第二話 新天地への到着
それから10年の月日が経った。
一台の車が細い一本道の道路を走っている。運転しているのは当然、ヘルだ。そしてその隣にはシャズの姿がある。ヘルは運転に集中している一方で、シャズは小さく寝息をしながら腕を組んで寝ている。そんなシャズをちらちらとヘルは羨ましそうに見る。しかしすぐに視線を前に戻す。
ヘルが運転している車以外にこの道を走る車はない。技術が発達したこの世界。今や、車で長距離移動をするのは時間の無駄で、疲れるだけという風な感じになっている。そのため、ヘルの車以外何も走っていないということだ。
そして、走り続けて5時間ほどが経とうとしていた。
「そろそろ着くと思うんだけどな……」
ヘルはそう言いながら、車のカーナビを確認する。カーナビに設定されてる目的地にはヴェンデッタと書かれている。予想到着時間は残り10分となっている。
走る速度を緩めて周りを見ながらまっすぐな道を進み始める。すると道の横に、ボロボロになった看板が遠くに立っているのが見え始めた。そこまで走っていく。そしてそこにあったのは、welcome to vendetta と書かれたものだった。ボロボロだが、確かにヴェンデッタの存在を表す物。それを見てシャズはニヤケが止まらなかった。拳を軽く握り、コツンと、ハンドルにぶつけた。
そしてもう一度ハンドルを握ると、アクセルを踏んで車を走り出させた。
それから10分後。カーナビの通り、ヘルとシャズを乗せた車は目的地のヴェンデッタのその入り口に到着した。走る車の先には鉄製のゲートがある。そしておまけに、銃を持った男が2人立っていた。
ヘルは隣で寝るシャズの肩を叩く。
「起きろ、シャズ。通過審査だぞ」
「んあ?」
変な声を出してからシャズは目をこすり始めた。先の方のゲートを見ながら、どうでもいいことをヘルに聞く。
「どのくらい寝てた?俺」
ヘルはハンドルを操作している内の右手を離して、シャズの顔の目の前で手のひらを開いた。
「こんくらい」
「5時間かぁ……いいドライブだった」
「んなことより、パスポート出す準備しろ」
「あぁ、分かってる。取り出しやすいように、すでにここに置いてあるんだ」
そう言いながら、シャズは椅子のサイドにある箱の中から自身の赤いパスポートを取り出した。そしてパラパラと開き、見せるべき場所を開いておく。そこにはシャズの顔写真が貼られており、それを見て明らかに嫌な顔をした。
「もっとカッコよく撮ってもらえば良かった……」
それをヘルは右から左に流し、そのままの流れで車を止めた。
車を止めると、ゲートのすぐそばに立っていた男が2人、ヘルとシャズが乗る車に近づいて来た。ヘルは運転席の窓を降ろす。そして男の方から話しかけ始めた。
「お二人さん、はるばるヴェンデッタまでようこそ。今のご時世、車なんて珍しい。普段、車で来る奴なんていないから暇していたんだ」
「そんなこと知らねーから。さっさと審査済ましてくれ」
「急ぎか?でも聞くことは聞かせてもらうからな」
「分かってるから。早くしてくれ」
「……。何をしにこのヴェンデッタへ?」
「うーんと……長期滞在」
「次。パスポートをこちらに。隣の方のもください」
ヘルはシャズからパスポートを奪い取り、男に渡した。男は2人のパスポートを確認すると、すぐに返した。
「特に問題なし。よし、行っていいぞ。悪さは……するなよ?」
「そんなことするわけ。じゃあ、失礼ー!」
ハンドルを再び握り、車は開かれたゲートを超えていく。ゲートから遠ざかっていく車を男2人は見届けていた。
ヘルとシャズはヴェンデッタに入った。到着はした。しかし次は滞在場所を探さなければならない。外の景色を見ていたシャズが、視線を車の中に戻し、さきほどパスポートを出した箱の中から紙を取り出した。その紙にはヴェンデッタの歩き方と書かれている。
「さーてと、どこに行く?やっぱり、ホテルとか?」
「そうだな。まずは滞在場所の確保だ。ホテルでもいいけど、それじゃあ金がすぐ無くなる。役所に行くぞ」
「役所?なんで」
「市民権を取って、住居の契約を出来るようにする。アパートを借りる方が安上がりでいい」
「あーなるほど。それもそっか。じゃあ、役所に着いたら起こしてくれ」
シャズはそう言い目を閉じた。そしてすぐに寝息をさせ始めた。ヘルは小さくため息をついてから、小言を漏らす。
「いっつもそうだよな、お前って奴は……まぁ、今まで色々助かっているからいいか」
そしてまたハンドルを握り直し、目的地である役所へと向かい始めた。




