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99 遅刻

Mノベルズ様より、書籍発売中です。


その後、たくさんの柿を手当たり次第にトートバッグに詰め込んでくれたアイリーンさん。

そして、そのトートバッグを担いだアイリーンさんは、またも【ターザンロープ】の滑車にスルっと飛び乗り、それをマスターさんがロープで引き寄せてくれます。


キィーギィッ

ギィーキィッ

ギギィッ


アイリーン「ちょ、ちょっと~、もう少し丁寧に引いてちょうだ~い」

アイリーン「だけどできるだけ急いで~、何か変な音がしているわ~」


マスターさんがロープを引くたびに、ワイヤーやら支柱やらから、明らかに正常とは思えない音が聞こえてきます。


【アイリーンさんのかなりギリギリっぽい自己申告体重 + たくさん柿が入ったトートバッグ = デンジャラス!】


(あれ? これって、重量的にちょっとアレなんじゃない?)

(【ターザンロープ】の重量制限をオーバーしちゃってない?)


そのことに気づいてしまったワタシは、ギシギシときしむ異音を耳にしながら、自分が渓谷を渡っている訳ではないのに、妙に手に汗握っちゃうのでした。

そんなこんなで気をもみながらも、なんとか無事にご帰還してくれたアイリーンさん。

そんなアイリーンさんをねぎらいつつ、早速お目当てのトートバッグの中身をチェックです。


「アイリーンさん、お疲れ様~。いっぱい柿を採ってきてくれて、ありがと~」


「「ありがとうございま~す」」


アイリーン「どういたしまして~。私もいい経験をさせてもらったわ~」

アイリーン「帰りはちょっと身の危険を感じたけどね~」


マスター「アーッハッハッハ。アレはどう考えてもお前の重量オ――」


アイリーン「はぁ?」


マスター「なっ、何でもねぇ、何でもねぇ・・・」(ボソボソ)


ビームか何かが出てきそうな程の、力強い眼力と共に発した一言で、マスターさんを黙らせてしまったアイリーンさん。

さすがの強面マスターさんでも口をつぐまざるを得ないその一言には、もしかすると言霊的なモノが宿っているのかもしれません。

身の危険を感じたのか、アイリーンさんからジリジリと距離をとりはじめたマスターさん。

そんなオトナ2人のやり取りなど気にも留めず、お目当ての収穫物で膨らんだトートバッグに凸するワタシたち3人です。


おにぃ「おぉ~、いっぱいあるな~」


ねぇね「ねえ、おチビちゃん。当たりの柿って、どれか分かる?」


「う~ん、どれどれ~」


(たしか前世の記憶だと、丸っとしているのが甘柿とか言われてたけど、実際は、そうとは限らないんだよね~)


ということで、間髪入れずに素直に白状することにします。


「えっとね、切ってみないとわからないかな~」


そんな会話をしていると、アイリーンさんから逃げて来たと思しきマスターさんが、ワタシたちに交ざってきました。


マスター「その実、切るのか? それならオレがやってやろう」


そう言うと、どこから取り出したのか、包丁よりもちょっと小ぶりなナイフを使って、柿を半分にしてくれました。

すると、柿の実の切断面には、黒い斑点のようなものがびっしりとついていました。


「あっ! この黒いのがいっぱいあるのは、甘いヤツだよ?」


ねぇね「そうなの? これは当たりなの?」


「そうだよ、ねぇねとおにぃ、食べてみて?」


ねぇね「うん」


おにぃ「オレは後でいいよ。おチビが先に食べな?」


ここでもレディーファーストならぬ、おチビファーストに徹する、水も滴るイケメンおにぃ。

相変わらずの少年ダンディーっぷりです。


「おにぃ、ありがとー」


カパッ

サクッ

シャクッ


「ん~、身が詰まっていて、甘くておいし~」


ねぇね「甘~い。懐かしな~」

ねぇね「・・・お母さん・・・」

ねぇね「・・・グスッ・・・」


柿を一口して、最初はニコニコしていたねぇねでしたが、食べ進めるうちに、次第にうつむきがちに。

ついには小声で口ごもりながら、少し鼻をすすってしまいました。


(やっぱり、ねぇねにとって、柿はお母さんとの大切な思い出なんだね)

(せめて、ねぇねには、柿をおいしくたくさん食べてもらおう)


