱えられた状態で屋敷の中へと入っていくのであった。
ちなみにこう言うことは、これが初めてではないのである。
「ねえねえ、エレズー。お姉ちゃんたちをくっ付けるには、どうしたらいいかなぁ?」
とまあそんな感じで、勝手知ったる様子で自室へと届けてくれたエレズに、常々思っていた問いかけをする。
「おや?アリス様は、2人が一緒になることに賛成なのですね?」
「だってー、お姉ちゃん男に人を見る目ないんだもん。今まで連れてきた男性の中だと、多分グレード様が一番マシ」
「ククッ…マシって。是非ともその言葉、あの人に聞かせてあげたいですね」
エレズが楽しそうに笑っている理由は分からないが、とりあえず、同意を取れたと考えることにしよう。
と言うか、グレード様の護衛であるエレズに協力してもらわないとこちらが困る。
と言うことで…
「名付けて『お姉ちゃんとグレード様を恋仲にしよう!』の作戦会議を始めます!」
「おー、パチパチパチー」
エレズのこう言うノリがいいところ結構好きだ。
子供相手でも馬鹿にしないし。
2人でソファーに座って向かい合いながら、まずは最初の議題を挙げる。
「で、早速ですが…お姉ちゃんがグレード様を、旦那さん候補に挙げない理由って何だと思う?」
まず一番の問題はそこだろう。
「そうですねぇ…アリス様はどうお考えで?」
なるほど、そう来たか…では私の考えをお伝えしよう。
「正直、お姉ちゃんが今まで連れてきた男の人ってパッとしないし、能力的にも何かしら優れていたところとか何もなくて…」
「うん、清々しいくらい辛辣ですね。哀れみよりも、年下の女の子にここまで酷評される男どもの無能さの方に感心します」
「エレズもかなり辛辣だと思うよ?でもまああの人たち、私でもできる簡単な仕事ができないわけだし…無能なことは確かなのかなー」
流石に無様に這いずり回っている姿を見た時は、ドン引きしたものである。
「確かにミーシャ嬢は男を見る目がないかもしれませんね」
「ねー、これで性格が良いとかならまだわかるけど、みんな浮気してる時点でそんな事もないからなぁ」
「なるほど、それで最後は浮気に走ると…典型的なクズですね」
全くその通りである。
姉には心の底から幸せになって欲しいと思っているが故に、ここまで変な男ばかり連れてこられたらお節介も焼きたくなる。
私としては、グレード様を最重要候補に挙げたいわけだが…
「前にお姉ちゃんに直接、どう言う人が好みなのか聞いた事があるんだけど…無害そうな、平凡そうな、とにかく特徴のない人が良いって言われたんだよねぇ」
「それじゃあグレード様は真っ先に除外されますね」
「やっぱりエレズもそう思う?」
始まる前にすでに終わっている恋な気がしなくもないのである。
どう見ても、グレード様の方には好意があるんだけどなー
あの時の言葉に嘘は混ざっていなかったし、何ならものすごく実感を込めて言っていた気がするのである。
「顔がいい男と権力を持っている男には気を付けろ…って言うのが、お姉ちゃんの口癖なの。私が知らないだけで、過去その手の男の人と何かあったのかな?」
あいにく私は、お姉ちゃんが自ら語った恋愛事情と、顔合わせで会った男どものことしか知らない。
「そうですねぇ…まあ、ミーシャ嬢がそう言いたくなる理由も分からなくはないですよ」
「え?」
この反応はもしかして…?
エレズから予想外の反応が返ってきたため、いい情報が得られるかもと思わず期待した顔で見つめたわけだが。
「まあ私から言えるのは、もう直ぐ決着はつくだろうと言うことだけです」
「…決着?」
「はい」
突然立ち上がり、なぜか私の隣にやって来たエレズ。
一体どうし…
「ん?」
なぜかそのまま持ち上げられ、膝の上に載せられた。
「アリス様は2人にくっ付いて欲しいのですよね」
あ、このまま話は続くのね?
なぜわざわざこの体勢を取ったのか、理由はよく分からなかったがまあいい。
それよりも今大切なのは姉のことだ。
「うん、お姉ちゃんも何だかんだで本気で拒絶してないから」
そうなのである。
妹の私の目から見ても、あれほど憎まれ口を叩こうが嫌ってはいないのである。
あれだろうか?姉はいわゆるツンデレ…?
「ではそのために貴方様は、私に何をされても構いませんか?」
…ん?
エレズに顔を覗き込まれ、真剣な顔で真っ直ぐに見つめられる。
話の流れが読めないが、エレズの中ではすでに何かしらの作戦が立てられているのかもしれない。
それなら答えは…
「もちろん!」
言い出しっぺは私なのだから、しっかりと協力するつもりだ。
私の答えになぜか嬉しそうに微笑んだエレズは、一瞬で真剣な表情に戻ったのちにこう語った。
「アリスのお姉さんがグレードを受け入れない理由は主に2つ。1つはさっき言った過去のトラウマ。もう一つは…」
なぜかエレズの顔が直ぐ目の前まで近寄って来て思わず目を瞑る。
「この領地を継いで、一刻も早く君を安心させるためだよ」
え?
私の呟きは言葉にはならずに呑まれ…
ーーーバン!
「な、な…!?うちのアリスの可愛い唇に何してくれとんじゃー!?」
ファーストキスは甘いミルクティーの味がしたのであった。




