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第三十一話 恋情と友情

「はい、じゃあ夏休みを送る上での注意事項が書かれたプリント配ります……」


 担任はそう言って夏休みの注意事項を説明し始めた。

 バイトは申請が必要、などルールだったり注意だったりを話している。

 

 しかし当然、頭に入ってくるわけがない。


 終業式も終わってホームルーム、これが終われば今日から夏休みに入るからだ。

 

「ねえねえ、皆原は夏休み何する予定? バイトとかする?」


 瑞樹も浮かれているのかニコニコとしながら話しかけてくる。


 ただ、ニコニコとできているのは期末テストの点が良かったからとも言えるだろう。

 期末テストが終わって次の週にはテストが全て返されていた。

 瑞樹の結果は二週間の友利との勉強の甲斐あって赤点から大きく上回った点数をとっていた。


 これで夏休みはバスケができるとはしゃいでいたのを覚えている。


「うーん、バイトはしようかなって思ってる。もう面接も受けたし」

「いいね、何のバイト?」

「スーパーのレジ打ち」

「なるほど、じゃあそのスーパー行こうかな」

「来られると困る」


 冗談なのだろうが瑞樹ならやりかねないと思ってしまう。

 別に来てもいいのだが反応に困るのだ。

 

 実は少し前にバイトの面接を友利は受けていた。

 瑞樹や天音と遊ぶ機会が増えたおかげでお金の消費が増えてしまったからだ。


「流石にそれは冗談。だけど夏休みは皆原と遊びたいなあ」

「いいよ、どこ行く?」

「夏と言ったらプールだしプールとかどう?」

「ごめん、プールは苦手かも」

「そっかー……なら仕方ないね。でもプール苦手って人生の半分損してない?」

「人生の半分もプール行ってないし……なんていうか、そもそもいい思い出ないんだよね」


 友利は言い訳を作りながら誤魔化す。

 

 別にプールが苦手なわけではない。


 瑞樹と遊ぶということは高確率で天音がセットになってくる。

 そうなると男子一、女子二でプールに行くことになる。

 少々友利側のメンタルが持たない。


 友利がマッチョだったらまた別だが二人に対して見劣りしすぎる。

 さらに女子の水着は友利にとっては刺激が強いのでハードルが高い。


 なので天音が行かないと言って瑞樹と二人でプールに行くのも遠慮したい。


「とりあえずプールじゃなくても空いてる日、遊ぼ。夏休みは部活以外暇だから」

「だね、せっかくの夏休みだし」

「……なんか皆原性格変わったよね? 前までそんなに遊ぶ人じゃなかったと思うんだけど」

「誰かさんのおかげで遊びの楽しさに気づいたからね」

「あはは、なら良かった」


 瑞樹のおかげで友達と遊ぶ時の楽しさを学んだし、恋心も学んだ。

 

 やっぱり瑞樹ともっと遊びたい、もっと話したい、もっと一緒にいたい。

 瑞樹にとっての特別な存在になりたい。


 (夏休み、ちょっと頑張ってみようかな……)


 筋トレだとか、勉強だとか、その程度のもので瑞樹は振り向いてくれるかわからない。

 ただ、せっかくの長い休みだし頑張ってみてもいいかもしれない。


「というわけで以上です。羽を伸ばしすぎない程度に楽しい夏休みを過ごしてください。起立、礼」


 そうして高校生になって初めての夏休みが始まった。


 ***


「……アイスないのか。コンビニ行こうかな」


 放課後、アイスを食べたいと思い、冷凍庫を漁るとなかったので友利はコンビニへと向かった。

 そうして赤く彩られた空の下を歩いていく。


 夏休みが始まったので気持ち的に楽である。


 とはいえやはり暇な夏休みになりそうだ。

 なので学校に早く行きたいと思うようになるだろう。


 休みはやっぱり嬉しい。

 しかし友人に会う機会が減ると思うと寂しいと感じる自分がいる。


 一学期の最初の方の自分とは大違いだ。

 友利は以前、ゆったりとした学校生活を望んでいた。

 目立たず、友人関係も程々にして静かに生きる。


 しかし瑞樹と関わるようになって、天音とも関わるようになって、一番目立つ二人と仲良くなった。

 結果、勘違いされたりとよくないこともあったと思う。


 けれどそれだけじゃなく、友達とはしゃいだり遊んだりする楽しさを瑞樹たちは教えてくれた。


 そんなことを考えているとコンビニに着く。

 友利はアイスコーナーに直行してアイスを選び始めた。


 (どれにしようかな......チョコ系は気分じゃないし)


