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作者: 諒

 両親が離婚したのは2月のことだ。

 うちは小さな部品工場をやっていて、折からの不況で経営は火の車だったらしい。

 らしい、というのは私はまだ中学生で、両親が難しい顔で交わす話がよくわからなかったからだ。


 2月のある日、父は離婚届を置いて姿を消した。

 下着もなにもかも持たず、身一つで消えたのだ。

 工場にやってきた借金取りたちに、母は淡々と事実を突きつけて、私を連れて実家に戻った――家も工場も差し押さえられてしまったのだ。

 工場の名義はもちろんのこと借金の名義も全部父で、離婚した母には関係のない話だ、と母から伝えられた。


「借金だけ残して出ていくなんて」


 ひどい男だと母が憤るのに、私は黙って頷くしかできなかった。


 母の再婚はそれから間もなくのことだった。

 10月、突然引越しをするからと最低限の荷物をまとめさせられ、知らない家に連れていかれた。


「新しいお父さんよ」


 と紹介された男は母と親密そうで、いったいいつから2人が親しくしていたのか不信感が募った。


 新しい家は清潔なマンションで、しかしなんだか生臭かった。

 排水関係に問題があるのか、どれだけ掃除をしても腐臭がするのだ。

 母に訴えてもそんなにおいはしないとかえって心配された。

 夏場に放置した生ごみのようなにおいに私は辟易とし、適当な言い訳をつけて母の実家に戻った。

 義父が私をいやな目でみるのもうんざりしていた。


 久しぶりに母のもとに行ったのは、3者面談にきてくれとお願いするためだった。

 その頃母はあまり電話に出なかったので、直接行くしかなかった。

 

 数か月ぶりに行ったマンションには、以前よりも腐臭が濃く満ちていた。

 どこかやつれた母と話を済ませた私は、我慢の限界を迎えてトイレに駆け込んで思い切り吐いた。

 何故母はこの中で暮らしていけるのだろうと、不思議に思いながらダイニングに戻る。


 ダイニングには先ほどと変わらず母がいて、その隣に真っ黒な男がいた。

 腐臭にまじって金属粉と機械油のにおいが強く流れてきた。

 黒い男はじっと母の横顔を見ている。なのに、母はそれをまったく気にしたそぶりはない。

 私は転がるようにマンションを逃げ去って、二度とこなかった。



 かつて私が住んでいた自宅兼工場が取り壊され、埋められていた男性の遺体が見つかったのは、それから半年後のことだった。

息抜き短編

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