実際の執筆
――「書く」を始めるために、整えるべきこと
プロットができ、キャラクターが決まり、世界観が固まった。
ここまできたら、あとは「書く」だけだ――そう言われると簡単そうに見える。
しかし、ここから先が最初の大きな壁でもある。
文章を書き始めるためには、技術よりもまず環境と習慣が必要になる。
この章では、実際に執筆を開始する際の環境の整え方、テンプレートの活用法、そして執筆に対する考え方の整頓について述べていく。
1. 書く環境の整備(執筆アプリ・時間帯)
執筆に取り組むとき、最も見落とされがちなのが「どこで、どうやって書くか」という物理的な部分である。
創作というのは、精神的エネルギーを消費する作業だ。
集中力や発想力は、環境に大きく左右される。
だからこそ、「書く場所」「書く時間」「書くツール」を自分に合ったものにしておくことは、非常に重要である。
たとえば、静かな書斎がない場合でも、図書館やカフェ、イヤホンをつけた電車の中など、「集中できる時間帯と場所」を見つけて習慣化するだけで、筆の進みは大きく変わる。
短時間でも「ここで書く」と決めた場所と時間を持つことが、執筆のリズムを作る第一歩となる。
また、使用するツールも人によって好みが分かれる。
スマホのメモアプリ、PCのワード、Googleドキュメント、小説投稿サイトの下書き機能、縦書きエディタ、執筆特化ソフト(Scrivener、Nola、Shodoなど)……。
「どれが正解か」ではなく、「自分が書きやすいかどうか」が基準になる。
重要なのは、「書くためのハードルを下げること」。
スマホでもPCでもいい。大切なのは、すぐに書き始められる導線を用意しておくことだ。
2. テンプレートの活用(章構成、会話、地の文)
文章を書き始めたときに、「どういう構成で進めればいいのか分からない」という壁にぶつかることがある。
そのときに有効なのが、テンプレートの活用である。
テンプレートといっても、「型にはめる」という意味ではない。
それはむしろ、「創作の迷子にならないためのガイドライン」であり、「選択肢の候補を先に置いておくこと」に近い。
たとえば、1話分の構成であれば以下のような流れが基本として使える。
導入(現状・状況の提示)
事件・変化(異変や問題の発生)
感情の動き(葛藤・決意・衝突)
小さな転換点(新たな情報・出会い・選択)
引き(続きが気になる終わり方)
これは起承転結の変形でもあるが、短編・長編問わず使える「語りの足場」である。
迷ったときはこの枠組みに沿って書いてみることで、自然と文章が前に進むことがある。
また、会話のテンプレートも有効だ。
キャラクター同士の会話がスムーズに書けないとき、「目的」「トーン」「関係性」に基づいて会話のパターンを事前に考えておくと、リアリティが出やすい。
さらに、地の文の書き方にもある程度のスタイルを決めておくと、毎回の筆の迷いが減る。
たとえば、
一人称視点で心理描写中心に進めるか
三人称視点で客観的な描写を優先するか
一文の長さを短めに統一するか、文芸的に変化を持たせるか
など、最初に方向性を決めておくだけで、「書き進める自分のリズム」が確立していく。
テンプレートは創作を縛るものではなく、創作を「始めやすくする」ものである。
使えるところだけ使い、外したくなったら外せばいい。
3. 自分に合った執筆スタイル(完璧主義を捨てる)
最後に、実際に書き始めるとき、もっとも重要になるのが「自分に合ったスタイル」を見つけることである。
創作には正解がない。
一気に10,000字書く人もいれば、1日300字ずつ積み重ねる人もいる。
物語の途中でプロットを変更する人もいれば、最初から最後まで設計図通りに書き切る人もいる。
どれも正しいし、どれも間違っていない。
ここで多くの初心者がつまずくのが、「完璧に書こうとする」ことだ。
最初から名文を書こう、無駄のない展開にしよう、矛盾のない設定にしよう――。
それらは理想だが、最初からそれを求めると一文字も進まなくなる。
大切なのは、「下書きは下手でいい」と割り切ること。
まずは書ききること。
文章が粗くても、表現が幼くても、途中で破綻しても、最後まで物語を完走する経験が何よりの財産になる。
完璧を求めるのは、2稿目、3稿目でいい。
最初は、「とにかく書く」「書き切る」を最優先にする。
そのためには、多少の矛盾や文章の粗さは一度忘れていい。
また、「書く気になれない日」や「アイディアが出ない日」があるのは当たり前である。
そんなときは、箇条書きだけでもいいし、メモだけでもいい。
書きかけのセリフだけでもいい。
「ゼロより1」にすることが、長期的に見れば大きな前進になる。
書くことは、自分との対話であり、自分との闘いでもある。
勝たなくてもいい。続けること、それ自体が創作なのだ。
まとめ
書く場所・時間・ツールを自分に合った形で整える
テンプレートを使って「書き始めの迷い」をなくす
完璧主義を手放し、「書ききる」ことを優先する
書けない日は、「ゼロより1」の小さな行動を意識する
物語は「思いつく」だけでは生まれない。
実際に「書く」という地道な作業があって、初めて形になる。
その最初の一歩を確実に踏み出すための準備と意識こそが、創作における最大の技術といえる。