「皆原くん、だよね?」


 友利がアイスを選んでいると前から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 ふと、顔を上げれば友利の前にアイスコーナーを挟んで、天音が立っていた。


「如月さんじゃん、どうも」

「皆原くんもアイス買いに来たの?」

「そうだね、暑いし」

「だよね、最近暑いよね。アイスは何にするの?」

「うーん、これにしようかな」


 友利はアイスコーナーからソーダ味のアイスを取り出した。

 

 棒にかき氷のような食感をしたアイスが刺さっているものだ。

 安くて美味しいのでよく買っている。


「いいね......私は、これかな」


 一方、天音はチョコが使われた少し濃いめのアイスを取り出す。

 アイスを選んだあと、二人は一緒にレジに行ってコンビニを出た。


「ねえねえ、皆原くんって帰り道どっち?」

「僕はこっち」

「なら一緒に歩きながらちょっと話さない?」

 

 コンビニを出ると天音がそう提案した。

 そうして友利は天音と歩きながら会話し始めた。


 天音と二人きりの状況は瑞樹の誕生日プレゼントを選びに行った日以来だ。


「皆原くんと私ってたしか初めてあのコンビニでまともに話したよね」

「あー、たしかに、如月さんに注意されたの今でも覚えてる」

「そういえばそうだったね、あの時はちょっとイラついてたから」


 瑞樹に嘘告して、天音に嫌われて、浩也にヘイトを向けられて、大変な時期だった。

 普通に考えれば浩也に命令されて嘘告した自分が馬鹿だったし、当然の報いだったと思う。


 そんな会話をしながら帰り道を歩く。

 すると天音が割と踏み込んだ質問をしてきた。


「皆原くんってさ......瑞樹のことどう思ってる?」

「どうって......大切な友達だと思ってるけど......」

「それは知ってる、じゃなくて......瑞樹のこと好き?」


 勘づいてこの質問をしているのか、それとも男女の仲ということで単純に気になるだけか。

 どちらなのかは分からない。


 友利は誰にも自身の恋心を打ち明ける気がなかった。

 第一、誰かに言ってそれが瑞樹にまで伝わったら困る。


「......言えない、かな」


 しかし好きじゃないと否定したくもなかった。

 結果、曖昧な返答になった。


 多分、心の中では誰かに打ち明けたかっただけなのだと思う。

 そうでもしないと溢れ出てくる思いを抑えられそうになかった。


「それ、瑞樹のこと好きですって言ってるようなもんじゃない?」

「たしかに......そうだね、うん、瑞樹のこと好きだよ」

「......そっか、瑞樹のこと好きなんだ」


 友利がはっきりと答えると天音は「へー」と言った。

 しかし表情は変わっておらず、おそらく勘づいていたのだろう。


「瑞樹のどんなところが好き?」

「優しいところとか、よく笑うところとか、笑顔可愛いところとか」

「結構好きなんだね。なら......その恋、応援するよ」


 天音はニコッと微笑んだ。

 そんな天音の表情を見るのは初めてでみんなから可愛いと言われるだけの笑顔だった。


 友利はそんな笑顔を見て目を逸らした。

 ドキッとした訳ではない、ただ見ていられなかったのだ。


 もしかしたら天音に瑞樹への好意を打ち明けるべきではなかったのかもしれない。


 瑞樹のことは好きだ。

 しかし瑞樹に好意を持った以上、自身の恋を諦めない限りどう転ぼうと三人の関係は変わる。

 

 今の三人の関係は友利は好きだ。

 友達の多い二人にとってはまた別かもしれないが、友利にとっては特別。


 瑞樹の隣に立ちたいと思いながら、三人で友人としてもいたいという矛盾。

 そんな思いが友利の中にできてしまっている。


「如月さんはさ......その......」

「なに?」

「いや、ごめん、なんでもない」


 天音にそんな自身の心情など到底言えなかった。

 

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