そう思ったワタシは、当たりハズレ関係なく、トートバッグ内のすべての柿を無駄なくおいしくいただくべく、ねぇねに提案してみます。


「ねぇね、柿はね? 甘柿と渋柿があるんだけどね? 両方ともおいしく食べられる方法があるの」


ねぇね「グズッ・・・。そうなの?」


「うん。干し柿にすれば、柔らかくてトロっとして、そのまま食べるより濃くて甘くなるんだよ?」

「だからね? このバッグの中の柿全部、干し柿にしよ? きっとおいしく食べられるよ?」


ねぇね「うん。全部食べられるなら、そうしたい。だって、せっかくの柿がもったいないもん」

ねぇね「おチビちゃん、ありがとう」


少し気持ちを持ち直したように見えるねぇね。

最後はお礼と共にニッコリ微笑んでくれました。


(うんうん。やっぱりカワイイねぇねには、笑顔が一番だよね~)


そんな感じで、寄り道という名の、町の外へのはじめての遠足は、柿というおみやげまでついて無事終了。

あとはマスターさんの計画どおり、街壁の外側を正門までグルっと迂回して、町中の混雑を避けてハンターギルドまで帰るだけです。


マスター「よーっし、お前ら全員乗ったなー」

マスター「正門まで町の外を大回りして帰るぞー」


「「「は~い」」」


アイリーン「ハイハイ、ちゃっちゃと出発しちゃってー」


マスターさんが駆動する【三輪自転車】にけん引された【リアカー】。

その【リアカー】の上から眺める町の外の様子に、ワタシたち3人は終始ウキウキワクワクなのでした。

ひとり、マスターさんの重量オーバー発言が尾を引いているのか、ちょっと不貞腐れた感じのアイリーンさんを除いて・・・。

そうしてしばらく町の外を進んでいると、先程の裏門とそっくりな門が目に入ってきました。


マスター「こっちが正門だ。普段はもう少し人が多いんだが、今日はアレか? 領境の閉鎖の影響か?」

マスター「普段は入り口に審査待ちの列ができてるんだがな」


マスターさんがそう言うくらい、正門は閑散としていました。


アイリーン「まあ、空いてる分にはいいんじゃない?」


マスター「それもそうだな」


審査と聞いてちょっとドキドキだったのですが、マスターさんが正門にいた衛兵のみなさんに軽く会釈するだけで難なく通過。

いわゆる、顔パス的な対応みたいです。

裏門と違って、十数人もの衛兵のみなさんがキレイに整列している正門。

その中のひとりが軽く手を振ってくれたので、ワタシたち3人も「バイバ~イ (^-^)/~~」と手を振り返します。

そんなやり取りがあった程度で、正門を程なく通過したワタシたち一行。

そして町の中をしばらく進むと、見慣れた石造りの建物、ハンターギルドが見えてきました。

するとそのタイミングで、おにぃが何かを思い出したかのような声をあげました。


おにぃ「あっ、もうお昼過ぎてる!」


ねぇね「いけないっ。内職の時間過ぎちゃってる!」


お空を見上げると、お日様は真上より少し西より。

そろそろ午後からのお仕事開始、そんな感じの時間帯です。


おにぃ「あっ、あの、このまま【マダムメアリーの薬店】へ向かってもらえませんか?」


マスター「ん? もちろん構わねぇぞ?」


アイリーン「例のポーション作りの内職ね?」


ねぇね「そうなんです。だいぶ遅刻しちゃったかも」


そんな会話をしているうちに、久しぶりに正面から見る【マダムメアリーの薬店】の小ぶりな緑のお家が見えてきました。

するとその玄関口には、人影が見えました。

ひとりはこの薬店の店主、メアリーさん。

そしてもうひとり、高級そうないでたちでビシッと決めた、いかにもお偉いさんといった感じの男性が、腕組みをしてメアリーさんとなにやら言い合いをしているようです。


メアリー「なに、ちょっと遅れているだけさね。何をそんなにいきり立っとるんかね~」


男性「何を悠長な! これほど重要な仕事は、他にはないというのに」

男性「時間通りに来ないだなんて、職務怠慢も甚だしい!」


遠目から見ても、明らかにプンスカご立腹のお偉いさん。

しかも聞こえてくる内容からして、ねぇねとおにぃの遅刻について話していそうです。


おにぃ「ま、まずいかも・・・」 (>o<;)


ねぇね「ど、どうしよう・・・」 (-ェ-;)


アワアワしちゃうおにぃと、シュンとしちゃうねぇね。

先程までは、みんなでいっしょに見知らぬ町の外を見ることができて、気分爽快ウキウキワクワク、楽しい遠足気分でした。

けれど、お偉いさんの物言いを耳にして、せっかくの気分が吹っ飛んじゃいました。


「あのひと誰だろう。イヤな感じっ!」 (*`3´)


気落ちしちゃったねぇねとおにぃ、そんな2人を目の当たりにしては、文句のひとつも言いたくなっちゃう、ねぇねとおにぃ最優先なワタシなのでした。


Mノベルズ様より、書籍発売中です。

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