2.学園にて
今日は入学式。
そして、俺の護衛任務の初日だ。
俺は今、エレノアの後ろを歩いている。
もちろん、堂々とじゃない。
少し離れた位置だ。
近くにいすぎると怪しまれるからな。
護衛任務で大事なのは二つ。
一つ目。エレノアから目を離さないこと。
そして二つ目。周りから怪しまれないこと。
だからこうして、さりげなく後ろから見張っているわけだ。
エレノアは一人で歩いている。
俺はその少し後ろ。
視線は常に周囲へ。
右。左。前。後ろ。
……今のところ、怪しいやつはいない。
まあ、初日から何か起きるとも思ってないけどな。
それにしても、この学園、でかいな。
目の前にある建物は、ほとんど城だ。
普通に王城と言われても信じるレベル。
まあ、それも当然か。
この国では十五歳までが義務教育。
そこから先は、基本的に進学しない。
働くやつもいるし、家業を継ぐやつもいる。
だが、例外もいる。
貴族の長男、長女。
有力貴族の子。
それから、特別優秀な若者。
そういうやつらは、さらに上の教育を受ける。
そのための学園がここだ。
つまり、ここにいるのは、だいたい将来の大物ってことだ。
貴族の跡取り。
将来の官僚。
有力な魔法使い。
そんな連中が集まってる。
……正直、俺みたいなのがいていい場所じゃない気がする。
……ん?
なんか前の方が騒がしいな?
「エレノア様だ……」
「やっぱり綺麗……」
視線が一斉に集まる。
なるほど。
エレノア、有名人らしい。
まあ、そりゃそうか。
国一番の貴族の長女だし、本人もかなり目立つ。
金の長い髪。
陶器のような白い肌。
歩き方も綺麗だ。
なんというか、いかにも「令嬢」って感じ。
周りの生徒がざわつくのも無理はない。
本人は気にしてないみたいだけどな。
視線を浴びても表情一つ変えない。
こういうのには慣れているみたいだ。
そのまま歩いていると、今度は別のざわめきが起きた。
「王子殿下だ」
「アルフォンス様だ」
お?
彼らの視線の先を見る。
そこにいたのは、金髪の青年だった。
背が高く整った顔立ちで、いかにも王子って感じの見た目だ。
なるほど。
あれがこの国の王子か。
……そういえば。
今気づいたんだが、ここには従者とか護衛騎士みたいなのがいない。
普通いそうなもんだけどな。
もしかして……。
俺と同じか?
遠くから見張るタイプの護衛。
となると、この辺に王子の護衛とかいそうなもんだが……。
あ、いた。
それっぽいやつ。
長い赤髪を一つに束ねた、背の高い女子生徒だ。
頻繁に王子の方を見ている。
それだけなら、ただの熱烈な王子様ファンの可能性もあるが……。
それだけじゃない。
俺にはわかる。
アイツは強い。
おそらく普通の生徒じゃない。
騎士か何かの家の者だろう。
……あれ?
ちらっと目が合った気がした。
……いや。
たぶん気のせいだな。
向こうもすぐ視線を外したし。
やがて、俺達は建物の中に入っていった。
そして、入学式が始まる。
大きなホール。
生徒がずらっと並んでいる。
前に立っているのは、学園長だろうか?
白髪で長い髭。
ローブ姿。
魔法使いのような格好をしている。
「諸君。本学園へようこそ……」
長い話が始まった。
正直ほとんど頭に入ってこない。
いや、ちゃんと聞こうとはしてるんだぞ?
でも護衛任務中だ。
俺の仕事は別にある。
だから視線は、ずっと周囲へ。
教師たちも見てみる。
……うん。
今のところ怪しいやつはいない。
まあ、ちょっと変な格好の人はいるけど。
例えば、あそこ。
フード付きのマントで、体も顔も完全に隠した不審者……じゃなくて教師。
どう見ても怪しいが、多分ファッションだな。
俺の言う"怪しいやつ"っていうのは、不審な動きをしていたりするやつのことだ。
服装とかはそこまで関係ない。
そんな感じで暇つぶし……じゃなくて任務を遂行しているうちに、入学式は終わったらしい。
生徒たちがぞろぞろ動き始める。
そういえば、この後ってどうするんだっけ?
ホールを出た生徒達は建物の奥の方に移動している。
まさか……。
いきなり授業とかないよな?




