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清川家の日常  作者: planet
16/21

バイトの悲劇…… by美代



あたし、清川美代がコンビニでバイトしてる最中に思わぬことが起きた。



「いらっしゃ……」



まさかの人が来た。



「……父さん」



そう、父の茂樹だ。


なんで、ここに?



「はは、嬉しいですね。『父さん』と呼んでくれるなんて」



「……」



まだ、わだかまりはあるけど、一応普通の家族みたいに接することはできるようになった。


少し、気恥ずかしいけど。



「ところで美代さん。オススメ商品ってあります?」



「え? ああ、はい。こちらになります」



父さんを連れて、棚の商品を取り出す。



「こちらなんていかがですか?」



「育毛剤、ですか?」



「ちょいどいいかと……」



「いりません」



あ、戻された……。


チッ。



「あ、これなら……」



「避妊具……。そんなに私が無節操に見えますか?」



「はい」



「即答されると悲しいですね……」



あ、戻された。


これもダメか……。



「これなんていかがですか?」



「暴君ハバ○ロ……。食べろと言うんですか?」



「はい、後口引く辛さがたまんないとの評判です」



「いりません」



笑顔で返された。


これもダメか……。



「あ、それよりおでんありますか?」



思い出したかのように告げる父さん。



「おでんですね」



まだおでんには早いと思うけどな……。



「じゃあ、…………えーと」



迷っているようだ。



「早く決めてください」



さりげなく急かしてみる。



「ん……もう少し時間を」



「何にするんですか?」



「えーと……」



「レジが混んできたので早めにお願いします」



ちなみに、これは嘘だ。



「じゃあ……、スマイル下さい」



「マク○ナルドへ行ってください!!」



マクドナ○ドでその台詞言っても苦笑しか帰ってこないだろうけど……。


ま、知らないけどね。



「え、スマイル0円って聞いたんですけど……」



「どこかの店と絶対勘違いしてるよね!!」



ついに、地が出てしまった。


バイトでは出ないようにしてたのにな……。


もういいや、このテンションで行こ。



「スマイルが駄目なら……。あ、おでん下さい」



そういやさっき、おでんって言ったよね。



「えー……、玉子ください」



「玉子一つっと」



「さらに玉子ください」



「……玉子一つ」



「あと玉子ください」



「玉子……一つ」



「以上で」



「玉子だけ!?」



「何か問題でも?」



「い、いや、ないけど……」



「あとは……、カラシもお願いします」



「……」



大量にそそぎ込んでやった。



「あー、その五倍入れてください」



「それはさすがにもったいない!!」



最初に大量にあたしが言える台詞ではないけど……。



「225円になります」



「一万円から」



千円札十枚……。



「一枚で結構です」



「一万円から」



「……了解しました」



レジに打ち込んでいると。



「貴方には分かりますか!? たかが、たかが225円のために一万円を出さなければならないこの悲しみを……!! 財布が重くなるという煩わしさを!!」



「あれ!? そんな話どっから出た!?」



「一万円がバラバラになってしまうこの辛さ、貴方は分かると言うんですか!?」



わざわざ十枚も出しておきながらなんなんだ、いったい!?



「……おつりです」



「小銭を文鎮代わりにレシートを置くのは、許せません。万死に値します」



「それぐらい許してよ!!」



よくやるけど、そんなに腹立つことなの!?



「財布に入れにくいんですよ、分かりますか?」



「まぁ……分からなくはないけど」



「ああ、あと玉子ください」



「まだ食べんの!? っていうか、なんか急な注文!!」



「あと、どうみてもカラシ入れすぎです。抜いてください」



「もっと入れろとか言ってたくせに!!」



今世紀最大のめんどくさい客だ!!



「…………はぁ」



思わずため息が出た。



「はい、どうぞ」



「レジ袋いりません」



「そういうのは早く言って!!」



「レシートもいりません」



「はい、そうですか!!」



「レシートを貰わない。なんてエコでしょう」



「知るかっ!! むしろ、レジ袋でしょうが!!」



ああ、もうヤダ!!



「はい、どうぞ!!」



「熱くて持てません。やっぱりレジ袋を……」



「帰って!!」



「はい、分かりました」



すると、すぐにドアの方に向かっていった。



「元気そうで、よかったです」



「……」



あたしは、何も言わず、その背中を見つめた。



「今夜もまた、来ますね」



「……またのご来店をお待ちしています」



少しだけ、嬉しかった。


父さんがあんなこと言ってくれるなんて。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




その夜。



「玉子ください」



「入店直後に言わないでよ!!」



「ついでにスマイルもください」



「もういいよそのくだり!!」



ホントに来たよ……。


あたしからも仕返ししてやる。



「お客様、避妊具をお買い忘れになられていましたよ」



「美代さん、玉子好きですか?」



「聞いちゃいないな、人の話!!」



「美代さん、玉子好きでしたもんね」



もう泣いていいですか?



「いえ、あたしは好きではないです」



「ちくわは好きですか?」



「…………」



なんか、涙が……。

目から汗も出てきた……。

……同じか。



「ちくわは……、微妙で」



「美代さん、玉子好きですか?」



言い終える前に、彼は聞いてきた。



「人の話を聞いてよ!! ってか人の話を聞いとけよ!!」



それにしても、エッグストーリー再来である。


……もうやだ死にたい。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆




「美代ねぇ!? どうした、なんか色々尽き果ててるぞ!?」



秀明くんが心配した表情で、あたしをリビングに連れて行く。



「あー、秀明くん……」



「何かあったのか?」



「バイト、恐ろしい……。もうやだ働かない」



「美代ねぇがニート発言!?」



「今は一人にさせて……」



あたしはそう言い残し、部屋へ倒れるように入った。


あたしは、固く、もう二度とコンビニ店員にはならないと決めた。


だから、今日はコンビニ店員にならないと決めた記念日。


それにしても、


悲劇三連続である。


サンレンダァ!!(グォレンダァ!!的な意味で)

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