希望となる光
一人暮らしをし始めて二か月経った。家賃を早速滞納してしまい焦っているが、来月には奨学金が入る見込みなので全く問題はないといえよう。とにかく今は、大学の課題をやりきることが命である。一人暮らしをしている部屋は、決して広くはないが不便ではなかった。玄関の扉を開けるとすぐに台所とユニットバスへ繋がる廊下が現れる。右手に台所があって、洗ったまま放置している食器と、先日大量発生したコバエを捕まえたコバエホイホイが二つ置かれている。凄まじい量のコバエが捕まっている。ユニットバスへ繋がる扉は左にあって、ここへ引っ越す際ひどい下水の匂いがしていた。なんでもしばらく入居者がいなかったらしく、そのおかげだろう。
その廊下をまっすぐ進むとリビングであるが、ベッドを置いた時点で生活圏はほとんど限られてしまった。だいたい机に向かっているか、ベッドでもぞもぞ寝ているかの生活を送り、洗濯物を干すときと、小説を棚から取り出すときだけベランダ側の方へ足を運ぶ。今となっては飲み物を箱買いした段ボールが好き勝手積みあがって迷宮のようになっているが、そのうち処分すると思う。おそらく。
課題をするときはたいてい机に向かうのだが、最近ある悩みがある。机に向かって座ったとき、右手を見るとさっきの廊下続いて玄関の扉まで見えるわけだ。そことリビングに仕切りをつけるべく暖簾を買ったが、どうもレールの部品に対応しておらず二か月感なんの仕切りもなかった。しかもこの廊下のほうは暗いから、なんだか机に向かっているとき、右からの視線を感じる。正しくは風なんだけど、冷たい風がそっと体を撫でてくるのである。まったく質の悪い風だが、暖簾代わりのものを付けたい。早く買えばいい話なのだが、どうもそうはいかなくなった。
玄関の扉には外を覗くための穴がある。廊下は暗くて、ふと右を見るとその穴が小さな光となって暗闇の中ぽつんと浮いているように見える。その光は、そこに何もいないことの何よりの照明だったのである。もし暖簾をかけてしまえば、その暖簾をくぐるときに廊下に何かいた場合、これはひどく驚く。しかし光が常にあれば、僕とその扉までの空間には何もいないということであるから、それはひどく安心する。そのため、暖簾をかけていいものなのかどうなのか非常に迷うところであった。
これまでその光はちゃんと光っていたもんだから、その証明としての信頼度はかなり高くて、個人的にはよくできた認識方法であると考えていたから、暖簾をかけることはやめにしようと踏んでいる。まぁこんな野暮なことで悩み続けるのも時間の無駄であろうか。ただし二か月はちゃんと光っていたのである。それはたしかな、揺るぎない証明だったのである。もう一度言う。二か月はちゃんと、光っていたのだ。二か月は。




