バイトの悲劇…… by美代
あたし、清川美代がコンビニでバイトしてる最中に思わぬことが起きた。
「いらっしゃ……」
まさかの人が来た。
「……父さん」
そう、父の茂樹だ。
なんで、ここに?
「はは、嬉しいですね。『父さん』と呼んでくれるなんて」
「……」
まだ、わだかまりはあるけど、一応普通の家族みたいに接することはできるようになった。
少し、気恥ずかしいけど。
「ところで美代さん。オススメ商品ってあります?」
「え? ああ、はい。こちらになります」
父さんを連れて、棚の商品を取り出す。
「こちらなんていかがですか?」
「育毛剤、ですか?」
「ちょいどいいかと……」
「いりません」
あ、戻された……。
チッ。
「あ、これなら……」
「避妊具……。そんなに私が無節操に見えますか?」
「はい」
「即答されると悲しいですね……」
あ、戻された。
これもダメか……。
「これなんていかがですか?」
「暴君ハバ○ロ……。食べろと言うんですか?」
「はい、後口引く辛さがたまんないとの評判です」
「いりません」
笑顔で返された。
これもダメか……。
「あ、それよりおでんありますか?」
思い出したかのように告げる父さん。
「おでんですね」
まだおでんには早いと思うけどな……。
「じゃあ、…………えーと」
迷っているようだ。
「早く決めてください」
さりげなく急かしてみる。
「ん……もう少し時間を」
「何にするんですか?」
「えーと……」
「レジが混んできたので早めにお願いします」
ちなみに、これは嘘だ。
「じゃあ……、スマイル下さい」
「マク○ナルドへ行ってください!!」
マクドナ○ドでその台詞言っても苦笑しか帰ってこないだろうけど……。
ま、知らないけどね。
「え、スマイル0円って聞いたんですけど……」
「どこかの店と絶対勘違いしてるよね!!」
ついに、地が出てしまった。
バイトでは出ないようにしてたのにな……。
もういいや、このテンションで行こ。
「スマイルが駄目なら……。あ、おでん下さい」
そういやさっき、おでんって言ったよね。
「えー……、玉子ください」
「玉子一つっと」
「さらに玉子ください」
「……玉子一つ」
「あと玉子ください」
「玉子……一つ」
「以上で」
「玉子だけ!?」
「何か問題でも?」
「い、いや、ないけど……」
「あとは……、カラシもお願いします」
「……」
大量にそそぎ込んでやった。
「あー、その五倍入れてください」
「それはさすがにもったいない!!」
最初に大量にあたしが言える台詞ではないけど……。
「225円になります」
「一万円から」
千円札十枚……。
「一枚で結構です」
「一万円から」
「……了解しました」
レジに打ち込んでいると。
「貴方には分かりますか!? たかが、たかが225円のために一万円を出さなければならないこの悲しみを……!! 財布が重くなるという煩わしさを!!」
「あれ!? そんな話どっから出た!?」
「一万円がバラバラになってしまうこの辛さ、貴方は分かると言うんですか!?」
わざわざ十枚も出しておきながらなんなんだ、いったい!?
「……おつりです」
「小銭を文鎮代わりにレシートを置くのは、許せません。万死に値します」
「それぐらい許してよ!!」
よくやるけど、そんなに腹立つことなの!?
「財布に入れにくいんですよ、分かりますか?」
「まぁ……分からなくはないけど」
「ああ、あと玉子ください」
「まだ食べんの!? っていうか、なんか急な注文!!」
「あと、どうみてもカラシ入れすぎです。抜いてください」
「もっと入れろとか言ってたくせに!!」
今世紀最大のめんどくさい客だ!!
「…………はぁ」
思わずため息が出た。
「はい、どうぞ」
「レジ袋いりません」
「そういうのは早く言って!!」
「レシートもいりません」
「はい、そうですか!!」
「レシートを貰わない。なんてエコでしょう」
「知るかっ!! むしろ、レジ袋でしょうが!!」
ああ、もうヤダ!!
「はい、どうぞ!!」
「熱くて持てません。やっぱりレジ袋を……」
「帰って!!」
「はい、分かりました」
すると、すぐにドアの方に向かっていった。
「元気そうで、よかったです」
「……」
あたしは、何も言わず、その背中を見つめた。
「今夜もまた、来ますね」
「……またのご来店をお待ちしています」
少しだけ、嬉しかった。
父さんがあんなこと言ってくれるなんて。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜。
「玉子ください」
「入店直後に言わないでよ!!」
「ついでにスマイルもください」
「もういいよそのくだり!!」
ホントに来たよ……。
あたしからも仕返ししてやる。
「お客様、避妊具をお買い忘れになられていましたよ」
「美代さん、玉子好きですか?」
「聞いちゃいないな、人の話!!」
「美代さん、玉子好きでしたもんね」
もう泣いていいですか?
「いえ、あたしは好きではないです」
「ちくわは好きですか?」
「…………」
なんか、涙が……。
目から汗も出てきた……。
……同じか。
「ちくわは……、微妙で」
「美代さん、玉子好きですか?」
言い終える前に、彼は聞いてきた。
「人の話を聞いてよ!! ってか人の話を聞いとけよ!!」
それにしても、エッグストーリー再来である。
……もうやだ死にたい。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「美代ねぇ!? どうした、なんか色々尽き果ててるぞ!?」
秀明くんが心配した表情で、あたしをリビングに連れて行く。
「あー、秀明くん……」
「何かあったのか?」
「バイト、恐ろしい……。もうやだ働かない」
「美代ねぇがニート発言!?」
「今は一人にさせて……」
あたしはそう言い残し、部屋へ倒れるように入った。
あたしは、固く、もう二度とコンビニ店員にはならないと決めた。
だから、今日はコンビニ店員にならないと決めた記念日。
それにしても、
悲劇三連続である。
サンレンダァ!!(グォレンダァ!!的な意味で)




