第三十二話 お誘いのメール
「あー、バイト疲れた……」
バイト終わり、お風呂から上がった友利はベッドにダイブする。
夏休みが始まって約一週間が経った。
意外にバイトは大変で、レジ打ちといっても最初は覚えることが多かった。
接客業なのでお客さんになるべく笑顔も振り撒かなければならない。
しかし逆にバイトがない日は暇な日々を過ごしていた。
本を読んだり気分転換に勉強したり、筋トレも始めてみた。
何もしないのは嫌なだけなのでただの暇つぶしではある。
(……本でも読もう)
友利はそう思って、本棚から今読んでいる本を取る。
そしてエアコンのリモコンで冷房をつけて布団を被った。
冷房をつけて布団を被って本を読む。
このままだと夏休みの大半で自堕落な生活を送ってしまうことになりそうだ。
とはいえこんな読み方が何気に落ち着く。
しばらく本を読み進めていると携帯の着信が鳴った。
『今週の金曜日の夏祭り、一緒に行かない?』
瑞樹からのメールで夏祭りのお誘いだった。
これにはテンションが上がってしまい、友利は体を起こした。
(そういえば夏祭りの存在忘れてた)
『いいよ、一緒に行こ』
『了解! 天音も誘っていい?』
『もちろん』
『ありがと! 時間とかは後でまた調整しよ。ちなみに集合何時くらいがいい?』
『バイトないからいつでもいいよ。夏祭り前に遊んでもいいし』
『わかった』
メールを一通りした後、友利は自分の口角が上がっていたことに気づいた。
夏祭りなど何年ぶりだろう。
小学生の頃に家族と行ったきりである。
中学生以降はまずあまり遊ばなかったので、こういったイベントの存在を忘れていた。
「……金曜日の夜ご飯いらないって言っとこ」
友利はそう思ってリビングに向かった。
それからというもの、友利の調子は上がっていた。
メールがきた次の日のバイトは慣れたこともあってスムーズに終わらせられた。
勉強の調子もよく頭も冴えていた。
それだけ夏祭りを楽しみにしていたのだと思う。
しかし瑞樹と連絡して二日後の水曜日だった。
『ごめん! 夏祭り予定あるの忘れてて行けなくなった。私から提案したのに本当ごめん!』
瑞樹からそんなメッセージが送られてきた。
用事があるなら仕方ない、仕方ないが落胆してしまうというもの。
友利はため息をつきながらもメッセージを返した。
『ううん、全然大丈夫。用事あるなら仕方ないよ』
『本当ごめんね、天音も先に他の子と行く約束してて皆原と行けないみたい』
天音と二人で夏祭りは問題がありすぎる。
なのでどちらにせよ断っていた。
行く相手もいないので今年の夏祭りはパスだろう。
『だから皆原も別の人、誘って行ってきて』
『そうする、また遊ぼ』
『だね、絶対遊ぼ!』
メールのやり取りを終えた後、友利はベッドに寝っ転がった。
夏祭りに行けないと言っても瑞樹とはいつか遊べる。
まだまだ休みは長い。
「行きたかったな......夏祭り」
でもやはり行きたかったという思いはある。
こうなった以上、仕方ない。
気分転換に本でも読もう。
そう思って友利がベッドから起き上がった時だった。
スマホの通知が鳴った。
送り主は瑞樹でまだ何かあるのかと思い、スマホを開ける。
『あのさ、もしよければなんだけど夏祭りの日、一緒におばあちゃんの家くる?』
突然、そんなメールが送られてきたので友利は困惑する。
友人と言っても瑞樹の家族の間に入るのは少々野暮なのではないだろうか。
(瑞樹の祖母の家……僕が行っていいのか?)
『それ、行っていいの?』
『毎年行ってるんだけど今年私一人で行かなくちゃいけなくて。それであっち居ても一人だと暇なんだよね』
『なるほど、けどやっぱり僕が行くと邪魔じゃない?』
『ううん、大丈夫。それでどうする? 行く?』
瑞樹の用事は祖母の家に帰ることだった。
なので夏祭りには当然行けなくなる。
しかし瑞樹と一緒にどこか行きたいという思いの方が断然強かった。
『流石に泊まりじゃないよね?』
『日帰りで、片道二時間もかからないくらい』
『じゃあ行こうかな』
『本当? 夏祭り行けなくなっちゃうからそっち優先してもいいんだよ?』
『大丈夫、行く相手そもそもいなかったし』
『ありがと、私の用事に付き合う形でごめんね。でも皆原とどこか行きたいなって思ってたから』
瑞樹からの最後のメールに文面だけだが胸が跳ね上がった。
そうして友利は瑞樹と共に瑞樹の祖母の家に行くことになった。
金曜日はちょうどバイトもないので心置きなく遊べる。
夏祭りとはかけ離れてしまったかもしれない。
けれど友利は上がった口角がなかなか下がらなかった。




