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テーマとジャンルの決定

――「何を書くか」の前に、「なぜ書くか」を探る


物語を書くとき、多くの人はまず「ジャンル」を考える。「異世界ファンタジーを書きたい」「学園恋愛が好きだから」「とにかくバトルものが読みたい」という出発点だ。それはまったく間違っていないし、むしろ健全だと思う。ジャンルは、読者にとって「この作品はどんな味なのか」を示す重要なラベルだからだ。


だが、一つだけ注意がある。それは、「ジャンルを選ぶこと」と「テーマを持つこと」は違う、ということだ。


ジャンルは表層の設計図だが、テーマは作品の土台、あるいは芯、魂のようなものだ。

それがないと、物語の構造は美しくても空虚になる。逆に、テーマがしっかりしていれば、ジャンルの枠を超えて人の心に残る作品になりうる。


テーマとはつまり、「自分はこの物語で何を描きたいのか?」という問いに対する答えだ。

たとえば、人は過去を乗り越えられるのか。憎しみと愛はどこで分かれるのか。正義とは誰のためのものなのか。自分はなぜ孤独なのか。なぜ人と分かり合えないのか。

こうした問いは、ストーリーのどこかに必ず流れている。表には出てこなくても、登場人物の行動や、ストーリーの結末、選ばれた運命の中にそれはにじみ出る。


私が物語で筆が止まったのも、まさにここが曖昧だったからだ。

最初は「とにかく自分が読みたい異世界冒険譚が書きたい」と思っていた。そこには確かにワクワク感があったし、書いていて楽しかった。だが数十話を超えたあたりで、突然自分の中に空白ができた。

この話は、いったい何を伝えたくて書いているんだろう?

主人公は強くなってるけど、私は何を語りたいんだろう?

その問いに答えられなかった。だから止まった。


「テーマを決めよう」と意識して作品を書くのは、初心者には少し堅苦しく思えるかもしれない。でも、別に難しく考える必要はない。「なんとなくこういう感情を描きたい」とか、「こういう人間関係が好きだから突き詰めたい」でもいい。それを自分の中で言葉にするだけで、物語は格段に書きやすくなる。


テーマが定まると、主人公の行動がブレにくくなる。物語の分岐点で、どの選択をさせるか迷ったときも、「この作品が描きたいテーマに沿う選択はどちらか?」と考えることで自然に道筋が決まっていく。

逆にテーマが曖昧だと、どのキャラもただストーリーに乗っかって動くだけになり、読者も物語の「意味」を感じ取れなくなる。


私は最近、「これは人と人が分かり合えない孤独の物語だ」「これは報われなさの連鎖を断ち切る話だ」といったように、一文でテーマを定義するようにしている。それがあると、どんなシーンでも物語の背骨がぶれない。


さて、テーマの話をしたあとは、「ジャンル」について触れたい。


ジャンルは、読者との最初の接点だ。投稿サイトのタグやランキングもすべてジャンルごとに分けられているし、読者の検索行動もほとんどがジャンルを基点にしている。つまり、ジャンルを決めることは、読者に対して「この作品はこういう物語です」と名乗ることに等しい。


しかしここでもう一つ、気をつけたいことがある。それは、自分の書きたいジャンルと、読者が求めるジャンルがズレていることがあるという事実だ。


たとえば「復讐ものを書きたい」と思っても、それを恋愛ジャンルに投稿するのと、ファンタジージャンルに投稿するのとでは、読者の反応はまったく違う。読者はジャンルに対して「一定の期待」を持っている。その期待を意図的に裏切るのは戦略としてありだが、無意識にズレていると、読者は「思ってたのと違った」と離れていってしまう。


また、ジャンルは時期や流行にも影響される。ある年には異世界転生が爆発的に人気で、またある年には現代復讐サスペンスが伸びたりする。こうした流れをまったく無視してもいいが、少し意識することで、「どうせなら読まれる可能性の高いフィールドで勝負しよう」と考えるのも一つの戦略だ。


ただ、ここで大事なのは、ジャンルに合わせてテーマを歪めないことだ。

たとえば、「このテーマは現代劇のほうが深く描けそうだけど、異世界ファンタジーのほうが流行ってるから」という理由でテーマを捻じ曲げてしまうと、物語の重心がずれて、作者自身も書いていて苦しくなる。そういう作品は読者にも伝わってしまうものだ。


ジャンルとテーマの関係は、「味」と「器」のようなものだと思う。

テーマは物語の味であり、ジャンルはその味を盛るための器。器は大事だが、主役はあくまで味である。器ばかりを見ていては、料理にはならない。


さらにもう一つ、最近よく見るのが「ジャンルのかけ合わせ」だ。

これはとても効果的な方法で、特にオリジナリティを出したいときに有効だ。たとえば、「恋愛×ホラー」「学園×バトル」「料理×復讐」など、意外なジャンルを組み合わせることで、物語に独特の風味を出すことができる。


ただし、これにも注意点がある。ジャンルを掛け合わせるときは、「どちらが主で、どちらが副か」を明確にしたほうがいい。すべてを50:50でやろうとすると、焦点がぼやけて読者が迷う。たとえば「恋愛ホラー」と言った場合、「怖いけど最後は恋愛として満足できた」のか、「恋愛っぽいけどとにかく怖かった」のかで、読者の評価が大きく変わる。読者が最終的に「これは◯◯の話だった」と言えるように、主軸を決めておくと良い。


自分の書きたいテーマに最も合ったジャンル、そしてそれを引き立てる構造としてのサブジャンル。この二つを意識することで、物語はグッと締まりが出る。


最後にひとつ、自戒も込めて。


テーマもジャンルも、最初から完璧に決める必要はない。

書きながら見えてくることもある。思いもよらないキャラの行動に、自分の無意識のテーマがにじみ出ることもある。ただ、なんとなくでもいいから、「自分は何が書きたいんだろう?」という問いをどこかに置いておくだけで、物語の方向は大きく変わる。


物語は誰かに見せる前に、まず自分にとって意味のあるものかどうかが大事だ。

その意味をつくるのが、テーマであり、それを届けるための舞台がジャンルである。


書きたいものを、ただ書くために。

でも、せっかくなら届く形にするために。

テーマとジャンルを見つめることは、その第一歩になる。

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