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第十六話 伊地知 浩也

 友利と浩也は幼稚園からの幼馴染だった。

 幼稚園の中でも仲が良く、小学校に上がってからもほぼ毎日一緒にいた。

 家も近かったのでお互いの家に遊びに行ったり、夏は虫取りに行ったり、休みはよく一緒に遊んだ。

 

 しかし対等という関係だとは浩也は思っていなかった。


 浩也は昔からプライドが高く、負けず嫌いな性格をしていた。

 だから誰かに負けたら勝つまでやり続けていた。

 そんな性格と元の器用さもあって基本的になんでもすることができた。

 走れば一番、どんな運動をしても活躍するのは浩也で運動以外でも器用で一位が当たり前。


 そんな浩也は友利に慕われていたのだ。


「浩也くんすごい! それどうやってやるの?」

「ふふん、お前には教えなーい」

「え、なんで?」

「俺にしかできないからだ」

「そっかあ。やっぱり浩也くんかっこいいね!」


 浩也は無意識に自分の方が上で友利が下、自分の後をついて行っている人物だと認識していた。

 そのせいで余計にプライドは固まっていった。


「ねえ、浩也くん、今日どうしたの? 怖いよ?」

「うるさい」

「僕、何かした......?」

「だから、うるさいって言ってるだろ」

「......ごめん」


 友利が浩也より何かが秀でていたら許せなかったし、その日は一日中イラついた。

 そんな拗れた感情を友利に対して抱いていた。

 友利はそれでも浩也と一緒にいて、一緒に感情を共有した。


 浩也と友利が衝突したことはなかった。

 一方的に浩也が怒ったことはあれど、友利から何か意見を言うことはない。


 お互いの性格は真反対だった、それでも関係は続いた。

 

 だからある日、浩也のプライドをズタズタに切り裂かれたときに関係はガラッと変わった。


「浩也くん、手出してみて」

「......ん? 何?」

「はい、これ、バレンタインチョコ」

「え......ああ、ありがとう」

「勘違いしないだろうけど一応言っとくと、義理チョコだからね。朝に駄菓子屋行ったら当たったから」


 関係が大きく変わったのは小学四年生の三学期、浩也には仲の良い女友達がいた。

 ロングヘアの清楚で可愛い子で浩也も話す時は意識してしまっていた。


 そしてバレンタインの日、その子から浩也はチョコをもらった。

 チョコは手作りという訳でもなく、十円チョコだった。

 さらに買ったのではなく当たったチョコ。


 しかし初めての女子からのバレンタインチョコを可愛い子に貰ったというドキドキが浩也にはあった。

 それから自分のその子に対する恋に浩也は気づいた。

 初恋の芽生えである。


「きょ、今日、一緒に帰らない?」

「ん? うん、いいよ」


 一緒に帰るのを誘ってみたり、浩也はなるべくその子に話しかけるようにした。

 

 大きいプライドがあればそれだけ自信もある。

 浩也は自分も相手のことが好きで、相手も自分のことが好きなのだと信じて疑わなかった。


 そして告白しようと矢先のことだった。


「ねえ......相談したいことがあるの」


 ある日、浩也はその子に相談を持ちかけられた。

 断らないわけがなかった。


「いいよ、相談乗る」

「私、好きな人がいるの」


 顔を赤らませて目を逸らせながらその子は言った。

 浩也はその時の表情を今でも覚えている。

 

 何故ならその好きな子が浩也で、けれども恥ずかしいからそういう表現をしているのだと思ったからだ。

 両想いが確定した、浩也はその時そう思った。

 

 胸のドキドキが止まらなかった。

 好きな人をその子自ら言わせて告白させる前に自分が告白、などというプランも立てていた。

 浩也のクラスで流行った少女漫画の影響もあってかそんな思考になっていた。


 しかしそれは単なる妄想で終わった。


「へえ、誰? はっきり言ってみて」

「絶対、絶対誰にも言わないで欲しいんだけど」

「うん」

「私......と、友利くんが好きなの。結構前から」

「え......?」


 浩也とは別の名前がその子の口から出されて唖然とした。

 好きな人は自分だと信じて疑わなかったからだ。


 それにその相手はまさかの自分より下だと思っていた友利だった。


「でね、友利くんと浩也くん、仲が良いから協力してほしいなって。今ね、あんまり友利くんと......」


 ずっと唖然としていてその子が言ったことは浩也は覚えていない。

 ただ、ひたすら「うん、うん」と言っていた記憶は残っている。


 それだけプライドが大きかった浩也にはショックだった。


 以降、浩也は友利に対して執拗に絡むようになった。

 そしてその子の前で友利を見下して、恥ずかしい行いを強制させて好意を浩也に向けさせてやろうとした。


 もちろんそんなことをすれば好意以前に引く。

 ある日、浩也は好きな人に思いっきり頬を叩かれた。


「やめてよ、なんでそんなこと友利くんにするの!? 友利くん、大丈夫? 平気?」

「う、うん......ありがとう」


 頬を叩かれたショックは大きかった。

 やがて浩也のプライドはズタズタに切り裂かれた。

 

 小学校五年に上がって、また友利と同じクラスになった。

 そこから浩也は友利に対して執拗に絡むようになった。

 自分のプライドを維持するので精一杯だった。


 昔も今も、浩也が下だと思っていた友利が原因で自分の道を邪魔される。

 けれど友利がいなければズタズタのプライドが癒えることもなく、浩也は友達もいなくなる。


 執拗な執着によって憎い友利にある意味依存してしまったのだ。


 いつどこで間違えたのか、自分が何をすればいいのか、それを考える余裕さえ今の浩也にはなかった。

 

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